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脳筋騎士団~団長の苦悩~

作者: サーモン丼

ヒィルナス王国。

その中に存在する2つの騎士団の内の1つ、森深くに拠点を置いているエルザルド騎士団の団長室で、豪華な椅子に腰かけている1人の屈強な男が、机に置かれた一枚の紙、建物の莫大な修理金額請求書を見て頭を抱えていた。


「どうしてまたこうなってしまったんだ・・・」


と。

彼の名前はバルド・ラウンゾルト。

短めの黒髪に少し鋭く切れた目をしている強面で、30歳という異例の若さでエルザルド騎士団の団長の地位に就いた男だ。

ではそんな男が何故こんな状態になっているのか。

実は


「これでは新たに入団してくる者達への人件費が足りなすぎる。今年は最低でも10人は欲しいと思っていたのに」


部下たちが建物を壊し、多額の損害請求が届いたことで、近いうちにある年一回の騎士団への入学試験の合格者を削るしかなかったからだ。

(団長に就いてから約4年。ただでさえうちの騎士団は脳筋共のせいで試験が難しく人手不足になりがちなのに。これではいつまで経っても解消しないぞ。

それに)


「これで何回目だまったく。金は有限だということをあいつらに教えたはずなのに。壊せば壊すほど金がどんどん消えていくんだぞ」


指の数だけでは数えきれない程、こういったことは発生しており、バルドはいつもお金に関する問題で頭を悩ませていた。


「まあまあ落ち着いてください団長。足りない分は私共が補いますから。

それにいつも通りではありませんか。あいつらが周りの建物を無駄に破壊するのは」


そんな中バルドの前に立っている人物、紙を持って来た張本人である、もう一人の女性のような可愛い顔をした茶髪の華奢な男がそう口を開いた。

彼の名はニール・ネスマイル。27歳。この騎士団の副団長だ。


「・・ああ。確かにいつも通りだなニール。

だがこれで何回目だ!俺が考えた案が今のような悲惨な結果になるのは!」


「10回、20回・・いや、それ以上は確実でしょう」


「そうだろ。対策を講じても効果がない。まったく、俺は一体どうすればいいんだ・・」


元々この騎士団は、バルドが団長の地位に就く前からこういった問題が頻繁に発生しており、前団長も今のバルドのように頭を悩ませていた。当時の副団長であったバルドは、自分が団長ならばこの状況を変えることが出来ると自負し、制御が効かない団員達の影響で若くかつ、タイミング良く団長に就くことが出来た訳だが。

しかしいざ団長になって最初に思ったことは一つ”ヤバい”だった。団員達が思い通りにいかなすぎるのだ。順調に物事が進んでいても最後の最後で一気に計画が崩される。

今回もそうだ。最終作戦までは順調にいっていたはずなのだ。

バルドは本当に参っていた。手の施しようがないと。


「団長。あまりお気になされないでください。悪いのは全てあいつらですから」


「ふっあいつらが悪いか。

はぁ~。まあそういう訳にもいかないが、金の話は一旦置いておこう。今は犯罪組織ニマニの破壊について、今回最終作戦で指揮を執ったお前からことの詳細を聞くことが最優先だな。

詳しく教えてくれニール」


バルドはお金の問題は後回しにし、まだ聞かされていない、今回の件の原因である最終作戦で何故こうなってしまったのかを追及することにした。


「了解しました。では団長が立案した情報操作による内部崩壊および無抵抗降伏について、2日前に行った最終作戦の詳細をお伝えします」


この作戦はそもそも約1カ月前、ヒィルナス王国に有名な犯罪組織ニマニの本拠点を見つけ出したことで始まったものだ。

組織を壊滅させるため、まずバルドは、敵の本拠点が都会の街中にあることから戦闘は避けたいと考え、組織を内部から崩壊させ、戦う意思を無くす方向で作戦を考えた。

それが情報操作による内部崩壊および無抵抗降伏になるわけだが、この組織の内部崩壊については完璧に成功していた。

リーダーや幹部達の不信を強めるための偽の情報を上手く流し、組織内部を疑心暗鬼状態にしたことで、一部のメンバーと交渉しやすくし、騎士団に協力させる。そのまま組織をバラバラにし、リーダーや幹部が孤立した状態(組織として機能しない状態)を作り出すということが。

そして最後に残ったのが


「私達は予定通り2日前の20時、団長の命令通り、敵の本拠地の周囲を囲み逃げ場を防ぎました」


バルドがニールに任せた作戦。本拠点を囲み降伏させるというものだった。


「ああ。それで」


バルドは自分の指示通りにニールが行動していたことに頷く。順調だなと。

だが


「はい。次に敵を確実に降伏するよう説得をするため、まず壁を破壊し」


(ん??)


「直接話ができる状態かつ包囲されたという状況を視覚的に判断できるようにしました。

そして」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。壁を破壊しただと?」


バルドは自分が指示した以外の行動を取ったニールに驚き、思わずそう聞き返した。


「はい。その通りです」


(ば、馬鹿な。俺はそこまでやれとは言っていないはずだ。多分だが・・。

いや、もし俺が言っていたらあれだし。

ね、念のため聞いておくか)


「な、なるほど。ちなみにそれは俺がそうやれって言ったからだっけ?」


「いえ。団長からは建物を包囲したこと、多数のメンバーがこちらに寝返ったことで情報が漏れ、もう真面に組織は機能していないこと、寝返ったメンバーから証言が取れていることを伝えろとだけ指示を受けました」


(だけ?・・そ、そうか!俺は壁を壊せとは言わなかったが、どう伝えろと具体的にニールへ指示を出していなかった。くっそ。通りで脳筋らしい伝え方だなと思ったんだ)

バルドはハッと自分の指示不足だったことに気が付き、自分を責めた。


「くっ。まあしょうがない。

それで次はどうしたんだ?」


「はい。今団長に伝えたこと、つまり団長が私に伝えた言葉を相手にそのまま伝え、降伏するよう説得を試みました」


「うんうんそうだな。それで?」


「ですが」


「ですが?」


「意外なことに相手がここで意地を張り降伏せず、そのまま戦闘が始まってしまい、さらに敵の実力が意外にも高かったことで今のような悲惨な結果になってしまったのです」


「そ、そうだったのか」


ことの原因が判明したバルドがまず最初に思ったことは自分も悪いだった。

(指示もそうだが、敵が諦めず戦闘を仕掛けてくること、そして敵の実力。

今の結果は俺の見通しが甘かったこともありそうだな)

と。

しかし

(戦闘で暴れすぎなのも事実。もう少し抑えられたはずだ。ニール以外は脳筋だから仕方ないかもしれないが・・・はぁ~~仕方ない。怒るのは苦手だし、ニールはかわいい顔してるからさらに言いにくいが、ここは指揮を取った本人にも注意しておかなければ)

バルドは注意することにした。今後のためになるかもしれないので。


「ま、まああれだ。俺の見通しが甘かったこともあるが、次からはもう少しあいつらを抑えてくれ。被害を少なくするためにもな」


「はい善処します。

今思えば私がもっとあいつらを抑えるべきでした」


分かってくれてなによりだ、とバルドは頷いた。

次からやってくれればいいと。


「じゃああとは金についてだな」


そしてバルドが次からはもう大丈夫だろうと一安心し、話題を変えたその時

ドオォォン!!

突然爆音と大きな振動が2人を襲った。

この場面。普通は何だ!?と慌てるはずだが


「はあぁーーーーー」


最初に部屋に響いたのはバルドの大きな溜息だった。

ニールも慌てている様子はない。


「またか・・・」


それもそのはず。

エルザルド騎士団の拠点ではよくある出来事だったからだ。

原因は簡単に言えば、脳筋共の訓練。自分達の拠点(壁など)も容赦なく破壊するのだ。

元々街中にあったこの騎士団がこんな山奥に移されたのもこれが原因だったりする。


「何回も注意しているはずなんだけどな。ここでもまた無駄な出費だ。

仕方ない。今日という今日は絶対に辞めさせてやる」


団員達が壁を破壊し、それを団長自ら説教をするという流れがエルザルド騎士団の恒例行事になりつつある今。

バルドは今日こそはと重い腰を上げようとするが


「いえ団長。団長にはまだ多くの仕事が残っているでしょう。ここは私が注意しにいかせて頂きます」


バルドにはまだ大量の仕事が残っており、机の上に山のようにある紙を見ながらニールがそう止めた。

ここは私に任せて欲しいと。お役に立ちたいと。

目でそう訴えていた。

無論バルドにはその思いは伝わっており

(流石副団長だな。あいつらを自ら止めたいと言うとは)

と感心されるほど高評価を得ていた。

(だが副団長にこんなくそみたいな仕事をさせるわけにはいかないし、団長である俺が辞めさせなければ絶対にダメだ)

そのためバルドは


「いやニール。今日も俺が行く。あいつらを締めるのは俺がやらなくちゃいけないからな」


と言うと気合を入れ、肩を回しながら団長室から出ていくのだった。


「てめぇぇぇらぁぁ!!一体何回同じことしやがるぅー!!」


団長バルド・ラウンゾルトの苦悩はまだまだ続くのである。

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