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6-1 あの世から戻って来た二人


 カウンセリングルームに戻ってきた、洋子と裕子は、互いに座りあったままで、無事に帰って来たことを確認するように、横を向いてうなずきあった。

 二人は安心して、ホッとした。


 それに対して少し心配気味な母の礼子が、

「お疲れ様。

 今日は、いつもより少し長かったわね。

 大丈夫だったらかしらね? 」と。


「二人とも、大丈夫よ。

 ねぇ、裕子お姉さん。

 母さん、何分ぐらい、行ってた? 」


礼子は、時計を見ながら、

「そうね、10分弱ぐらいかしら。

 今回は、どうだった」


「う〜ん、自分達の村に行って来たよ。

 ねぇ、裕子お姉さん」


裕子が穏やかにうなずくと、矢継ぎ早に礼子が、

「うわ〜、すごい。

 とうとう、村に行ったんだね。

 ねぇ、ねぇ、どうだった?

 村って、どんなだった?

 あなた達の宿題、なぜ産まれ変わらなければならなかったか、分かった? 」と、興味深々な様子で聞いた。


「母さん、そんなに一度に聞かれても、答えられないよ。


 一つづつね。

 まずね、三途の河の向こうの世界、つまり死後の世界は、村もそうだけど、ここ今、母さんと一緒にいる今の世界とあんまり変わらないみたい。

 ちゃんと、息も出来るし、目もみえる。

 うん、ここと同じような普通の世界よ。

 ただね、移動の仕方が、歩いても行けるけど、どうも思っただけで、行けるみたいなのよ。

 私達は、まだ出来ないから、じいちゃんや村の人に連れて行ってもらったけどね。

 ねぇ、裕子お姉さん」


「そうね、一緒に川のほとりから、村まで気付かないうちに行ったのには、ビックリしたわね。


 それに、村の様子だけど、直径50mぐらいの運動場みたいな広場があって、その周りに色々な家が建ってました。

 広場の周りには、木が植えてあったり、花壇があったりして、綺麗なお花が沢山咲いてました。

 村は、とても穏やかな感じでしたね。

 私達は、その村の村長さんとお祖父様で、広場の真ん中あたりに着きました。

 その時には、村の人が私達を中心にぐるっと輪になって、迎えて下さいました。

 皆んなから懐かしそううに、"おかえんなさい"と歓迎されましたけど、初めての所で、知らない人から言われたので、とまどいましたね。

 でも、向こうは私達をよく知っている様子でしたね」


「裕子お姉さん、すご〜い。

 私なんか、ぐるっと知らない人に取り囲まれて、ビックリしちゃて、舞い上がって、とてもそんなに冷静に周りなんか見る余裕なかった」


 礼子がそれからっと、先を促した。

「それからね、輪の中から私達より若い女性が飛び出して来て、私達の肩を抱いたのよ。

 すると、私達は突然"お母さん"って言って、抱き合って泣き出したのよね。

 今思っても、初めて会う人と三人で抱き合って涙を流すなんて、ちょっとおかしいよね」


 裕子が補足するように、続けた。

「その女性は、弥生さんと言う名前で、どうやら私達が以前、そこにいる時は、ニックネームでお母さんと呼んでいたとのことでした。

 そして、その村では私達は弥生さんと、三人で暮らしていたみたいですね」


 礼子が、

「ふん〜ん、なら、村での生活は、何にも不安なく出来そうなのね。

 あ〜、でも、食事なんかはどうなるのかしら? 」と。


「それね。

 弥生さんが、紅茶を出してくれたの。

 緊張してたせいか、のどが乾いちゃって遠慮なく飲んじゃた」


心配そうに、礼子が聞いた。

「飲んだの!

 そ、それ、それ飲んでから、どうなった。

 何か変わったことでもなかった? 」


「普通よ、でも母さんの好きなアールグレイではなかったみたい。

 それが、どうしたの」


「えっ、大丈夫なの?

 向こうの物食べて。

 まぁ〜、こうして無事に帰って来れたんだから、大丈夫だったのよねぇ。

 たぶん。

 でも、変ねぇ。

 身体、肉体が、ないんでしょ。

 第一、身体はここにあったんだものね。

 その飲んだ紅茶は、本当にどこに行ったのかしらねぇ」

裕子が言うには、

「案外、香をかいだだけで、飲んだと思っただけかもしれませんね。

 だって、あの世、死後の世界では、本来食べる必要がないはずですからね。

 でも香は、分かるのかな?


 それは、多分緊張している私達を、少しでも落ち着かせる為に、弥生さんが何か特別な方法で出して下さったように、今となったら思いますね。

 それと、誠治お祖父様がいつも、私達を見ま守って下さっていました。

 "まだ、生きているから、だれかついておらんと"と。

 もし、トラブルが起きるようなことがありそうでしたら、事前に注意してくれたりされるはずです」と。


「さすがは裕子さんね。

 どっかの舞がってしまって、ボーっとしていたお嬢様と、大違いだわ」と、裕子に感心して礼子が誉めたのであった。


 ほほをふくらせて、洋子が母親礼子反発した。

「何よ、母さん。

 その言い方」


 あきれたように、礼子が言った。

「あなた、そう言うけど、裕子さんが、そばにいたから、安心しきって、裕子さんに甘えてたんではないの。

 もし、一人で行ったなら、もうちょっと周囲の状況や自分の考えを冷静に認識できたんじゃないかしらね。

 もう、洋子はどこに行っも、甘えん坊で、いくつになっても、その依存心は、なかなか治らないわねぇ」


 それに対して、洋子が、ちょっと甘えた声で返した。

「それは、母さんや裕子お姉さんと一緒にいる時だけよ」

 

 笑いなが、裕子が言った。

「それは、ある意味、私のせいであるかも知れませんね。


 向こうでお祖父様が、私達の産まれ変わった概略を説明して下さいました。

 それは、こうです。

 まず私達の村は、基本的に優しい人が、集まった村だそうです。

 いや、優し過ぎる人?が、集まった村です。

 それゆえに、本来自分で解決しないといけないことでも、つい、久しい人に頼ってしまう。

 頼られた人は、つい、優しさゆえ、変わって解決する。

 なかなか、自分でしなさいと断って、突き放せないんですよね。

 それに、その久しい人が横にいると、つい、甘えや、依存心が出て、自律心が充分に育まれない。

 甘える方も、自分で解決するべきか、そうでなく頼らないといけないの線引きがよくわからない。

 結果として、出来なさそうなことは、つい、簡単なことでも頼ってしまう。

 頼られた方は、それが分かっても、優しさゆえ頼られてしまう。

 これは、頼らて解決することは、優越感を覚え、一種の快感となり、欲望となる。

 その関係は、私達の村では、洋子ちゃんと私、私と弥生さん、弥生さんと村長の智治さんと、連鎖してるみたいです。

 だから、この世界ではそれを直せないから、産まれ変わったと。

 私は、お祖父様からこんな感じで受けとりましたよ」と。


 洋子が感心した様に、

「裕子お姉さん、やっぱりスゴーイ」と。


礼子が、

「裕子さん、本当ね〜。

今の洋子の返事だけでも良く分かるわ。

 あなた達が産まれ変わった理由が。

 もし、裕子さんだったら、補足説明をするでしょうからね」


 二人は、しおしおとうなずいた。

 しばらくの沈黙のあと、礼子が切りだした。

「さて、これからどうしましょう。

 もうそろそろ、5時よ。

 裕子さん、このカウンセリングルームを取ってるのは、5時まででしょう。

 あなた達は、どうしたい? 」


 裕子が、

「私は、今日のこと、出来るだけ忘れないうちに、篠田教授にお話しして、ご意見を伺いたいです」

と。


 洋子は、

「私もそうね。

あの変人オヤジが、私達の村のこと話したら、何て言うか楽しみだわ」と。


 礼子が、

「なら決まったわ。

 もう、5時だから7時まで、遅くても8時までには終わるってことで、父さんに頼んでみましょうか。

 裕子さん、場所はどこかありますかね」と。


 裕子が、

「この部屋、次に予約が入ってないので、このまま使えますよ。

 大丈夫ですよ」と。


 礼子が、裕子にニタニタとしながら、分かったわと。

 礼子が携帯を取って、浩一郎に

電話をかけた。

 浩一郎がすぐに出て、礼子が

ちょっと甘えた声で、

「あなた、今、いい? 」


「あぁ、いいよ。

 まさか、今まで、あの世に行って帰ってきたのかね? 」


「いえ、いえ、行ってたのは10分弱かしら。


 その後、今日のことを皆んなで話して、あなたの意見を聞きたいって言うの。

 出来たら、今日、このカウンセリングルームで。

 7時か遅くとも、8時まで。

 あなた、時間ありますう」


「あぁ、時間は何となるよ。

 でも、夕ご飯はどうするの?

 洋子と私達は、まあいいとして、斉藤さんはどうする。 

 独身女性の教官に当たる人が、8時過ぎに帰って食事に明日の準備があるなら大変だろう。

 お風呂なんかも、入りたいだろうしな。

 あと5分ぐらいで、そこに着くよ。

 なら、こうしょうか。

 皆んなで病院の売店で、お弁当を買って、そこで食べながら話しをするってのは」


 礼子が二人に確認すると、

「皆んなそれでいいって。

 なら、私達も今から病院の売店に行くわ。

 じゃ、そこでね」


「うん、分かったよ。

 多分、同じくらいに着くかな。

 どちらが早くても、そこで落ち合うことにしょうか」


「分かったわ、じゃ、そう言うことでね」

 礼子は、携帯電話を切って、三人で売店へ向かった。

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