第7章 【冬】ふたりきりの冬支度、手のぬくもり
冬の気配が、リビエ村にひっそり忍びよってきた。
朝の空気はキーンと冷たくて、畑にはうっすら霜が降りている。
軒先の干し柿がゆらゆら揺れ、遠くの山のてっぺんは白く雪をかぶっていた。
ピッカルドの家でも、冬支度の季節がやってきた。
「パパっ! 今日はふたりでおうちの冬支度やろうねっ!」
モカナはあったかそうな手袋をぱちんっとはめて、元気いっぱい。
ピッカルドは腹巻きをぎゅっと締めて、うなずいた。
「……うむ……冬……腹弱勇者にとって最大の敵……冷気との全面戦争や……!」
モカナはくすっと笑った。
「パパ、めっちゃやる気だねっ! でもね、今年はわたし、ひとりでできることいっぱいがんばるんだっ!」
その言葉に、ピッカルドは目を細めた。
「……頼もしいな、モカナ……なら父ちゃんは副官として、おまえのサポート全力でいくで」
* * *
朝のやわらかな光が差しこむ中、まずは窓に断熱シートを貼るところからスタート!
「パパっ、こっち押さえててねっ!」
「うむ!」
モカナはしっかり位置を確認して、ぴたっとシートを貼っていく。
ピッカルドは静かに手伝いながら、娘の背中をじっと見つめた。
「……成長したなぁ……去年は届かんかった場所も……今はおまえの手が届いとる……」
「えへへっ、だって去年パパが教えてくれたもんっ!」
次は薪運び。
「パパ、ちょっと重い薪はわたしががんばるねっ!」
モカナは小さな体で薪をしっかり抱えて、えっちらおっちら。
「……うむ……娘のたのもしき姿に、父ちゃん……胸が熱なるばかりや……」
薪の山の中に、霜のついた冷た〜い薪が混じっていた。
ピッカルドはぴたっと手を止めた。
「……むっ……悪しき冷気が……腹に来る前に……」
「パパっ! その薪はわたしが運ぶっ! パパは乾いてるやつだけお願いねっ!」
ピッカルドはにっこり笑った。
「……さすがモカナ……父ちゃん、もう教えること減ってきたなぁ……」
お昼すぎ。
作業の合間に、モカナがあったか〜いハーブティーを入れてきた。
「パパ、ちょっと休けいっ! ほら、冷えないうちに飲んでねっ!」
ピッカルドは湯気の立つカップを両手で包みこみ、ほっと息をついた。
「……うむ……おまえの心づかいが……何より腹に効くわぁ……」
モカナは隣にちょこんと座って、膝をぎゅっと抱えて言った。
「……パパ、わたしね、今年の冬はパパが心配しすぎなくても大丈夫なくらい、がんばれるよっ!」
ピッカルドは優しく見つめた。
「……そうか……それは誇らしい……けどな、父ちゃんはいつでもおまえの後ろにおる。それだけは忘れんといてな」
モカナはにっこり笑って、こくんとうなずいた。
「うんっ! パパの後ろじゃなくて、いまは隣にいてくれるのが嬉しいけどねっ!」
午後の作業をすべて終えたころには、家の中はぽかぽかあったか〜な空気に包まれていた。
カーテンのすきまから、やわらかな夕陽の光が差しこんでくる。
こたつの同じ場所に入った親子は、肩をくっつけてほっこり。
「パパ、今日も一緒にがんばって楽しかったねっ!」
「……うむ……おまえの成長、見届けるのが……父ちゃんにとってはこの上ない喜びや……」
モカナはにこにこしながら顔を上げた。
「でもね、パパ。いくつになっても、パパにはパパでいてほしいんだからねっ!」
ピッカルドは細めた目で娘の頭をそっとなでた。
「……約束するで。おまえが望む限り、父ちゃんは変わらぬ父ちゃんでおるよ……」
窓の外に雪が舞う夜、親子の手はこたつの中でそっと重なっていた。