5-4 村人の優しさ
裕子がふと疑問に思って、誠治に尋ねた。
「お祖父様、なぜ、私達は、人間世界に戻らなければならなかったのですか」
「それは、お前達3人が決めたことじゃて。
ここは、皆んな心優しいものの集まりの村じゃ。
花や緑を愛し育み、音楽などの芸術の素晴らしさを愛でて、自分でも演奏して、より高みを目指そうと言う村人の集まりじゃ。
しかしのう、その優しさが時に仇となる。
それが分かっていても、互いに優しさゆえ、もし他を頼らなくて自分自身で解決しないといけない時でさえ、誰かに頼ってしまう。
頼られた方は、優しさゆえ、断れん厳しく出来ん者の村じゃ。
つい、つい自分で解決が難しいと思った時、つい誰かを頼る。
頼られた方も、良くないと分かりながらも、優しさゆえつい助けてしまう。
まるで、洋子が裕子さんを頼るようの。
この村で二人がおる時は、弥生さんを母さんと言って頼っていた。
そして弥生さんは、村長の長の智治さんを頼っていた。
それぞれこれではダメと思いながらも、優しさゆえに、それに応えていた。
頼られてそれに応じることは、一種の快感にもなる。それを知っている者は、どうしてもその快感を捨てる、あるいはコントロールできんのじゃ。
だからお前達3人は、話し合って、ここではそれぞれの優しさ弱さを解決するのは難しいと考えて、下界に降りることにしたんじゃ。
その為に、常に姉妹の時は姉が裕子さん妹は洋子であった。
また、親子の時は裕子さんが母親で洋子が娘であった。
しかし、これらの組み合わせは、結果的に上手くいかんかった。
それで、三人はまた話し合って、それぞれ他の者にも相談し、今度は別々の家庭で、少し裕子さんが早く産まれて、それぞれ下界で揉まれて、二人が会うようにしてはどうかと言う方法が、考えだされた。
それぞれ、産まれ変わる場所と時代を変えてはどうかと言う案もあったようじゃが、やっぱり、親子か姉妹の方が、より甘え易いから、お前達のためには良いじゃろうとなった。
だから、今のように産まれ変わったんじゃと聞いておる。
それでのう二人は、そうじゃのう下界の言い方では、背後霊や指導霊など言うかのう、弥生さんを含めて、ここにおる三人と裕子さん洋子の背後霊候補の5人で相談して、今の下界の洋子は礼子さん浩一郎のところに産まれことにしたんじゃ。
また、裕子さんは、少し早めに他の家族でと、言うことじゃ。
もちろん、浩一郎の指導霊とも相談して了解の下でもある。
これが、ワシが聞いておる、だいたいの話しじゃ。
もっと詳しく知りたければ、まずは弥生さんに聞くがよい」
「あれ、おじいちゃんが、私の指導霊さんではないの」
「ハッハッハァー、残念ながら、ワシではないのう〜。
お前達の指導霊さんは、ここの様子を見ておる。
お前達がここまで来れたのは、お前達の指導霊さん達の努力や配慮の賜物じゃて。
なかなか、そこまで出来んことじゃて。
手を貸しすぎると、せっかく下界に降りた意味がないしのう。
さぞかし、ヤキモキしたじゃろうて。
指導霊のお二人さん、ご苦労様じゃたのう、有難いことじゃて、ワシからも礼を言うぞ」
「おじいちゃん、私達はここで楽しく平和に暮らしていたんでしょう。
それなのに、なぜ大変でイヤことがいっぱいある下界に降りなければならなかったの」
「その詳しいことは、弥生さんと二人でまずは話すことじゃて。
それから、それぞれの指導霊さんと五人で、話し会ってみることじゃのう」
「このあたりの経緯は、弥生さんが詳しいから、弥生さんに聞けばよく分かる。
ワシは、単なる皆の調整いや橋渡し役じゃて」
「おじいちゃん、下界に降りるって、そんなに多くの人を巻き込んで、大変なことなの」
「イヤイヤ、お前達の場合は、特別じゃて。
弥生さんや村長の智治さんが、特に頑張って、知恵を絞ってあちこちに働きかけたんじゃぞ。
忘れるでないぞ。
あとで、よくお礼を言うことじゃぞ。
なんせ、お前達二人は、時代が変わってもダメ、姉妹でなく親子でもダメ、飛び切り優秀な姉の裕子さんでも上手くいかんかった。
弥生さんも困って、智治さんに助けを求めて相談に行ったんじゃ。
智治さんも弥生さんを助け過ぎた。
そこら辺の勘所がイマイチだったので、次のところに行きたくても、なかなかこの村長止まりで、行けんのじゃろうのう。
これも、智治さんの優しさゆえじゃ。
優しさとは、ある意味、自分の欲を律すること、制御することじゃ。
そのためには、覚悟たる物差しかいるからのう。相談されて、本当に助けなけれならない時、アドバイスを与えてるにしても、限度や言い方もあるしのう。
ここの村人が、下界に降りるのは、その物差し価値観を錬えるためと、ワシは勝手て思っておるぞ。
まぁ、詳しいことは弥生さんに聞くことじゃな」
おっと、年寄りの長話しが過ぎたようじゃな。
要らぬことまで、しゃべったようじゃ。
ここは、一旦戻るとしょうかのう。
皆んな、次の機会によろしく頼む。
このワシに免じて、許してくだされ。
では、裕子さんに洋子ちゃん、戻ろうか。
案内役兼保護者の誠治さんがそう言うと同時に、二人の目が覚めた。
そこは、カウンセリングルームで、礼子がいるのにも二人はすぐに目に入った。




