5-3 村のお母さんと保護者
あまりの懐かしさと、やっと会えた嬉しさに泣き出してしまった三人は、しばらくしてやっと泣き止んだ。
裕子と洋子は、抱きついていた若い女性を見て、なぜ、お母さんと突然叫んだか分からなかった。
それは、自然に口から湧き上がった言葉であったからだ。
若い女性は、二人と手を繋いで、とある洋風の一軒の家に入っていった。
二人は、広いリビングに通された。
そのリビングには、高い天井からシャンデリアが下がり、壁は薄いクリー色をしており、床も薄い茶色のカーペットが敷かれ、マホガニー調のグランドピアノに茶色のソファーセットが置かれていた。
窓からは先程の広場が見えており、窓の外枠の下に色とりどりの花が咲いていた。
観音開きの開いた窓から、バイオリンの調べが部屋に静かに響いてきた。
裕子と洋子は、何かを思い出そうとその部屋の中をキョロキョロ見渡しながら、それぞれが一人がけのソファーを選んでゆっくりと腰掛けた。
若い女性が、したり顔で、
「やっぱり、あなた達二人ともそこに座ったのね」と。
洋子が、
「エッ、エッ、何ですか。
座ったら、いけなかったんですか」
若い女性が、落ち着いた様子でいった。
「いいえ、そんなことありませんよ。
まず、自己紹介をしましょうね。
私は、弥生って言う名前です。
でも、あなた達は私にニックネームを付けて、お母さんっていつも呼んでたわね。
そしてここは、あなた達が生まれ変わる前に住んでた家よ。
私達三人が一緒に暮らしてた家よ。
そして、あなた達がそれぞれ今座っているソファーは、ここにいた時にいつも座っていたお気に入りの場所のソファーよ」
すると裕子が、オズオズと
「弥生さん、私はまだよく思い出せませんが、本当に洋子ちゃんと一緒にここで暮らしていたんですよね。
洋子ちゃん、何か思い出した」
「ううん、まだ。
でも、ここには来たことあるような気がする」
「どうやら、二人とも本当に死んでこっちに来たんじゃないから、すぐに思い出せないのね」
「ここは本当に、死なないと来れない世界なんですか。
でも、私も洋子ちゃんもまだ病院のカウンセリングルームで、生きてるはずですよね。
だからですか」
「そうよ、普通は死なないと来れない所よ。
でも、安心しなさい。
あなた達二人は、あの部屋で礼子さんと同じように、ちゃんと生きているわよ」
「じゃ、何で来れたの。
そして、なぜ母があの部屋にいるのを知っているんですか」
「それは、あなた、洋子ちゃんのおじいさんだった誠治さんの案内があったから二人とも来れたのよ。
それに誠治さんが、あなた達二人の様子を私に見せてくれていたの。
誠治さんが言うには、こんな特別な事情だから、ある程度事前に知っておいた方が良かろうってね」
「特別な事情って、何ですか」
「それはね、あなた方二人がまだ生きていて、またすぐに元の世界に戻るってことよ」
「それが、そんなに特別なことなんですか」
「それはそうよ。
普通、死んで生き返った人なんて、三途の河を渡る前の人よ。
渡ってここまで来て、またそのまま戻れる人なんか、いやしないよ。
誠治さんの案内だから、ここまで来て、また戻れるのよ。
誠治さんは、私達と違ってそんなことが出来る人なの、すごい人よ。
ここの村長さんだって、まだそんなこと出来ないわ」
「よく分かりませんが、誠治さんって、そんなにすごい人なんですか。
私にとっては、小さい頃よく遊んでくれた優しいおじいちゃん、もう亡くなったただのおじいちゃんなんですけど」
「そうよ、私達より、う〜ん、何て言ったらいいかなぁ、そう格が上の人よ。
だから、私達では出来ないことも出来るの。
私なんかでは、あなた達の世界に行って、ここまで安全に連れて来て、また戻るって出来ないのよ。
私達より、上の格の人で、しかも色々な力がある人よ」
洋子は、ふう〜んと頷いて、
「なんだか分からないけど、すごいおじいちゃんで良かった」
裕子は、
「ありがたい、お祖父様で良かったわね、洋子ちゃん」
弥生が、
「あんた達、感謝するなら後ろをご覧なさいな」
振り返った二人は、
「あっ」
「えっ、いつからいらしたんですか」
「さっきから、ずーっと一緒にお前達の後ろにおるよ」
「えー、全然気付かなかった。
何でー」
「そりゃ、ここではお前たちの保護者みたいなものじゃからのう。
何かあったら困るしのー。
お前たちが戻って、目覚めるまではのー。
誰かが付いておらんとのー」
「それって、私達二人だけでこの世界にいるのが、危ないってこと。
じいちゃん」
「まぁ、状況によってはのー。
お前たちはまだ生きておるから、誰かが付いておらんとのー。
元の世界に戻る手助けが必要じゃて」
「ふ〜ん、そうなんだ。
ありがとう、じいちゃん」
「ありがとうございます、お祖父様」
「なぁ〜に、礼には及ばんよ。
お二人さん」




