6-4 生死の道理と感情
昔の思い出に浸っている母の礼子を見ながら、次女の洋子は、
「そんな夫婦のおのろけ話しは、いいから。
結局、なぜ人は、死を怖がって不安がるのよ!
父さん」
父の浩一郎は、
「そりゃ、簡単だよ。
まず、死んだら意識が残るか、何にもなくなるかも、皆んな意識してない。
いや、考えたこともない。
だから、何も知らない。
それで、死んだらどうしよう、自分はどうなるんだろと不安になる。
それに残される者、やり残したことなどの後悔が不安をあおる。
また、残念ながら、自分が選んだにも関わらず産まれてきた環境から、嫉妬や恨み、妬みなどにさいなまれることもある。
人を恨みながら、死んでいくって、悲しいね。
生き残る時間が短くなる程、それらが強くなる傾向がある。
ここで大事なのは、
その時々で、自分の出来ることをすること。
そしてあとは、なるようになると、成行にまかせること。
死ぬことは、寿命が尽きて死ぬと割切ること。
いつも、こう考えることが出来ればな。
死ぬことは、この世からあの世の故郷に帰る小旅行であること。
その小旅行は、始めてであるが、決して恐い旅行ではないこと。
旅行の行き先は懐かしい故郷であり、そこは自分と同じような仲間が沢山いて楽しい所であること。
その故郷からこの世に産まれ変わるのは、あの世のもっといい所に行きたいから。
但し、その場合、この世でなすべき宿題を持って来ていること。
その宿題を解決する為に、時代や場合、両親などを自分で選んで産まれ変わること。
具体的な宿題の中身が分からなくても、それを解答できる方法もあること。
宿題の解き方は、まず自分が変わること。
なんかを理解していれば、死に関連したした恐怖心や不安感がないはずだ。
しかし、理解が一つでも欠けたら、恐怖心や不安感などが、どこかで湧いて来る。
と、父さんは思うな。
これらの理解が足りないから、人は死を恐れたりする。
これが、父さんの考える洋子の質問の答えだよ」
しばらくして、洋子が口を開いた。
「父さんの言うのは、要するに、知らないから恐いって言うことね」
「そうだ、無知が恐怖をつくる。
生死の道理を理解して実践出来れば、恐いものなぞ、なくなる」
「父さん、どっかのお坊さんみたい」
「ワシは、まだ僧籍なぞ、持っておらんぞ」
「そう、そう、お坊さんでなく、歳くった門前の小僧さんだったのね」と、洋子が言うと、四人とも笑い出した。
笑い声が落ち着いたところで、カウンセラーの裕子が、シズシズと語りだした。
「篠田先生、私のところには、幼稚園児や小学生、中学生がよくカウンセリングを受けにきます。
その子供達は、難病の子が多く、病院生活も長くて、子供によっては元気に退院出来ないことを、薄々気がついているように思います。
そんな子供達に一つのお話しとして、その道理を話すことは出来ます。
もちろん、お母さん方にも。
しかし、子供達は体調が良ければ、いつも明るく振る舞っています。
しかし。
"お母さんこんな病気でごめんなさい。
僕も学校に行って、皆んなと遊びたい" などと匂わせることがたまにあります。
そんな時、私も一緒に涙を流すことがあります。
先生の言われているのは、分かります。
でも、私にも感情があります。
あまり力になれなかったと、ひっそりと、自宅で泣くことも、まだまだあります。
現在の医学では、どんなに医療をつくしても、治らなくて亡くなっていく人が沢山います。
ある程度、お年を召した方なら、まだいいのですが、それが小さなお子さんなら、話しているこっちの方がツラいです。
先生が今まで話されたケースは、今から亡くなる人の場合です。
人間は、一人で生きている、生きてきたわけではありません。
必ず、家族がいます。
私は、まだ結婚もしてなく、子供もいません。
だからよく分かりませんが、もし、最愛の夫、可愛い子供の余命が半年で亡くなっると分かった時、いくらその時出来ることをしても。
夫ともっと一緒にいたい。
夫がいなくなったら、自分一人でどうしたらいいの。
何かを決めないといけない時、自分一人では決めれない、夫ならなんて言うかしら。
現実問題として生活費は。
子供が一人前になるまで、ついていたい。
私の何が悪かったの。
ごめんなさい、ごめんなさい。
など、色々と思うでしょう。
それは、恐怖心とも言っていいのでは。
死を前にして、道理を話したところで、本人は納得するかもしれませんが、残される者は、どうしたらいいでしょう。
もし、私が結婚していて、私の愛する大好きな夫が、治療法もなく、症状緩和しかない、あと半年持つかどうか、と言われたら。
ダンダン衰弱して、死にゆく夫を観ながら、例え出来ることをしても、悲しくて悲しくて、一人で泣きはらすでしょう。
私のような人間は、どうしたらいいのですか」
裕子は、顔をベッドに埋めて、とうとう、泣き出した。
その話しを聞いて、裕子の様子を見て、洋子もベッドに顔を埋めて泣き出した。
浩一郎は、二人ともやっぱりよく似た姉妹で、優しいなと思い、ジンとなった。
礼子も同じように思っているようであり、その上目が少し潤んでた。
浩一郎は、村が優しい人が集まる村と言っていたのを思い出して、"はて、どうするか"と考えあぐねていた。




