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オマケの魔猫と人の子   作者: 原田 和


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8/9

8. 時々、今年も七草




くつくつ、くつくつ。

小さな台所から、お米が煮える音がする。暖炉の前で休んでいたパクたちも顔を上げ、すんすんと鼻を動かす。巣は、おいしい匂いで満たされ、これだけで温かい気分になる。


 「にゃ、」


 「にゃん」


今日はおかゆの日だ。ゴロゴロと喉を鳴らし合い、小気味良い包丁の音に耳を傾ける。


 「なーぁ、にゃ」


 「ぶにぃ」


前に作ってもらった事がある、七草がゆ。急だったので代わりの薬草を入れて七草にしたが、今回は頑張って探し、全部揃えることができたのだ。今年は雪も少なく、動きやすかったのもあるだろう。パクたちはででんと胸を張り、互いの頑張りを称える。


 「にゃむにゃ、むぅ」


 「んにゃ。んにゃー…」


ソラが愛読書の図鑑を開く。

せり、なずな、ごぎょう、ハコベラ、ホトケノザ、すずな、すずしろ。

すずなはカブで、すずしろはだいこん。それらはファスが王都の市場で手に入れてきた。トオヤがとても協力的で、探すのを手伝ってくれたそうだ。

ファスが作るおかゆはおいしい。トオヤが好きになるのも分かる、とパクたちは頷き合った。今日、きっと来るに違いない。


 「にゃ?」


そう思っていたら、人の気配。しかしこれは…と首を傾げ、とりあえずファスを呼ぶ。同時に、てててん、てててんと戸を叩く音。


 「あれ、この音……」


 「お邪魔するよ」


にゃいにゃー!

やはり、シド・トーリミウスとレオたち魔研組であった。







 「聖誕祭から、ですか…」


 「そう、聖誕祭からぶっ続けでね。もう馬鹿なんじゃないかって思う」


珍しくお疲れ顔のシドの前に薬草茶をそっと置き、ファスは腰を下ろした。おやつは出さない方がいいだろう。レオたちも遠慮して、心配気に師を見上げている。

聖誕祭は、年に一度のお祭りだ。王都の街を華やかに飾り、ささやかでも御馳走を用意し祝う……のだが、今年は何を思ったか、このまま新年まで駆け抜けようぜ!というお偉い誰かの提案で、王都は今もお祭り騒ぎらしい。王都民はノリが良かった。


 「城内も魔研内も王都の街中も、人が倒れていない場所は無かったよ……」


 「そ、それは……大変な事になるのでは…」


 「自制できているのがチラホラ居たから、なんとかなるんじゃない?流れに身を任せ過ぎるのも、どうかと思うけどね」


時間が経つにつれ、薬師ギルドがどえらい事になりそうな予感がするファス、薬を作っておくべきか悩む。そして、カイ達は大丈夫だろうかと心配になってしまった。

シドもしぶしぶながら付き合う羽目になり、慌ただしい年越しであったそうだ。レオたちはその空気を察し、巣で大人しくしていたのだが、酒の力で猫好き達の欲望が解放。図書室へ行く道で襲われかけ、シドに助けを求め、事無きを得たらしい。

大変だったね、とパクたちは労りのモフモフすりすり。ファスも優しく撫でていた。


 「元気が有り余っているようだから、少し多目に仕事を割り振ったら泣いて喜んでいたよ」


 「そ、そうですか…。シドさんもお疲れ様です。あの、よかったら、おかゆ食べませんか?丁度できた所です」


パクもレオたちに勧めている。七草がゆは食べた事がないレオたちは興味津々、シドは悩んでいる。疲れ果てているせいか、食欲が沸かないのだ。


 「何も食べないのもよくないですから、少し食べてみてください。みんなの分も入れるね、待ってて」


ファスはにこりと微笑み、台所へ。パクたちはテーブルを拭き、お皿の準備だ。お鍋からふわりと漂う、優しい匂い。爽やかな野草と、甘いお米の香り。小さなお皿によそい、それぞれの前に配られる。


 「熱いので、気を付けてくださいね」


 「ありがとう、いただくよ」


レオたちも、木さじを手にいただきます。ふうふうと冷まし、ゆっくりとすする。

ほのかな塩気、カブとだいこんは柔らかく食べやすい。


 「にゃいいぃぃぃ……!」


レオたちも気に入ってくれたようだ。ゴロゴロ大合唱に、おいしいだろう!と、ででんと胸を張るパクたち。その横で、シドもゆっくりと口に運ぶ。スルスルと食べてしまう、優しい味だ。


 「おいしい……。そうか、僕はこの味を求めていたのか……」


 「おかわり、ありますよ」


 「いただこうかな」


少し、顔色が良くなっている。よかった、とファスは安堵し、おかわりをよそう。

これだけでは足りないかもしれない、付け合わせに何か作ろうかと思案していると、戸が叩かれた。


 「ファスー、き………何で居るんだよ」


 「それが君流の新年の挨拶かい。気分転換だよ、王都の惨状は君達も知っているだろう」


 「あぁ…。それだと魔研も、変わりはなさそうだなじゃねぇ、ファス!」


 「はいっ?!」


やってきて早々軽く火花を散らしたカイだが、素早い動きで直立していたファスを腕に収めた。


 「あー、しばらくぶりのファスの感触ぅー……」


確かめるようにぎゅうと腕に力を込め、頬ずりするカイは非常に満足気。対するファスは、赤くなりながらも大人しく寄り添っている。パクたちはおかゆに専念。揃って目を丸くしていたレオたちも、それに倣う。おかゆは温かい内に食べるのだ。


 「七日前にも会っただろう。お邪魔する」


 「その時も同じ事言ってたよね…。お邪魔しまーす、師匠もレオちゃんたちも来てたんだねぇ」


もう日常と化し、慣れてしまったトオヤとうららも入ってくる。小さな巣は満員だ。ファスは慌てて離れ、準備するべく台所へ。食べ終わった魔猫たちはテーブルを譲るべく、お皿を運んで行った。






……おかゆを噛みしめる三人は何も言わないが、おいしいのだと表情で分かる。

追加で出した卵焼きと煮豆も好評で、皿はすぐに空になった。ファスはそれを嬉しく思いながらお茶の用意。横で手伝うパクとレオもご機嫌だ。


 「…今年もみんなと一緒に、楽しい事がたくさんあるといいな」


 「にゃあ、にゃ!」


 「にゃいにゃー」


 「うん、また、お食事会しようね」


ささやかでも、大切な人たちが喜んでくれるなら。

今年も頑張ろう。ファスは決意を新たに、パクとレオと仲良く笑い合った。






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