1-6 落下現場にて
鑑識作業が進む中で、Y警察署の野田は、第一通報者の花屋の中村辰雄に、
「私は、Y警察署の巡査部長の野田、こちらは安田と申します。
早速のことですが、あなたが110番通報された人ですか」
「あっ、はい」
「お名前とご職業は」
「名前は、中村辰雄、オヤジの代からここで花屋中村をやってます」
「はぁ、そうですか。
それで、あの女性をご存知ですか」
「いいえ、知りません。
外で大きな音がしたので、外に出て見るとあの女性が倒れてました。
知り合いではありません。
そして、外にいる妻から110番に連絡するように言われて私がしました。
妻が119番に連絡をしました」
「すると、あなたが第一発見者ではないのですね」
「はい、妻の聡子の目の前で落ちてきたようです」
「そうーですか。
なら、奥さんの聡子さんの目の前に落ちて来たのですね」
「はい」
「それでは、奥さんを呼んで頂けますか」
辰雄が妻の聡子を連れて来た。
「はい、こちらが妻の聡子です。」
連れてこられた聡子は、まだ蒼白な顔をしていた。
「あっ、旦那さんをはもういいですよ。
ありがとうございました。
奥さん、ビックリされたでしょう。
私は警察の野田、こちらは安田といいます。
旦那さんによれば、奥さんの目の前に落ちてきたとのことですが、本当ですか」
「あっ、はい」
「その時のことを話して頂けますか」
「はい、店から出て行こうとしたところで、あの女性が差し掛けを突き破って、ダンボール箱の上に落ちてきました。
それで私はすぐに119番して、主人に110番するように頼みました」
「あの女性をご存知ですか」
「いいえ、知らない人です。
あっ、でも、落ちてくるちょっと前に、この店の前を通り過ぎて、このビルの階段を上がっていきました」
「沢山の人が通って行かれるのに、よく覚えていらっしゃいましたね」
「はい、私が花をダンボール箱からバケツに入れていた時に、すぐ横を歩いて行かれましたから。
それが、うつむいてまるで夢遊病者か何かのように、心ここにあらずっていう感じで、スーッと歩いて行かれたので、なんだか気持ち悪かったので覚えてました」
「そうですかー、それは、それは」
その時、若い刑事が野田に耳うちをした。
「屋上のフェンスの手前にカバンがあり、中に免許証が入ってました」と。
「いや、奥さん大変でしたねー。
もう、いいですよ。ご協力ありがとうございました」
野田が振り向いて、
「免許証の名前は」
「篠田洋子で、Y市吉田町12-5となっております。免許証の顔と本人は同一人物のようです」
「分かった、本人確認の為にも、家族に病院に来てもらおう」