4-25 三人目の訪問者
浩一郎は、椅子を後ろに反らし、頭も後ろへ反らせたまま、天井の方の虚空を見ながら腕を組んで、今来た二人の子供達のことを考えていた。
すると、そこに小さなかすかな音で、
コン、、、コン、、、と遠慮するように、ドアをノックする音が小さく鳴り響いた。
「はい、開いてるよ」
すると、ドアがそっと開いて、妻の礼子が静かにお盆を手に持って入ってきた。
お盆には、ティーポットと紅茶茶わんがニセットに、お茶うけのクッキーをのせた皿が用意されていた。
浩一郎がそれを見て、
「どうしたんだい、それ」
礼子がテーブルに茶器を並べて、二人分の紅茶をティーポットからそそごうとしていた。
礼子が、
「あなたが何か、飲みたいんじゃないかと思って」
意地悪を言うように、浩一郎が、
「別に何も飲みたくなかったら」
礼子が、軽く受け流して、
「そうかしら、
それでも私と一緒にお茶を飲んでくださるわ、あなたなら。
あなたのお好きなアールグレイを入れて持って来たのよ」
降参した浩一郎は、
「う〜ん、参ったな、お見通しか」
礼子が、浩一郎を誘って、
「さぁ、さぁ、そんな所に座ってないで、こっちにいらっしゃいな。
どうせ、お仕事じゃないんでしょ」
浩一郎は、机の前の椅子からソファーの礼子に、寄り添って座った。
浩一郎が、感心して礼子に、
「ちょうど、今、何か飲みたいと思ってたところだよ。
貴子と淳一の相手をしてたら、コチラまで緊張して、喉がカラカラになったよ。
相変わらず、鋭いね。君は。
ありがとう、助かったよ」
浩一郎は、アールグレイを飲みながら、ペコリと礼子に頭を下げた。
心配した礼子が、
「それで、二人との話しはうまくいったの」
浩一郎は、
「本人達は、私の話しの内容を理解したつもりになっているだろうけど、たぶん半分も分かってないと思う」
「どんなお話しをなさったの、あなた」
「貴子には、
死んであの世に行かけない人
幸せや愛について。
淳一には、
魔境へ引きずり込まれたみたいだから、その脱出方法。
もちろん、淳一でも出来そうなこと。
何かあった時に助けてもらう人、
神社仏閣でのお詣りの注意点
などを話したよ」
話し終わった時には、もう浩一郎のティーカップは空になっていた。
「貴子には、この世を彷徨っている人達が見えないんでしょうね」
「そうみたいだね、それに頭で考えてるから、まだ体感としてとらえていないみたいだ」
「そう言うものが、見えたり感じたりするのと、そうでないのは、どちらがいいのかしら」
「そりゃ、もちろん見えたり感じたりしない方がいいに決まってる」
「どうして」
「普通の生活においては、余分な恐怖や苦労をするからね。
この世の中には、知らなくていいことや、経験しなくていいことが、沢山あるからね」
「そうですよね、それに、いつもまわりに良き理解者や、アドバイスをしてくれる人がいるとは限りませんものね」
「そうだよ、まだ食べたことない食べ物の味を説明するようなものだよ。
それにそんなもの食べてお腹を壊しても、その対処方法を知らない人ばかりでも困るしね。
私だって、まだ今生では死んだことないし、過去世の記憶もない。
それに、誰かさんと違って、変なものも見えないしね。
だから、自分で食べたことないものを、食べたことない人に説明するのは難しいよ。
第一それが本当のことであるかどうかも、自分で実際に体験してないしね」
礼子は、空になったティーカップにまたアールグレイをゆっくりと注ぎながら、
「それは、それは大変でしたね〜。
お疲れ様でしたね〜」
少し、間をおいて。
「私達の村は、近くにあるんですよね〜」
「そうだよ、似てるけどちょっと違うから、同じような村だけど違うよ。
でもすぐ近くだから、簡単に行き来できるよ。
どうしたの、突然」
礼子は、それには答えずに、それぞれ空になった茶器を片付けた。
「さぁ、もう遅いから寝ましょうよ」
と、浩一郎の肩に甘えるように頭をのせて言った。
浩一郎は、礼子の肩に腕を回し、
互いの無言をはさんで。
「そうだね、もう私達も寝よう」
と、浩一郎は礼子のそばから離れて、自分の机の上を片付け始めた。
それを見た礼子は、それぞれ空になった茶器をお盆に置いて、浩一郎の書斎から出ていった。




