プロローグ:死神の誕生
僕のあだ名は、死神。
どうしてそんなあだ名が付いたのか。
僕は知っている。
暗くて、陰気な見た目のせいもあると思う。でも、やっぱり一番の理由は、僕がよく死に出くわすからだと思う。
僕が死に付きまとわれるようになるきっかけは、僕がこの世の空気を初めて吸ったときに起こった。
それは、顔も声も知らない母親の死だった。
あぁ、一度でいいから母さんの声が聞きたかった。写真で見る母さんは、若くて、笑顔がとっても優しいね。もし生きてたら、もっと皺が増えて、笑顔も乾いてるんだろうな。
僕は思う。
今は亡き母親の写真を見て、いつも。
どうして僕は父親似なんだっ?ってこと。
だから鏡の中に、母親を感じることは出来ない。
それが僕は誠に悲しい。
どんなに思っても、僕は母親に会えないのだから、せめて、顔くらい似ていてもいいじゃないか。
僕の顔が少しでも母さんに似ていたら、鏡を見る度に、母親に見守られている気がするはず。
母親を知らない僕にとって、母親の愛情ほど、欲しいものは、ない。
母さん
と僕は呟く。
僕の愛は届いていますか?
こんなことを言うと、マザコンって馬鹿にされるかもしれない。
でも、生憎僕には、そんなふうに馬鹿にしてくれる友達がいない。
物心ついた時から、遊び相手は、自分の影。
なんて孤独なんだろう。
と、まぁ、こんな感じに僕は最愛の母を亡くした。
それからというもの、僕の近くにはいつも死がいる。
幼稚園のとき、目の前で自殺を見た。
乗っていたバスの目の前にいきなり人が飛び込んできたんだ。
小学校1年生のとき、生徒が愛情いっぱい育てた動物が蛇に丸飲みされるのを、見た。僕が餌をやりに小屋の近くによった時、まさしく、その最中だったのだ。
まだまだある。
どれも、思い出したくない、記憶ばかりだ。
死に関する記憶は、ショックが強いからか、細かいところや、決定的な部分は、思い出せない。
でも、周りの人は違う。
いろんな死に出くわす僕を忘れない。
僕の顔を見る度に、いろんな死を思い出す。
なかには、全く関係ないのに、その場に僕がいた、なんて、噂もよくある。
でも、噂ってそんなもんだ。
広がって、小さな間違いや思い込みが、どんどん大きくなっていく。
そうして、僕が小学校を卒業するころに、自然と僕は、死神と呼ばれるようになった。
これが、僕が死神と呼ばれる理由であり、死神というあだ名の僕の原点である。