硫黄島、地下陣地構築中
2作品目です。よろしくお願いします。
硫黄島、地下陣地構築中
1944年9月。硫黄島にて特異なる地下空間が発見される。
太平洋の戦いにおいて、日本軍は劣勢に立たされていた。
マリアナ沖海戦に敗北し、各地の島嶼は占領されつつあった。
米軍の圧倒的物量を前にして、戦局の挽回は困難であった。
マリアナ諸島と本土の中間にある硫黄島は、飛行場が建設できる戦略上の要地であり、30k㎡程しかない小さな島であったが、地下壕を掘り、縦深陣地の構築を開始し、米軍の上陸作戦に備えようとしていた。
そんな折、兵団司令部予定地付近の掘削中に、広い洞窟が見つかった。
地下20mより、さらに下へと続く洞窟であった。
しかし、硫黄島とは明らかに地質が異なっており、しかも薄っすらと壁が光っていて灯り無しでも見渡せたのだった。
ただちにこの特異な空間を調査する事になった。
あわよくば、活用できるかもしれないとの思惑もあった。
そして程なく、湧き水を発見する。
ただ、30cmほどもある巨大な芋虫が生息している事も判明した。
好戦的な芋虫であり、調査隊が近寄ると、威嚇し攻撃してきたとの事だった。
幸い大きいだけで、兵士の脅威にはならなかった。踏み潰して終わりである。当然軍靴は汚れるので、 投石で排除するようになった。
重要なのは湧き水である。硫黄島では飲料水は貴重であった。
調査の結果、飲料水として問題ないと分かり、活用していく事が決まった。
それと同時に、まだまだ続く地下空間の調査も平行して行われ、さらなる湧き水を発見する事になる。
兵士の仕事として、この特異な空間での水汲みが加わった。
灼熱地獄の陣地構築と打って変わって、涼しい空間での水汲みは人気があった。
この地下空間では物品等を置いておくと、いつの間にか消えて無くなる事が判明した。
芋虫の死骸から兵士の排泄物まで、消えて無くなってしまうのである。
これにより、この空間を倉庫代わりにする事は断念された。
ある時、水汲みの時間を出来るだけ伸ばしたかったのか、芋虫を投石で熱心に駆除していた兵士が、おかしな事を言い出した。
「え?いかい?上がった?」
同行していた兵士がどうしたと声をかけると、「何か声が聞こえた」と言い出した。
俺には何も聞こえなかったぞと同行していた兵士が言うと、芋虫を駆除していた兵士が「状態表示」と呟いた。
すると芋虫を駆除していた兵士の目の前に、青い板状の物が浮かび上がった。
兵士達は上官に報告した。
上官は、青い板状の物を確認するとさらに上官に報告し、最終的には師団長の前に連れて行かれる事になった。
兵士は状況を説明し、聞こえた声を正確に報告した。
それは、「位階が上がりました。技能、命中を取得しました。自身の状態を確認したい時は、状態表示と声に出してください」というものだった。
兵士が出した青い板を、師団長以下司令部の者達が確認。
そこには、左から右に横書きで兵士の氏名、その下に位階1と書かれており、さらにその下には、
攻撃力 10
防御力 10
敏捷値 10
器用値 13
技能 命中1
と書かれていた。
この青い板には触れる事はできず、見る事しか出来なかった。
青い板を消すには、消えろと呟いたり念じれば消す事ができるようだった。
なんとも不思議な現象であり、俄かには信じられないが、実際目の前に表示されているのだから信じるしかなかった。
青い板を出している兵士に、体調などの変化を確認してみたところ、身体が軽くなった気がするでありますと答えた。
技能命中について何か分かるか尋ねると、なんとなく使い方が分かり、命中と口に出しながら投石を行うと、目標が避けなければ確実に命中するとの事だった。
それは小銃でも同じなのかと問うと、なんとなくできそうだと言う。
早速試したところ、驚愕の結果が出た。
目標が見える範囲であれば、全て命中したのである。
九七式狙撃銃と狙撃眼鏡を用いたところ、有効射程内で問題なく命中させた。
この兵士は、射撃の腕は並であったと言う。
それが、静止目標とはいえ遠距離狙撃を確実に命中させる兵士となったのだ。
師団長は、謎の地下空間は別世界であると仮定し、その解明は一旦おいておき、さらなる活用に乗り出す決断を下した。
お読みいただきありがとうございます。
絶望的状況の硫黄島守備隊と日本に、レベルとスキルというチートが付与されました。