地下陣地構築の変化
地下陣地構築の変化
謎の地下空間の水汲みは、兵士にとって過酷な陣地構築の息抜きであり、希望する者が多かった。
そこで陣地構築作業当番の後は、地下空間の水汲みと探索を行う事になった。
もちろん戦闘訓練もあるが、謎の地下空間での技能取得が優先された。
投石で芋虫を駆除していた兵士達に、命中の技能が備わっていったが、違う行動をとって芋虫を駆除していた兵士には異なる技能が発現した。
棒や石で叩き潰していた兵士には、頑強の技能が芽生え、遠くの芋虫を逸早く発見して駆除していた兵士には、索敵の技能が発現した。
珍しいものでは、芋虫をよく観察して駆除していた兵士には、鑑定の技能が現れた。
頑強を得た兵士は、上官からのビンタが痛くなくなったと報告し、索敵は視界外の存在が感知できるようになったという。
鑑定は物の詳細がわかり、湧き水は汲んで数時間内であれば、疲労回復効果があると報告してきた。
これだけ芋虫を狩り続けているが、一向に減る気配は無かった。
芋虫との遭遇頻度はほぼ一定であり、そういうものなのだろうと無理矢理納得した。
謎の地下空間は広く、やがてさらに下へ続く通路が発見された。
そこには何故か兎に似た大きな生物も現れ、逃げもせず兵士に襲い掛かってきた。
角の生えた兎であり大きさは中型犬ほど、なかなかの速度で飛び掛ってくるのだ。
探索に当たっていた兵士は、驚きはしたが落ち着いて対処し、角兎の攻撃をかわし銃剣で仕留めた。
すると、「位階が上がりました。技能、回避を取得しました」と声が聞こえてきた。
探索に当たっていた兵士は上官に報告。
大きな角の生えた兎も持ち帰っていた。
角兎を鑑定の技能持ちに鑑定させてみたところ、食肉として食べる事が可能だと分かり、食糧事情の低下に悩まされていた硫黄島にとって朗報となった。
兵士の仕事に、食糧確保が加わった。
ちなみに芋虫は食えなかった。鑑定で調べても駄目だった。
角兎の肉は旨く、兵士達は積極的に狩っていった。
やはり狩りつくすという事はないようで、一定の頻度で出現した。
そんな折、狩った角兎を複数背負ったまま、次の角兎を狩っていた兵士が、新たな技能を取得した。輜重である。
輜重の技能は、その技能持ちに収納空間が与えられ、物資をその空間に収納できるというもので、生きている物は入らなかった。
容量1㎥といったところだったが、重さを感じる事が無く、非常に有用だと判断された。
収納された物品は、青い板に表示されたが、ばらばらに収納すると確認と出し入れが大変だとすぐに判明した。
角兎を乱獲していく中で、角兎を狩った後にガラス瓶のような物が残されたことがあった。
鑑定したところ、低級回復薬とわかり、効果は飲んだり傷に掛けたりする事で怪我等を回復するというものだった。
実際に刃物で腕に小さな傷をつけ試してみたところ、たちどころに傷が癒えた。
米軍の空襲や地下陣地構築作業で負傷した兵士にも使用し、その効果が実証された。
しかし、骨折には効果はなかったようだ。
謎の地下空間は、さらに下の階層があった。
3層と名付けられたその階層には、巨大な猪も現れた。通常の猪の倍ほどの大きさであった。
さすがにその大きさの生物を相手にするとなると、投石や銃剣では手こずる事になった。
そこで小銃で銃撃を行う事になったのだが、これもまた効果が薄かった。
負傷者が出て、負傷者を担ぎ撤退を行う兵士が、銃剣で大猪の目を突いたところ脳に届いたのか仕留めることが出来た。
すると新たな技能が芽生えた。治癒魔法であった。
治癒魔法は、それこそ奇跡のような力であった。
その技能を取得した兵士がいれば、低級回復薬と同じ効果が出せた。
当然、大猪も食肉となっていった。
大きいため当初は運搬に苦労するかと思われたが、予想外に兵士達は運ぶ事ができた。
身体能力が上がっていたのである。
謎の地下空間3層を調査していくうちに分かった事が、小銃の射撃で大猪を倒しても位階が上がらない事だった。
また、位階が上がる時にしか技能は取得されず、位階が上がるまでに地下空間でとった行動が、取得される技能に影響する事も分かった。
そして技能は成長する事も判明した。
索敵は範囲が広がり、頑強は大猪の体当たりを止められるようになり、輜重は収納できる容量が増えた。
そして、位階が上がると身体能力が上がる事が分かった。
兵士達の身体能力の向上が如実に現れていたのは、過酷な陣地構築の現場であった。
謎の地下空間で位階を5以上に上げた兵士達は、明らかに一般兵の身体能力と比べ勝っており、過酷な地熱と硫黄ガスの環境下での耐久性も上がっていた。
それにより、1度の作業時間の限界が伸び、身体能力向上に伴い掘削の速度も上がっていった。
予想を上回る進捗具合に、兵団長は地下陣地の規模拡大と強靭化を検討。
兵団司令部はこれに同意し、上層部にこれまでの経緯を報告すると共に、資材搬入のため輜重技能の成長した兵士を本土に送り込む事にした。
報告のための将校と輜重技能持ちの兵士達は、輸送機によって速やかに運ばれた。
飛行場は、身体能力の上がった兵士により整備されており、空襲で穴が空けられても短時間で塞げるようになっていた。
報告を受けた軍上層部は、驚愕する事になった。
俄かには信じられない話であるため、輜重技能を目の前で見せられるまでは鵜呑みには出来なかった。
軍上層部も、謎の空間の解明はともかく、利用価値には同意した。
輜重技能持ちが定期的に行き来する事で、速やかに物資を送り込む事ができる。
また、有用な技能を硫黄島外の兵士にも取得させる事で、戦局の挽回も考えられた。
喫緊の課題は,米軍の潜水艦による通商破壊と、空襲対策であった。
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