1-8 面談室での事情聴取
「もし、もし、すみません。
篠田礼子さんでしょうか」
巡査部長の野田は、それらしい中年の女性に声をかけた。
「はい、そうですが、どちら…」
途中で野田がさえぎって、
「はい、私は先ほどお電話したY警察署の野田で、こちらは安田といいます。
この度は大変でしたねー」
「はい、突然のことでビックリしました」
「お疲れのところ申し訳ありませんが、ちょっとお話を伺いたいのですが、今、宜しいでしょうか」
「はい、私はかまいませんよ」
野田は、ナースセンターに行って、空いている面談室を一つ借り受けていた。
浩一郎と淳一は、洋子の病室へ入って行った。
浩一郎の計らいで洋子は、個室に入っていた。
面談室で野田は、礼子に
「ところで、あの女性は、本当に篠田洋子さんですか」
「はい、次女の洋子です」
「先程の方は」
「 はい、主人の篠田浩一郎と長男の淳一です」
「そうですか、ありがとうございます。
ところで、お嬢さんは、上通り1丁目12番のビルの5階の屋上から飛び降りたようです。
その1階には、中村という花屋さんがあり、その花屋さんの差し掛けを突き破って、その下においてあったダンボール箱の上に落ちたようです。
顔に少しかすり傷があるだけで、それ以外なんともないようですから、まるで奇跡ですね。
それに、屋上にカバンが残されておりました。
着衣等にも乱れがなく、争った痕跡も今のところ見つかっておりません。
ですから恐らく我々はご自分の意思ではないかとみております。
何かお心当たりが、ございませんでしょうか」
少し考えて、礼子は、
「いえ、特になにも。
あっ、そう言えば、最近ちょっと元気がないなぁっと思ってました。
でも何かあれば、娘が言ってくるだろうと思ってましたので、あまり気にしてませんでした」
「そうですか、ところで娘さんはどこにお勤めですか」
「上通りにあるY高校で教員として働いております」
「はいそうですか、大変な時にありがとうございました。
旦那さんに代わって頂けますか」
浩一郎と淳一が順次呼ばれて質問されたが、二人とも飛び降りた理由等に心当たりもなく、その兆候にも気づかなかったとのことであった。