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6-3 なぜ死ぬのは恐い……、いや、死ねないから恐い


 裕子の疑問に触発されて、洋子が父浩一郎に意地悪なことを聞いた。

「父さんね、実際に今苦しんでいる人に、死んだら和気あいあいの仲間がいる、天国みたいな所に行ける。

 だから、もうちょっと辛抱して、これを乗り越えましょう。

 とかなんとか言っても、その人は、今実際に目の前で苦しんでいるとするよね。

 そんな人に、父さんみたいこと言っても、何か役に立つと思えないよ。


 例えば、今ここにガンの終末期で、痛みで苦しんでいる人がいるとするよね。

 そんな人は、この痛みをとってくれ、とか、早く死にたい、殺してくれって、思うじゃないかしら。

 そして、その苦しみの理由は、人によってささいなこともあると思うのよね。

 でも、同じように、その人は死にたいとか、殺してくれって思ってる人も多いと思う。


 もっと身近な例では、

 学校に行くと皆んなが、私達教師に気付かないように、いじめられている子がいるとするわ。

 そして、影で泣いている。


 とか、会社に行けば、イヤな同僚や上司に囲まれて、ほとほと悩んだりして、転職したり、自殺する人もいる。


 死んだら、気心の知れた愉快な仲間達の所に行けると、信じていても、今実際に悩んで死にたいぐらい困ってる人には、何の役にも立たないよ。


 困っている人は、死ねないから困って、悩んでいるんじゃないの。

 でも、死にたいと思ってる人は、なぜか自殺、自死をあまり選択しない。

 もし、そんな人達が安易に自死出来るなら、今こんなに人がいっぱいいるはずがないわ。

 皆んな死んでるはずよ。


 介護施設なんかでは、昼はお客さんの訪問、見学なんかあった時に、介護者も入居者もニコニコしていても、夜になったら、"殺してくれ"って叫ぶ入居者も多いって言う介護施設もあるって聞くわ。

 皆んな死ぬのが恐いんじゃなくて、死ねないから恐いんじゃないかしら。

 死ねないから苦しんでいるんじゃないかしら。

 そんな人達は、死んだらどうなるかより、今この苦しみを何とかしてくれって思うんじゃないかしらって、私は思うのよね。

 父さんなら、こんな時どうするのよ」


 浩一郎は、しばらく考えて答えた。 

「父さんなら、様々なケースでも、同じようなことをするな。


 まず第一に、興奮したり、痛がっている状態だったら、それを落ち着かせる。

 落ち着いてもらう。

 例えば、ガンで痛がってる場合なら、意識が残る限界まで、モルヒネを投与してもらって、落ち着いてもらう。


 次に第二段階として、過去の楽しかったことを出来るだけ話してもらう。

 

 第三段階として、今は苦しくても、過去に楽しいことを与えくれた、父母やご先祖様に感謝してもらう。

 ご先祖様がいたからこそ、そこに自分がいるわけだからな。

 それを通して、神様に今まで助けて頂いたことにも感謝してもらう。

 なぜって、神様のご加護助けがあったからこそ、そこまで生きてこられたのだからな。


 第四段階として、何か直接助けもらいたいことがあったら、ご先祖さまにお願いをするように話す。


 第五段階として、今出来ることを探して、やってみることを勧める。


 第六段階として、今困っている原因を分析して、その対策を考え実行する。


 あと、自分が変わらなければ、周囲は変わらないからね。

 それには、まず、自分の中に感謝の気持ちを持つことだ、苦しくてもね。 

 基本は、誰かに何かしてもらったら、必ず"ありがとう"と言うことだ。

 ここからすべてが始まる。

 こうしていくと、自然に自分が変われる。


 そして、自分ではどうにもならないことは、ご先祖様にお願いする。


 もちろん、状況に応じて、死んだらどうなるか、とか、何のために産まれて来たのか、深い井戸の話しをしたりする。


 まぁ、こんなことかな」


 それを聞いていた裕子と洋子、礼子の三人は、神妙に考え込んでしまった。


 しばらくして、洋子が

「父さん、すごーい!

まるで、哲学か倫理、宗教の先生みたい。

 しかし、実際は物理の先生なのよね〜。

 やっぱり、変人物理の先生の父さんだね」と。


浩一郎が、

「そんなにスゴイことないぞ。

 まだまだ、物理学と同じように修行の身だぞ」と言った時、礼子が、

「フッフッ、フッフッ」と、笑い出した。


 洋子が、

「母さん、何が可笑しいの」と。


「だって、父さんが若い頃を思い出しちゃって。

 父さん、学生の頃、よく友田君、いや今は友田教授かな。

"お前は、まだまだ修行が足らんな"って、よくからかわれていたの。

 その度に、父さんはホホをプーっと膨らませて、横を向いてたわ。

 それが可笑しくて、よく友田君と一緒に笑っていたのよ。

 それが、"修行の身"だなんて、言うから、昔を思い出して、笑ってしまったのよ。

 許してね、あなた」


 それを聞いた洋子と礼子は、ヘェとキョトンとしていた。

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