4-17 危ない幽体離脱
父浩一郎が自宅に帰って来る前に、
母礼子と姉貴子、弟淳一は、夕食後のお茶の団欒の時間に、洋子と裕子の話しをしていた。
そのうちに浩一郎が帰って来て、話しは淳一が、また幽体離脱してあちこちウロウロしたことで盛り上がった。
浩一郎は、神妙に困ったような顔をして、その話題を静かに聞いていた。
その時、淳一は幽体離脱してもこの世は移動出来るけど、あの世に行く方法が分からない、となげいて浩一郎に聞いた。
洋子姉ちゃんや裕子さん達は、幽体離脱してすんなりあの世に行ったのに、自分は行けない。
何か秘密があるはずだと思ったからだ。
浩一郎は、
「行く方法は、何種類かある。
洋子や裕子さん達は、その中で最も安全で確実な方法で行って戻って来ている」
「なら、父さん、そんな方法があれば、僕にも教えてよ」
「なぜ、興味本意で行くところではないよ」
「だって、僕だって、あの世に行って、三途の川も見てみたいし、自分の前世なんか知りたい。
それに産まれる前の村に行けば、なぜ産まれ変わる必要があったか理由も分かるんでしょ。
僕だって、知りたいよ」
「あの世に行く方法は、教える訳にはいかんな。
それに、幽体離脱してあちこちウロウロすることも、もうやめておくことだ。
非常に危険なことだ」
「なぜ、やめないといけないの」
「それは、生半可な者が幽体離脱すると、魔境に入り込み易く、いわゆる魔物が現れるからだ、いや、もう一歩踏み入れているようだな」
「魔境って、何」
「魔境とは、簡単に言うと、純然たる自分の精神内での魔境と、幽体離脱などして外の魔境がある。
そこでは、色々なものに出会うことがある。
例えば、オノレを惑わす幻覚や怪しく恐ろしいものだ。
どちらも、生半可な者が入り込むと、それらに取り込まれることのある、危ない世界だ」
「僕は、大丈夫だよ。
だって、今まで何度もしてどうもなかったから、これからも大丈夫だと思うよ」
「そう思うこと自身が生半可で、見たものを吹聴すること自身も、もう危ない世界に入りかけている証拠だ」
「もう危ない世界に入りかけてるって、何のこと」
「もし、どこかに淳一の好きな女の子がいて、今何してるかなって思い、淳一が幽体離脱して見に行ったとする。
なら、その女の子はどう思うかな。
その見たことをその女の子が知ったら、どう思うかな」
「そんなことしないよ」
「なら、なぜ見たことを、例え家族といえ調子にのって話すんだ。
もし、調子にのってうっかり外で喋って、見たものが事実と分かった時、淳一は周りからどう見られるかな」
「それは、ちょっとまずいかな」
「また、それを知って金儲けをたくらんで、誰かが近づいて来て、その口車に乗せられたらどうなるだろう」
「そんなのイヤだ」
「それに、今は幽体離脱が出来ても、今の境界のままでは、それがずーっと続く保証もない」
「そうなの、そんなものなの」
「いずれにせよ、今の状態は、淳一が破滅への入口にいるような気がする。
そうでなくとも淳一の人生は、大きく狂ってしまうような気がするな、父さんは」
「なんだか、そうかも…」
その時にはもう淳一は、ショボンとして蒼白になっていた。
「そんな状態では、とてもとてもあの世への行き方なんて教えられないよ。
分かるか、淳一」
淳一は、泣きそうな小声で、
「分かったよ、あの世へ行こうとも思わないし、幽体離脱しても誰にもしゃべらないよ」
強い調子で浩一郎は、
「いや、まだゼンゼン分かってない。
今の淳一が幽体離脱すること自体が、危ないんだぞ」
「なんで、幽体離脱が危ないの」
「魔境に入って、まだ、魔物に会って怖い思いや、自分が精神錯乱を起こしたりして、死ぬならまだいい、家族しか迷惑をかけないからな」
「そんなこと、したくないよ」
「一番困るのは、偽の神仏に会うことだ。
それを本物と間違って、神のお告げと周りに説くことだ」
「だから、幽体離脱中に見たり聞いたりしたことは、誰にもしゃべらないよ」
「いや、おうおうにして本物と信じてしまう。
その偽物の神仏お告げでも、
近い未来が当たったり、
病気が治ったり、
事故が未然に防げたりすることが、
時々あるからな。
そうなると、自然に周りに見たり聞いたりしたことをお告げとして説くようになる。
その神様が本物ならまだいいが、偽物でだ」
「確かに、そうなるかも。
偽物でも、時々はお告げが当たるの」
「うむ、よく当たる」
「なら、本物と偽物の区別は、どうやったら出来るの」
「心配するな、今の淳一の境界では絶対に本物は現れないから。
それに、もっと深い上の境界に行けば、自然に分かるようになる」
「そうなんだ、そんなものなんだね」
「そうだ、だからもう幽体離脱遊びはやめておくことだな」
「分かった、幽体離脱はもうやめるよ」
礼子と貴子は、真剣に二人の会話を聞いていた。
すると貴子が、
「でも、自分が産まれてきた理由、宿題は知りたいんじゃない。
私も知りたい」
「それに、死んだらどんな村に戻るのかも、僕は知りたい」
「そうだな、今生きている身としては、自分が産まれてきた理由、宿題は知りたいだろうな。
それに、死んだら最終的にどこへ行くかもな」
「それを知る方法は、あるの」
「うむ、一応ある」
「それが分かれば、ワザワザあの世に行く必要ないや、父さん教えて」
しばらく、浩一郎は考え込んで、
「それを知ってどうする」
今度は、二人の子供達が考え込んでしまった。




