7. 時々、ないしょの贈り物
カチャカチャと音がする。今日は薬作りをすると決めたパクたちは、それぞれ手分けして準備中。
図鑑で材料を確認し、倉庫へ取りに行く。器具をテーブルに広げ、不備がないかしっかりチェック。持ってきた薬草を全員で選別し、にゃあにゃあと開始。
いつもはそこに一緒に居る筈のファスの姿は無く、彼は彼で小さな台所に立ち、何か作っている。
明日は聖誕祭。大好きな家族に、日頃の感謝を伝えたい。
そう考えたファスとパクたちは、それぞれ別で動き始めた。ないしょで作って驚かせたいと、お互い考えたからだ。
とはいえ、小さな巣の中。隠しても、割とすぐに気付かれるのがいつもの事であったが、今回は動き出したのが同時。更にお互いがお互いの動きを見て、こっそりと準備していたので、まさかの気付いていない奇跡が起きていた。
「…いちごのドライフルーツ、喜んでくれるかな……」
微笑むファスの手には、市場にて手に入れた小さな小瓶。それには、パクたちお気に入りのいちごがスライスされて詰められていた。見つけた時は、思わずカイの手を離して屋台に飛びついた程。
毎年人気らしく、値段もお高かったので断念しかけたが、カイの助力で手に入れることができた。彼には感謝しかない。まぁその後、嬉しいのは分かるがいきなり離すなと、軽く注意されてしまったが。
「これを生地に練り込んで、今年は生クリームも準備したし…飾り付けもできそう」
いつもは匂いで察知され、様子を見に来るが……。そっと覗いた先には、にゃあにゃあと真剣に薬を作るパクたちの姿。集中して、気付いてないようだ。ファスはよし、と頷き、手早く動き始めた。
「にゃ、……」
ファスは台所で何か作っていて、此方には気付いてないようだ。
そっと窺っていたパクたちは頷き合い、魔法を駆使し手早く、しかし正確に作り続ける。
作っているのは、肌を守るクリームだ。家事を一手に引き受けて、いつも巣をキレイに快適にしてくれるファス。そんな優しいファスの手は、カサカサしてしまう時期がある。ひどい時は、あかぎれになって。
パクたちは、こっそり薬草群生地にてホワンソウを手に入れていた。これでファスのお肌を守る薬を作るのだ!……と一致団結。そして今、完成に向かっている。
温度を間違えないよう慎重にお湯を作り、少しの配合も間違えないよう薬草を量る。ほんのり甘い香りが漂い、ホワンソウの薬液が充分出た所を見計らって、ゆっくり混ぜ合わせていく。薄黄色の、柔らかいクリームの出来上がりだ。
騒ぐ訳にはいかないので、パクたちはサイレントニャーで喜び合った。
「にゃんにゃ、にゃ、……」
しかしこれで完成ではない。濾し器にクリームを入れ、更に滑らかにしていく。入れ物はいつもの瓶だが、これをキレイに包むのだ。
「なー……」
「ぶにぃ……」
これが、パクたちにとって一番の難関だ。器用だといっても、人間並にできるわけではない。前に花瓶をもらった時、キレイな紙にキレイに包まれていたのを見た。あれぐらいできれば、とパクたちは肉球を見下ろし、難しい顔になる。
「にゃむむ、むぅ」
「ん、んにゃっ」
迷っていては、気付かれてしまう。意を決して、用意しておいた大きな、柔らかい葉っぱに包み始める。
破れないよう、そっと隙間がないように包み、紐で結ぶ。偶に手に入るリボンを切らしていたのは無念であったが、この紐だって、パクたちが気持ちを込めて捩ったものである。
慎重に、傾かないように、きゅ、と結び終える。できた。
「……――…!」
パクたちはもう一度、サイレントニャーで喜び合った。
できた、と声を上げそうになり、ファスは口を押えた。
目の前には、少し大きめのケーキが六つ。真っ白なクリームを纏わせ、花蜜に漬けておいたいちごがちょこんと乗っている。
勿論、これだけではない。シチューのパイ包みに揚げ芋、温野菜。全部パクたちの好きなものだ。飲み物はいつもの薬草茶。喜んでくれるかな、とファスはうきうきと運ぶ。
「みんな、お待たせ」
「にゃあ!」
薬作りも終わっていたようだ。器具を片付け、テーブルを綺麗にしてくれていた。
「一日早いけど、聖誕祭のお祝い。みんなの好きなの用意したよ」
「にゃあぁぁぁ……!」
まんまるの目が輝く。ごちそうだ!と喉を鳴らしてくれる。ファスはにこりと笑った。
いつも、一緒に居てくれてありがとう。そう告げれば、ぎゅうと抱き着かれ、抱えきれないほどの、ありがとうが返ってくる。
嬉しくて、ぎゅうと抱き着き返すファス。にゃあにゃあモフモフ。巣には、普段以上の優しい空間が広がっていた。
……パクはむくりと起き上がった。巣の空気もキン、と冷えた深夜。ファスの寝息が聞こえる。
ゆっくりと見回すと、光る目が一つ二つ、と増えていく。みんな起きて……いると思ったら、オネムだけ幸せそうに、ファスの胸元で眠り続けている。
顔を見合わせたが、ファスも起こしてしまってはいけない。音を立てずにベッドから出ると、隠していたプレゼントを抱え戻る。
どこに置こうか。きょろきょろと見回し、枕元の小さなテーブルへそっと置いた。此処ならすぐに気付いてくれる筈。くるる、と喉を鳴らし、再びベッドの中へ。驚くかな、喜んでくれるかなぁと、パクたちはわくわくだ。
驚いたと言ったら…と、しらゆきがケーキおいしかったと思いを馳せる。いちごのドライフルーツが入った、ふわふわケーキ。甘酸っぱさがぎゅ、と詰まって、生クリームとも合っていた。パクたちは頷き合う。
いちごはいつもそのまま食べていたので、ドライフルーツにした事はない。
作ってみようか。ガマンできるかなぁ。
……そう話しながら、パクたちはいつしか眠りについていた。
「……それでこれが、パクたちからのプレゼントなんです…!」
「ほぉ」
「すごく嬉しくて…!使い心地もいいんですよ、カイもどうぞ」
「ほぉ」
プレゼントを持ってやってきたカイは、モフモフたちに先を越され、生返事しかしていない。満面笑顔で喜ぶファスは可愛いが、果たしてこれ以上の笑顔を引き出せるだろうか。
枕元にそっと贈るなんて、粋かコノヤロウ。…と、とても満足気なパクたちを眺める。
「…あー、ファス?俺も、これ」
「え?……え、お、俺に、ですか?」
「恋人になって、初めての聖誕祭だしさ。けどモノがちょーっと、パクたちと変わらないというか…」
ファスが気兼ねなく使ってくれそうなもの、とカイは歩きで王都を制覇する勢いで探した。その結果、まさか被ってしまうとは。
綺麗な包みから出てきたのは、保湿クリーム。薬師ギルドお墨付きの物である。その効果は、肌悩みを持つ多くの者達が認める一品。その分、値段も張る。
その桁を知るファスは固まってしまったが、嬉しくない訳がない。じわじわと赤くなり、ぎゅう、とカイに抱き着いた。
「あ、ありがとう……。大事に、使います……!」
「……!はは、よかった喜んでくれて」
「でも、ごめんなさい、その、俺、いつものごはんしか」
「いいって、いつも通りが一番いい。ファスがこう甘えてくれるのがスゲー嬉しいし」
……細ーく開けた木戸から見守っていた、実は居たトオヤとうらら。
Sランクの密かな頑張りを知っていた二人は、ヨカッタネ、と拳を握っていた。
パクたちの好物を中心に作ったごはんと、ケーキ付き。←いつものごはん
カイ達から見れば、立派なあったかごはん。
いつもの、って言えるファスさんてすごいよね、と呟いたうららが居たそうな。




