表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/76

1-9 病室での家族の会話


 洋子の入った病室は、洗面所とちょっとしたソファーセットのある個室であった。

 スヤスヤと寝息をたてながら、眠っている洋子を見て安心した礼子は、ソファーにゆっくり腰掛けようとした。

 その時、礼子の携帯が震え出した。

 見ると長女の貴子からであった。

「もしもし、貴子ちゃん、どうしたの」


「あっ、お母さん。

 洋子に何度も電話してもでないの。

 洋子、何かあったの」


 礼子は少し不信そうに、

「なぜ、そう思ったの」


「だって、さっき、気のせいか、洋子戻って来いって、聞こえたような気がしたの。

 それで何だかイヤな予感がして、洋子に電話したんだけど、何度電話しても出ないの。

 洋子は大丈夫なの」


「相変わらず、貴子ちゃんは鋭いわね。

 洋子ちゃんは大丈夫よ。

 実は、洋子ちゃんは5階のビルの屋上から飛び降りて、今、Y大学病院の救急病棟にいるの」


「ええっ、5階から飛び降りたって。

 なら、もう死んでしまったの」


「いいえ、ちゃんと生きているわよ。

 それが、下に花屋さんがあって、その花屋さんの日除けの差し掛けを突き破って、その下にあったダンボール箱の上に落ちたの。

 そのせいか、顔に少しすり傷があるだけで、目立った怪我はないわ。

 あぁ、それとあちこち打撲はあるみたいね。

 でも心配ないよ。

 今は、眠ってる」


「ウッソー普通、死ぬでしょう。

 でなくとも大怪我をしてるはずよねー。

 すごい強運だね」


「それがね、ちょっと危ない時もあったのよ。

 容態が急変して一時は心臓マッサージをすることになったの」


「と言うことは、心臓が止まったの?」


「私は、よく分からないけど、どうもそうらしいのよね」


「あっ、それで、父さんが洋子戻って来いって言ったんだ。

 あれ、やっぱり父さんの声だったんだね」


「とにかく、それで息を吹き返して、今はスヤスヤ寝息をたてて 寝ているわ」


「そう、それは良かった。

 それで、皆んなそこにいるの」


「いるわよ、父さんと淳一が」


「なら、私もすぐに行こうか」


「大丈夫よ、仕事が終わってからで。

 たぶん、母さんはいると思うから」


「分かったわ、それじゃまたあとでね、母さん」


 電話を切って、ほっとしたところに、浩一郎が、

「礼子、貴子も来るの」


「ええ、仕事が終わってから来るそうよ」


「花屋さんの差し掛けを破ったんだよね、それとダンボール箱。

花は、大丈夫だったのかなぁー。

 その花屋さんに挨拶とお詫び、破れた差し掛けの修理費と他の物の弁償をしないといけないね。

 礼子はどこの花屋さんか聞いてる」


「えぇ、上通り1丁目12番の中村って言う花屋さんだそうよ」


「そうっかぁ。

 洋子も落ち着いてるみたいだから、今からちょっと行ってみるかぁ。

 淳一は、今日の講義はどうなってるんだ」


「午後は、何にもないから大丈夫だよ」


「なら、父さんと一緒に来るか」


「うん、連れてって」


「よし、それでは、礼子、花屋さんに行って、また戻って来る。

 淳一、運転頼む」


 意味ありげに、浩一郎は礼子に向かって、

「礼子、頼むな」と。

 二人は、見つめ合い、うなずき合った。


 浩一郎と淳一は、病室から出て行った。


 しばらくして、礼子は洋子の体に手を当ててじっとしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ