表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

信心

作者: イプシロン

父よあなたは強かった

 打ちっ放しのコンクリに

  深淵に繋がる穴ひとつ

 窓から見える空すらも

暗灰色の隔離の病室(へや)


()れた頭で書いたのは

「妙とは蘇生の義なり」とは

 ペン字を習ったその筆は

  痴れてなお麗筆だった


 父よあなたは弱かった

  胸裡に刻んでいたものが

   虚しく力のない言葉

    ただの箴言だったとは


 やがてあなたは耐えられず

  家に帰りたかったのか

   窓枠超えて飛び降りた

    二階の窓から飛び降りた

     心のままに飛び降りた



母よあなたは強かった

 開けはなした仏壇の

  前に座って祈ってた

 その曼荼羅に何を見て

子らの幸福祈ったか


病んで痩せた衰えて

 それでも胸で唱えたは

 「南無妙法蓮華経」なり

  肺の病で声もならずに


 母よあなたは弱かった

  心の支えを欲しては

   自分の心を見もせずに

    魔法の呪文に縋ってた

     心のままに縋ってた


 やがてあなたは寂しがり

  家に帰りたがりました

   願い虚しく叶わずに

    あなたの息は立ち消えた



 信心という名の虚飾をば

  見破れなかったその不運

   運命だったと諦めて

     思い出しては涙落つ


 ただの箴言

  ただの文字

   半面だけの言葉に(ほだ)され

    心の支えと思い込み

      心を支えにしなかった


 言葉や文字は

  覚え習った仕来りなのに

   真言(マントラ)だからと感佩し

    心の支えと信じ込み

     心ここにあらずだった


  父よあなたは頑なで

  母よあなたは(くら)かった

 だから私は心だけ

支えにしながら生きてゆく



言の葉などと気どってみても

千変万化の心など

あるがままには顕せまい

言葉などでは現せまい

あるがままの映写機(ノエシス)

あるがままの銀幕(ノエマ)とが

心の正体なのだから

自灯明と法灯明

それが正体なのだから


 父よあなたの

 母よあなたの

   轍を踏まずに棄教して

  供養としての餞に

ぼくは心を信じます

自分自身を信じます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ