4. 時々、お月見 十日夜
十日夜は十一月二十九日らしいです
三回目のお月見。
今日のお月見は、今までとはちょっと違う。今年の豊作を感謝し、また来年の豊穣を願う日なのだ。
普段から、山の恵みに助けられているファスとパクたちは、神様に喜んでもらおうと準備をしていた。
「ここでいいかな」
「んにゃ、んにゃにゃ、にゃあ」
「じゃあ、台を置いて……」
そっと窓近くに置かれた台の上には、みんなで飾った秋の草花。こうして飾って、神様をお迎えしようというソラの案だ。ちょいちょいと手直しすると、ソラは満足気に喉を鳴らす。
「きっと神様も喜んでくれるよ。ソラありがとう」
「んにっ!」
パクたちはお供え物を準備している。大小のカゴに食材を飾るように盛り、薬草束も見栄えよく。
「にぃ、にゃんにゃ」
遠目で確認していたしらゆき、綺麗に見えるよう努力は惜しまない。オネムがそっとおいもをずらして追加すると、しらゆきは頷いた。良くなったらしい。あとは、ケーキやクッキーも飾る。
甘い匂いに負けそうになるが、パクはキリっとした顔で我慢。そっと隣に置いた。
「ぶにゃにゃ」
「なーぁ、にゃ」
はやてとダイチが持ってきたは、みんなで集めた落ち葉やどんぐり。これも飾りたいと台を見るので、ファスはカゴを受け取り、しらゆきが手直ししてからそっと並べる。色鮮やかになって、全員ゴロゴロ喉を鳴らす。これでお供えは完了だ。
「でも……残念だね」
「にゃーあぁ」
外は、雨。朝から降り続き、パクたちの予報も、残念ながら夜も雨。三回目のお月見は中止となった。
レオたちも残念がっていたが、こればかりは仕方がない。無理をして、体を冷やしてしまったらいけない。今回は巣の中で、それでも神様への感謝はできる。ファスはそっと目を閉じる。
…恵みに感謝を。生かしてくれる事に感謝を。
パクたちも一緒になって、ちょこんと頭を下げる。静かな巣に、しとしとと雨の音が入り込む。
「…これからも、パクたちと過ごせますように」
ファスのあったかい想いは、ぽわぽわからも伝わり、パクたちは幸せを感じてゴロゴロ。優しく撫でられ、更にゴロゴロ。
「ごはんにしようか」
「にゃー!」
今日は何だろう。わくわくしながら、全員でお手伝い。
テーブルをささっと拭いて、お皿を配る。それぞれのカップにお茶を注いでいると、ファスがほかほかのごはんを運んでくる。
「ありがとう、今日はシチューのパイ包みだよ」
「にゃああぁぁぁ…!」
全員、大好物だ。こんがりパリパリのパイに、煮詰めてとろっとしたシチューがとてもおいしいのだ。
熱過ぎると食べられないが、ファスは絶妙な温かさで出してくれる。
「はい、どうぞ。まだ熱いから、ゆっくりね」
全員、キラキラの目でスプーンを持って、いただきます。
まずは外側だけを口に入れる。パリパリさくさくで、六本の尻尾がピンと立つ。それからザクっと割り、シチューと絡めてパクリ。それからはにゃあにゃあと止まらない。
ファスは笑顔で見守り、おかわりを用意しておく。こうして食べてくれる家族が居るのは、とても幸せだ。
もう一度お供えに目を向け、ファスはそっと頭を下げた。
「――での?!もう、わらわは嬉しゅうて嬉しゅうて!!」
「お主、復活したのか」
「あれほど純粋な感謝と祈りを、わらわに捧げてくれる人の子がまだ居ようとは……!!あの魔猫たちも魔物というが、どうして!!素直なイイコたちではないか!よし決めた、わらわはあのコらに永久の豊穣を約束しよう!!」
「落ち着かんか」
「まず手始めに、あの棲み処としている山に実りをざっくざっくとだな、」
「落ち着けというに。ニンゲンが溢れたら、棲み処を変えざるを得なくなってしまうじゃろうが」
「――はっ!……それもそうじゃ、わらわはそれで失敗しておる…。なればどうしたら良いのじゃ……この溢れる喜びを…。もう雨雲は割ってしまったし……」
「割ったのか、お主」
「あ、お月様見えてる。雨止んだんだねぇ」
「にゃあ!」
時々、異界散歩の話にちょろっと出てきた、豊穣のカミサマ。
嬉しくて復活。




