4-22 幸せって、何? 悲劇?
浩一郎は、貴子に悟すように言った。
「貴子、今までの話しの流れを考えてみると、そんなこと簡単じゃないかな」
「私には、よく分からないわ。
だって、洋子のように死ぬような目に合わなくて、平凡に健康で、長生きして、亡くなる人も沢山いると思うわ。
わざわざ、そんな辛い目に合わなくてもいいんじゃない」
「貴子、よく考えてごらん。
人は、この世に生まれ変わる時、時代や場所や両親などを選んで生まれ変わるんだよ。
それはなぜかと言うと、今生きている私達がより良い生活を求めて努力するように、あの世でより良い生活を送るためだ。
あの世の人は、あの世での努力で出来ることは、するだろう。
しかし、あの世で出来なく、この世でしか出来ないことのために、生まれ変わるんだよ。
何らかの目的、意図をもってね。
なら、その生まれ変わった人にとって、本当に幸せなことは、その目的をこの世でかなえるような生活をすること。
これが、本人にとって本当の幸せじゃないかな。
でないと、亡くなった後、またあの世で同じような生活を続けないといけないから、生まれ変わった意味がないじゃないかな。
例え、この世で辛く大変そうな状態であっても、それがその目的を達成する条件なら、それはやっぱり、その人は結果的には幸せと思うよ」
反抗するように、貴子が、
「でも父さん、普通の人は、その生まれ変わる前に決めた目的なんか知らないわ。
だから、辛い人は、ただ単に今を辛く思うし、自分を不幸だと思うのが普通じゃないかしら」
それに応えて、浩一郎は、
「そうだね、全く貴子の言う通りだね。
しかし、そこは上手くしたものであって、その目的を知っているあの世の人が、支援するんだよ。
本人の知らないうちにね。
ただ、この支援または手伝いには、余り強制力はないよ。
もし、強制力があれば、目的を成し遂げるのが本人でなくなるからね」
難しい顔をして、貴子は、
「なら、極端に言えば、どんな辛い状態であってもその目的を成し遂げる状態なら、その辛い状態が幸せって言うことになるのね」
「まぁ、極論的には、その通りだよ」
貴子が、それに対して、
「でも、普通の人はその目的を知らない。
なら、普通の人は、その時が幸せかどうか分からないわ。
幸せって、感じるものじゃないの。
だから、普通の人は父さんの言う幸せを感じることはないんじゃないの。
父さんの言うことは、今を生きている人にとっては、全く意味のないことと思うわ。
実際に洋子の事故だって、もし洋子の目的達成にかなうなら洋子は幸せなんだろうけど、死にかかった洋子に"幸せね"なんてとて私には言えないわ。
せいぜい".運が良かったね"とは言えてもね」
浩一郎が、同意して、
「そうだね、貴子の言う通りだね。
幸せと感じるかどうかは、その人の宗教観や道徳観などによって異なるね。
同じことがあったとしても、宗教観などが異なれば、幸せとも不幸とも感じるね。
これは、愛についても同じようなことが言えると思うね。
だから、愛や幸せなどは、古来から色々な解釈や定義がなされ、統一した見解にないね。
生まれ変わる目的が、分からないからある意味仕方ないことだね」
あきれた貴子は、
「父さん、それなら、まるで堂々巡りじゃない。
例えば、戦争で父さんは、目の前の何の罪もない母親とその幼な子を殺せと、上官から命令されたとする。
この場合、父さんはどうするの、または、それは幸せなの」
浩一郎は、少し考えて、
「そうだね、父さんは、たぶん躊躇なくその母親と子供を殺すね。
父さんがしなければ、上官は他の同僚に同じ命令を下すだろう。
ならぱ、父さんがして、あとで、自分が納得するまでその母子の冥福を祈るだろうね。
同僚が冥福を祈ると限らないからね」
貴子が、怒って、
「父さん、それは危険思想だわ。
それは、殺人者の言い訳にしか聞こえないわ」
浩一郎は、笑いながら、
「はっ、はっは。
確かに、殺人を正当化する危険思想かもしれないな。
その場合、生まれ変わった目的を知らない者同士の悲劇だね」
貴子のいかりは、おさまらず、
「父さん、笑い事ではないと思う。
殺人を犯しても、平然と居られるような父さんは嫌いだわ」
浩一郎が、それに対して、
「案外、その母子を殺した後、その上官を殺して、父さんは自決することかもしれないよ」
貴子は、ハッとして黙り込んだ。
二人の間のしばしの沈黙の後、浩一郎が、
「もう、遅いよ。
明日の仕事に差し支えるから、
もう、おやすみ」と。
貴子は茫然としながら、立ち上がって、
「父さん、
おやすみなさい。」と、
ドアの向こうに姿を消した。




