第3章 【夏】親子で挑む、小さな畑の冒険
初秋の風がリビエ村を吹き抜けていた。
畑の土のにおいと焼き栗の甘〜い香りが漂う朝。
市場で買い物をしていたピッカルドとモカナのところへ、慌てたマルックじいちゃんが駆け込んできた。
「たいへんじゃー! わしのジャガイモ畑が、ポテトポックルどもに荒らされとるーっ!」
モカナの目がキラキラと輝いた。
「ポテトポックル!? かわいいの? かわいいのっ!?」
ピッカルドは腕を組んでうーんと考えた。
「……見た目は可愛いけどなぁ……腹ん中は……底なしや……」
モカナはにこっと笑って、
「パパのお腹には揚げもの系はキツイもんねーっ!」
ピッカルドは小さく咳払いした。
「……そこは……あんま触れんでええんやけどな……」
* * *
親子はマルックじいちゃんといっしょに畑へ向かった。
朝露にぬれた畑のあちこちに、小さな足あとが点々と続いている。
やがて――
「ぽこぽこっ!」
まあるいポテトポックルたちが顔を出した。
ちょこまか動く小さな手足に、モカナは「わ〜っ!」と声を上げた。
ピッカルドは慎重に観察。
「……数が多いなぁ……無理に追い払うと畑が傷むわ……」
「パパ、ここはまっかせてっ!」
モカナはバッグから甘〜いパンの切れ端を取り出した。
「パン屋のおばちゃんが教えてくれたの! ポテトポックルは甘いものが大好きなんだってーっ!」
ピッカルドはふっと笑った。
「……おまえ、賢いな……父ちゃんはもう教えること、そんなにないんちゃうか?」
モカナはパンを畑の端っこにそっと並べていった。
甘いにおいに誘われて、ポテトポックルたちはぽこぽこと移動をはじめた。
そのスキに、村人たちが簡易ネットをセット!
見事にポテトポックルたちを捕獲!
「モカナちゃん、すごいわぁーっ! 助かったよー!」
「えへへっ、パパといっしょだったから、うまくできたんだよーっ!」
モカナは照れたように笑いながら、ピッカルドの腹巻きをちょこんと整えた。
「パパ、ちゃんと見ててくれたから安心だったもん!」
ピッカルドは優しく娘の頭をなでた。
「……おまえの知恵と優しさ……父ちゃん、ほんま誇りに思うで」
秋風がふたりの間をふわっと通り抜けた。
ポテトポックルたちはパンを頬ばりながら、ほこほことおとなしくしていた。
小さな畑の冒険は、ふたりの絆をひとつ強く結んでいた。