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オマケの魔猫と人の子   作者: 原田 和


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10/12

10. 時々、前日準備




恋人たちの日、という日がもうすぐあるらしい。

今年は何にしようかな、と呟いたうららから教わった。その日は恋人たちにとって特別らしく、互いにプレゼントしたり、デートしたり観劇を見に行ったりと、とにかく王都が賑わうそうだ。

けれど恋人限定という訳ではなく、家族や友人、仲間等々で集まり感謝を伝え合う日でもあるようだ。

それを知ったファスは、早速準備に取り掛かった。贈りたい人は、たくさん居る。


 「やっぱり、お菓子かな」


自分ができるのは作る事。材料を倉庫から運び、一つ一つ確認して何ができるか思案する。

凝ったお菓子は作った事はないが、挑戦してみようかと悩む。しかし、失敗したら材料が無駄になってしまう。ここはいつも通りにと、腕まくり。

何ができるんだろうと、パクたちはわくわくと顔を出す。


 「みんなにはケーキ、クッキー……。色々作って詰め合わせにしよう」


まずはスポンジケーキから。ふわふわになるまで、ひたすら混ぜる。時折様子を見てツノを確認。それから粉をふるい入れ、さっくりと混ぜ小さな皿に入れていく。ケーキ型がないので、パクたちの深皿を代用だ。

鉄板に乗せ、温めておいた窯へ。焼いている間に、生地を作る。

ファスは段取りを決め、てきぱきと動きどんどん作っていく。その様子に、たくさんのお菓子……!と目を輝かせるパクたちは、ゴロゴロ喉を鳴らし合った。






もうこんな時期か。

ハートが描かれた看板を見、トオヤはそんな感想を抱く。自分には縁がないものと認識していたが、今年は何か贈るべきかもしれない。いつも栄養ある食事と癒しを提供してくれているからだ。

とはいえ、高価な物は受け取らないだろう。食べ物はよく差し入れている。いや、いつも通りの方が……と、割と真剣に考えながら、店を見回していると。


 「トオヤだ。何してるのー?買い物?」


 「うららか。あぁ、買い物ではあるんだが。世話になってるし、今年は何か贈ろうと思ってな」


 「あ、ファスさんでしょ。私もそう思って来たんだぁ」


うららも同じ考えに至り、けれどまだ見付けられていないという。


 「定番はお菓子だけどさ、パクちゃんたちが食べないでしょ?市場でお野菜、とかは変わらないし」


どんなに美味しいと言っても、パクたちはファスが作ったものしか食べない。なので、食材そのものの方が喜んでくれるのだ。それ以外となれば、


 「そうだ、本はどうかな。新しい魔法学とか、薬草学。ううん、意外と物語も読んでくれるかもっ」


 「確実だろうが…。古本屋で探すのは、少し時間が掛かり過ぎるかもな」


恋人の日は明日だ。そして今は、午後も遅い時間。広い古本屋で探すとなると、夜になってしまう。遅くなっては、うららは心配されてしまうだろう。


 「俺はこれがいいんじゃないかと思う。うらら、持ってみてくれ」


 「包丁?はい、持ったよ」


二人が入った店は、台所用品を扱う専門店であった。大型の鍋やボウル、皿等が店頭に並ぶ。奥には包丁が並べられ、中々の数だ。


 「戦闘で使うものじゃないんだぞ。普通に持て、普通に」


うららは台所出禁の身だ。それでも、正しい持ち方は心得ているだろうと思っていたトオヤだが、違ったらしい。彼女の構えは、どう見ても戦闘のそれだ。


 「重いか軽いか、持ちやすいかだけ教えてくれ」


 「うん、軽いよ。持ち手が滑りにくいようになってるし、これなら私でも扱えそう!」


 「振り回すんじゃない。それは食材を切る為のものであって、武器じゃないんだ」


危ないので、さっさとうららから回収。


 「大事に使っているようだが、少し切り辛そうにしている時があったからな。買い換えた方が、手入れも楽になるだろう」


 「よく見てるね、トオヤ。……ねぇねぇ、薬草用ってあるよ!これもどうかなぁ」


 「……いいな。じゃあこれも」


店主に訊けば、薬師ギルドからの要望で作ったものらしい。店頭に出してみた所、小回りが利いて使いやすいと評判になり、定番化したそうだ。


 「愛情を贈る日に刃物って……いいのかな?」


 「互いを守るようにと、短剣を贈り合う者も居ると聞いたことがある」


 「へぇぇ……じゃあ、私達はおいしいごはんと、よく効く薬の為に!」


 「まぁ、間違ってはないな」


ともかく、いいものを買えた。二人は笑い合うと、それぞれの家路についたのだった。






もったりとした音に変わると、もう一息。

根気よく混ぜ続け、ようやくピンと白いツノが立った。ファスは思わずにこりと笑う。

冷ましたスポンジを切り、クリームを丁寧に塗っていく。刻んで花蜜に漬けておいたドライフルーツを乗せ、またクリームを塗り……一つ一つ丁寧に仕上げ、最後に大事に取っておいた、いちごのドライフルーツをちょこんと飾る。


 「にゃああぁぁぁ……!」


 「にいぃぃぃぃ……!」


パクたちが、キラキラの目で覗いている。もう少し待ってね、と微笑むと、パウンドケーキを切り分ける。これは刻んだ木の実が入っている。それぞれをお皿に盛り、お茶の用意。

パクたちは急いでテーブルを片付け、布巾でささっと拭き、カップを並べてセッティング。

お菓子の盛り合わせを運んできたファスは、にっこり笑う。


 「ありがとう、おやつにしようか」


歓声が上がった。たくさんのおやつに喉が鳴りっ放しだ。

ケーキも全員に配られ、スプーンを持っていただきます。まずはふわふわ生クリームケーキだ。


 「にゃあぁぁぁぁ……!」


柔らかで、クリームとフルーツの甘酸っぱさが丁度いい。何個でも食べたくなるが、これはひとり一つ。パクは味わう為にゆっくりと口を動かす。みんなも同じ考えのようだ。盛り合わせからそれぞれ取って食べている。どれもおいしい。全員の尻尾がピンと立ったまま、にゃあにゃあと豪華なお茶会を楽しむパクたちだった。







 「にゃ?」


すっかり満たされたパクたちは、片付けのお手伝い。

その最中、盛り合わせには無かったケーキを見付け、首を傾げる。ほんのり緑に染まったケーキから、早春の香りがする。これは、ヨゴミだ。


 「にゃにゃにゃ」


 「そう、ヨゴミを生地に練り込んでみたんだ。うまくできてるといいけど……みんな、まだ食べられる?」


にゃあ!と揃っていい返事。ファスは小さく切ると、甘さ控えめだよと言いながら配る。という事は、これはカイとトオヤ用なのだ。早速口に入れ、尻尾をピンと立てる。全員、こっちも好き!ともくもく食べ続ける。

味の邪魔にならない程度の、ヨゴミの香り。こういうさじ加減が、本当に上手だ。おいしいと伝えると、ファスはホッとしたように微笑んだ。


 「明日は、大事な人に贈り物をする日なんだって。お菓子を詰めて、みんなに配ろうと思って。一日早いけど、パクたちが喜んでくれてよかった」


 「にゃっ」


知らなかったパクたちは、揃って目を丸くする。知っていれば、自分たちもファスに贈り物できたのに。


 「パクたちが喜んでくれるのが、一番嬉しいよ」


そう言ってくれたファスに、パクたちは感謝を込めて、ぎゅぎゅっと集まる。

来年は絶対贈ろう。優しくて大好きな子に、とびっきりのありがとうを。


 「にゃ、にゃにゃあ!」


 「こちらこそ、ありがとう」


モフモフぎゅうぎゅうと、ファスとパクたちは幸せそうに笑い合った。






……次の日。

トオヤとうららの二人からもプレゼントされたファス、嬉しさのあまり見えない早切りを披露し、三人の度肝を抜かせたそうだ。







明日はバレンタインデーですね。節分に重きを置いて、豆ばっか食べてました。(豆買い過ぎた)

読んでくださる人達に感謝を込めて、明日本編の方におまけ話を投稿します。

時間がある時に読んで下されば幸いです。


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