4-23 淳一のケンカ
淳一は自室に戻って、先程の話しを思い出しながら、ベットに入った。
その為かなかなか寝付かれず、その内に腰から下の足が、フワリフワリとゆっくり上下しているのに気付いた。
軽く上下している足から、だんだんと上へ上半身へと広がりその内に首から下全体が、首を起点にフラフラゆったりと上下していることを感じた。
なぜ、どうしてと、その感触を訝しんだ。
そして、ハッと気付いた時には、体がフッと浮いて、なぜか上を向いてるいるはずなのに、下に横たわっている自分の体が見えているのに気付いた。
自分の身体が天井近くまで浮き上がって、ぶつかるっと思った瞬間、今度は床の上10cmぐらいの高さに、うつ伏せになって浮いていた。
床の上を見ながらいると、体が前へ進みだした。
淳一は、何が起こっているのか分からず、様子を伺うことにした。
その内に頭がゴツンと、何か白い物にぶち当たった。
よく見るとそれは、青白く硬い足のすねで、それに続き、青い血管が浮きあがった青白い素足の足の甲が見えた。
手を頭の方に上げ、足のすねを手で支えにして、上の方を見るとよく旅館に置いてある様な青い浴衣であった。
淳一は、その足をつたって立ち上がった。
青い浴衣を羽織った者は、痩せて頬がこけ、薄い白髪頭の男であった。
その男は、立ち上がった淳一の胸ぐらをいきなり掴んで、顔を殴りかかってきた。
驚いたせいか淳一は、殴られた痛みを全く感じなかった。
淳一は、このままでは一方的にやられると思い、男の白くて筋張った細い首をつかんで応戦した。
淳一と男の殴り合いのケンカが始まったのであった。
すると男は、淳一の首を両手で締めてきた。
淳一も負けじと男の細い首を両手で掴んで、首をしめた。
男と淳一は、互いに首を締め合いながらいた。
このままでは危ないと思った淳一は、なぜか自然に、男の両手を振りほどこうとせず、手で印を組むと最近目にした密教の真言が口から出てきた。
淳一は、自然と手に印を組み口に真言を唱える自分に、自分自身が戸惑っていたが、その内に熱心に唱えている自分にも気付いた。
スーッと意識が薄れていき、気付いたら、男は消えており、淳一は座って、そのまま印を組み真言を唱え続けていた。
淳一は、頭がハッキリするにつれ、少し離れたところに如来様が座っているのが分かった。
それが、浅黒い肌に黄色っぽい衣を体に無造作にまとっているように見えたので、淳一には如来様と分かったのであった。
またそれは、写真やお寺に安置されている仏像によく似ているとも淳一は思った。
しかし、それには首から上がない顔や頭がない、いや、よく見えないのかもしれないと不思議に思いつつも、淳一は手に印を組み一心に真言を唱え続けた。
淳一は、自分のベットの上で、体を折り曲げ、震える手で印を組み、真言を唱える自分の声で、目が覚めた。
淳一が、今のは、いったい何だったんだと思った時には、体全体が細かく震えていることに気付いたのだった。
それは、
思わぬ幽体離脱であり、
見知らぬ男とのケンカ、
よくしらない印と真言、
首から上がない如来の出現と、
全く自分が知らない世界に突然放り込まれたことによる、
本能的な恐怖感に体がとった防衛反応でもあった。
しばらくして、淳一は落ち着きを取り戻した。
そして、ゆっくりと印を解き、真言を唱えるのをやめた。
自分の周囲を見渡すと、自分の自室にいることが分かり、フゥーと大きく息を吐いた。
大きな深呼吸を数回し、時計をみて、迷わず自室を出ていった。




