11. 時々、後日談
遅れましたが、贈り物の行方のお話。
感謝を込めて、ファスが作ったお菓子の詰め合わせ。
無事、当日に受け取ったカイ達は、残りの贈り物を届ける役目を請け負った。うららは、師とモフ弟子たちへ。男二人は探索兄弟へと、それぞれ二箱抱えて。
冒険者ギルド。
相も変わらず騒がしく、しかし今日は酒場が臨時休業になっていた。酒目当ての同業らは文句を言いつつ、しかし怒れるマスターと目が合うと、素早く逃げていく。
そんな中やってきたカイとトオヤ。カイはギルマスに呼ばれ、贈り物を預かったトオヤは、さてあの兄弟はと見渡す。……掃除道具片手の兄弟と目が合った。マスターに捕まったらしい。
「何やってるんだ。まさかと思うが、お前達が荒らしたのか」
「ちーがーうっての。俺ら酒は飲んでも荒らしはしない主義よ。荒らした奴らは修理代稼ぎに行ってる」
「茶化したらおっさんに捕まった」
「それはお前達が悪いな」
壊れたテーブルや椅子は端に寄せられ、割れた酒瓶や食器類を拾い、小さな破片を箒でかき集める。モップ掛けも終盤に差し掛かり、やっと一息つけると兄弟は揃って体を伸ばした。
何やかんやと言いながらも、兄弟は最後まで手伝っている。こういう所が、信用されているのだろう。
「礼だっつって、タダ酒飲ましてくれるかもしれんじゃん?」
「メシ食いたい」
下心はあるが。過度に要求しないだけ、マシかもしれない。
トオヤは預かった贈り物を、二人に手渡した。
「ファスからだ。昨日が感謝を贈る日だと知って、態々お前達にも作ったそうだ。今度会ったら礼を言っておけ」
「マジで?!!春になったらねこじゃらし大量確保しとく!!」
「それで嫌われたのをもう忘れたのか」
「メシか!!?」
「メシじゃない。菓子だ」
「うまい!!」
「ちゃんと味わえ」
オーベルはもうケーキを頬張り、エルドはホクホク顔で中を見ている。意外だがこの兄弟、甘いものもいける口らしい。曰く、子供の頃は菓子なぞ滅多に食べられず、こうして稼ぐようになっても買う余裕は無かったのだとか。……恐らく、酒の味を覚えてしまったからだろう。
「うわー、マジ嬉しい。前食った菓子美味かったから、また食いたかったんだよー」
「うまい!!」
兄弟の胃袋は、もうすっかり掴まれてしまったらしい。恐るべし、ファス。
「おっさん、休憩しようぜ。お茶入れてくれよ」
「そんな優雅なモン酒場にある訳ねーだろ。ほらよ水。俺にも食わせろや」
「え、嫌だって。これは俺らが貰ったモンだし」
「おっさんはな、昨夜から片付け通しなんだよ。お前らより遥かに疲弊し、糖分欲してんだよ」
「お疲れ、おっさん」
「おっさんお疲れ!」
爽やかな笑顔で拒絶する兄弟を、おっさん、いや、マスターは全力で追い回す。
トオヤは最後まで付き合わず、静かにその場を後にした。
弟子から渡された贈り物、二箱。
一つは自分、もう一つはレオたちだろう。おいしい匂いを察知し、レオたちが箱の周りに集まる。まんまるの目は輝いて。
シドは一つ頷き、箱を開けた。
「にゃいぃぃぃ……!!」
「……にゃ!」
焼き菓子の詰め合わせに、レオたちの目は更に輝き、喉をゴロゴロ鳴らし始める。もう一つも同じだ。
いつもお世話になってます、だって。と弟子は言っていたが……、
「お世話って、此方の台詞なんだけどね」
恋人たちの日、愛の日。広く知れ渡り浸透してはいるが、正直シドは存在を忘れていた。一日遅れだが、届いたこれでやっと思い出したくらいである。もう一度、確認してみる。やはり、レオたちが喜び踊りだすのではないかと思う程、詰められている。実際、レオたちはうきうきと体と尻尾を揺らしていた。
シドは口元を緩めた。
「お茶にしよう、手伝ってくれるかい?」
「!にゃい!」
待ってましたとお皿を取りに走っていく。それを見ながら、シドは片方の詰め合わせを片付けようとしたが……。少し考え、そのまま並べておいた。
「あ、お菓子だ!うれしー!ありがとう誰ー?」
仕事も一段落し、休憩室にやってきた研究所職員は、すぐに気付いた。先に来ていた者は、もうお茶と共に何個か確保している。
見た所市販ではなく手作りのようだが、此処の者ではないとすぐに分かった。全員、壊滅しているからだ。
作る工程は間違っていない。材料も間違ってはいない。なのに、何故か最後は炭化した姿。フシギダネ、と職員達は首を傾げ合って終わる。
「さぁ……そういえば誰だろ。てっきり神様からの贈り物だと…」
「しっかりしろ!!よくそれで食えたな??!」
「おいしいよ。甘いのが疲れた脳に染み渡るー……」
埒が明かないのでお茶を持ってきてくれたもう一人に訊けば、なんと冷徹上司、シド・トーリミウスだというではないか。開いた口が塞がらない。
どう見ても手作りだ。え、まさかのあの人が手ずから……?と、動揺を隠せず目を泳がせる。
「知り合いがくれたのを、うららちゃんが持ってきたんだって。でもって、量があるからって、俺らにも分けてくれたんだ」
「あ、あー、そういう……納得。え、うららちゃんが作ったのじゃないよね?」
「ははは、だったら今頃俺ら爆発してるよ。大丈夫大丈夫」
何気に失礼な職員達。誤解されているが、うららが爆発させたのは台所であって、人ではない。
じゃあ遠慮なく、と全種類確保し腰を下ろす。目の前の同僚が、随分締まりない顔であるのに気付き、首を振った。
「間接的な御土産に期待なんて……しない方がいい」
「違うわ。そこまで脳内花畑じゃねーわ、無駄な決め顔ヤメロ。めちゃ失礼な貴様らに自慢してやる。これを持ってきたのは誰だと思う?」
「トーリミウス様でしょ?」
合ってるが違う。とドヤ顔見せる同僚に、さっさと話せとクッキーを奪い取る。美味しいので止まらないのだ。
「レオちゃんたちが持って来てくれたんだ」
ぴし、と休憩室の時が止まる。
「トーリミウス様の後ろから、お菓子の箱を持って現れてだな。一生懸命俺の前まで運んでくれて……、『はい、どうぞ』ってな感じで手渡しよ。俺失神するかと思ったね。いや、落とすまいと踏ん張ったけどな。礼を言ったらまた、嬉しそうに胸張ってゴロゴロしてんの。マジ可愛いマジ癒しマジ撫でくりたかった。トーリミウス様居たからできなかったけど。あーモフりたかったぁぁぁ」
「なにそれ羨ましい」
「なにそれズルい」
「仕事頑張った俺へのごほうびかな」
ドやあぁぁぁ……と、勝ち誇った顔の同僚の皿から、お菓子を搔っ攫う。残っていたお菓子も、テーブルから消える。悲鳴が上がった。
さくり。さくさく。
レオたちはお菓子を頬張り、幸せな空気を味わう。長く保存できる魔法のカゴがある御蔭で、大事にゆっくり食べられるのも嬉しい。
「み、みみぃ…」
「なお、なぅー」
あともう一枚くらい食べられる。でも、明日のお楽しみに取っておこうか……と、悩むクリームとかきを見て、レオは空のお皿に目を落とす。
「にゃい、にゃい」
「ん、おかわりかい?一つずつだよ」
「にゃい!」
「そういえば、さっきも御礼を言われたよ。職員達の口にも合ったようだ」
それは嬉しい。レオたちは顔を見合わせ、喉を鳴らす。
ファスのお菓子はおいしいのだ。それを分かってくれる人達が居て、レオたちは何だか誇らしい気持ちになる。パクたちも、きっとこんな気持ちなのだろう。
「お返しを用意しなきゃね。……此処で育てた薬草を持って行こうか」
にゃい!と一斉に頷いた。きっと喜んでくれる。
おやつの時間が終われば、また勉強だ。レオは外を見て、鼻をヒクヒクと動かす。
もうすぐ、寒さも抜ける。春がまた一歩、近付く。
また、一緒に薬草採りができる。その日を楽しみに、レオはクッキーをぱくりとかじった。




