4-10 裕子の過去
洋子の番が終わり、今度は裕子の番になり誠治が裕子にワザワザ確認を、
「ようし、今度は裕子さんの過去を見てみようと思うが、裕子さんや、今ここでそれを見てもよいじゃろうか」
と誠治が問うと、裕子は少し緊張して、意を結するように、
「はい、おじいさま、よろしくお願いします」と神妙な面持ちで答えた。
誠治は、少し心配するように、
「そうか、では、見てみるとするかのう」と、誠治は少し重々しく答えた。
スクリーンが、また違って新たに映しだされた。
裕子も、産まれた時からの様子から始まった。
両親に祝福された、幸せそうな幼少期であった。
裕子も洋子と同じように、ピアノの練習に励んでいた。
また、裕子のピアノの発表会での輝かしい一面も映し出された。
そして、小学校低学年でもうソナタを弾き始め、県のピアノコンクールに出場し、優秀な成績を納めている様子が見てとれた。
周りの人々は、密かに将来はピアニストかと期待しているのが分かった。
本人もそのように思っているらしいことも見てとれた。
しかし、裕子の両親はその進路を勧めるでもなくて、常に裕子が「楽しくピアノが弾ければそれでよい」と言っていた。
中学生の時、大きなピアノコンクールがあり、裕子は出場した。
そこで、裕子は、上には上があるという現実を思いしらされて、ピアニストになる夢を諦めたようであった。
裕子にとって、初めての挫折に落ち込んでしまったように見えた。
一時はまったくピアノのふたも開けなかった。
そんな裕子を両親は何も言わないで、黙っていつもの日常を送っていた。
しばらくして、裕子は、両親が常々「楽しくピアノが弾ければよい」と、言っていたことを思い出して、またピアノをまた弾くようになった。
今度は、技術の上達を目指すと言うより、本当に楽しそうにピアノを弾くようになっていた。
そんな裕子を見て、両親はホッとしている様子が伺えた。
高校は、見事に第一志望校に合格し、裕子は、皆んなにお祝いされていた。
高校でも裕子の負けん気の強い性格のためか、成績は常にトップクラスであった。
しかし、大学入試ではつまらないミスが重なり、滑りどめの第二志望での合格でしかなかった。
合格が確実と誰しも思っていた第一志望の大学に落ちたことは、本人もショックであり、周囲も残念がらせているように見えた。
それでも裕子は、皆んなの前では気丈に振る舞っていたが、一人の時はかなり落ち込んでいるのが見てとれた。
スクリーンを見ていると、平静を装っているように見えたが、時に受験に失敗したことが、コンプレックスになっているのも見てとれた。
その取り返しのためか、コンプレックスをバネにして、一生懸命に勉強に励み、優秀な成績で大学院修士課程に進学した。
遅くまで大学院で、勉強や研究をする日々が続いていた。
そんなある日の人通りのない夜道、裕子は、二人の暴漢に襲われた。
若い男二人がかりで押さえつけられ、ブラウスのボタンは弾け飛び、スカートをむしり取られそうになった。
その時、遠くから、
「そこで何してる、警察だ」と誰かが大声で叫んで走って来たのが見えた。
暴漢の二人の男は、その声と走って来る男に驚いて逃げて行った。
裕子は破れたブラウスを手で押さえ、壁際に丸くなりブルブルと震えていた。
駆け付けて来た男が、
「大丈夫ですか」と声をかけながら、自分のジャケットを裕子にかぶせて裕子を立たせようとした時、その男の顔がこちらを向いた。
スクリーンを見ていた洋子は、ハッと息をのみ、
「ゆ、裕子お姉さん」と叫び、裕子の方へ振り向いた」
裕子は、食い入るようにスクリーンを真剣に見ていた。
誠治は、目を瞑ってジッとしていた。
裕子を助けた男は、なんと洋子の父親の浩一郎であった。
次の場面は、互いに簡単な自己紹介をし、裕子を助けた男浩一郎が、裕子の通っている大学の物理学の非常勤講師であることを互いに知ったところであった。
その後、スクリーンは切り替わって、浩一郎と裕子は夕食を共にし、浩一郎が裕子の話し相手になっている場面を何度も映し出した。
裕子は、浩一郎との食事をダンダンと楽しむようになっていた。
スクリーンを見ていくと、浩一郎と裕子との交流は、裕子の襲われたトラウマを徐々に溶かしていっているのが分かった。
ある時裕子は、食事をしながら、博士課程に進学か就職かで悩んでいることを浩一郎に話していた。
浩一郎は、裕子の本心が進学にあることに気付いていたように見えた。
その陰で裕子が今の大学に、コンプレックスを抱いていることにも気付いているようにも見えた。
そこで、浩一郎は、自分の大学の博士課程への進学はどうかと話していた。
浩一郎の大学は、有名なトップクラスの大学であり、そこへ修士修了から博士課程へ編入できるか、不安もあるように見えたが、今の大学のコンプレックスを解消するためにも、裕子は思い切って編入試験を受けることにしたのが見てとれた。
成績優秀な裕子は、見事に浩一郎の大学の博士課程に入った。
複数の博士論文も好評で、裕子は心理学でPhDの学位を取得した。
その後、まもなくして心理士の資格も取得した。
裕子は、大学に残るより、現場へ出たいとの希望があった。
しかし、年末になってもそのチャンスがなくて、焦り困惑しているのが見てとれた。
裕子との食事でそれを知った浩一郎は、自分の大学の医学部附属病院の精神科の友田教授に働き口を頼んだようであった。
友田教授は、その時はたまたま、病院のカウンセラーのポストが一つ空いていて募集をかけるところであった。
裕子は、それに応募して見事採用され、現在に至った。
ここで、スクリーンは終わった。
裕子はジッと考え込んで、どれだけ篠田先生に恩があるか、迷惑をかけたかを改めて悟った。
「おじいさま、質問があります」
「何かのう、裕子さんや」
「篠田先生は、なぜ、あれ程私を助けてくれたのですか」
誠治は、それに応えて、
「それはのう、裕子さんや。
子は親を選ぶが、親の方も選ばれただけに子の目的、宿題を助ける義務のようなものがあるんじゃ。
今生では、珍しく二人は別々の世帯を選んだ。これも何らかの特別な理由があるはずじゃ。
その辺のことは、村で聞いてみなされ。
だから、浩一郎から見れば、裕子さんも自分の娘同然に思っておるであろう。
あの事件に、何か感ずることもあったであろうしな。
それも含めて、もし自分の娘ならと、当然のことをしたまでであろうのう」
洋子が、
「そう言えば、貴子姉さんが、父さんが洋子にはもう一人の姉がいるって言ってったって」
裕子が驚いて、
「えっ、篠田先生はそんなこと言ってたの」
洋子が、
「えぇ、貴子姉さんは、その時は父さんは変なことを言うなって思ってたら、裕子お姉さんを見て、納得したって言ってたわ」
また、裕子は驚いて、
「貴子さんも、私と洋子ちゃんの関係に、キズナに気付いたの」
洋子の考えは、
「そうみたいね。
だから、裕子お姉さんは、やっぱり父さんの娘なんじゃないかしら。
ただ、血は繋がっていないだけでね」
裕子が疑問を感じ、誠治に、
「では、おじいさま、なぜ私を娘同然と、篠田先生は信じられたのでしょうか」
誠治の答えは、
「それはのう、裕子さんや、この洋子の親なればこそ、自然に裕子さんが洋子の本来の姉、姉妹と気付いたんじゃ」
裕子は、不思議そうに、
「そんなこと、気付くものですか」
誠治が続けて、
「そうじゃ、それ程二人を知っていれば感じるものがあり、二人のキズナが固く結ばれているから、浩一郎も気付いたのじゃ」
裕子と洋子は、互いに顔を見合わせた。
それを見て誠治が、
「浩一郎も驚いたじゃろうな。
自分にもう一人娘がいる、娘であったはずの子がいると気付いた時は」
裕子が、浩一郎と知り合うキッカケに疑問を持ち誠治に、
「でも、たまたま篠田先生が私を暴漢から助けてくれたと言うのは、知り合うキッカケとしては、何だか出来すぎているのでは」
それには、ちょっと応えにくそうに、誠治が、
「そうじゃのう、ちょっと出会いのキッカケは劇的であったのう。
まぁ、もっともあの時、浩一郎と裕子さんが、あの夜道を通りがかるようにしたのも、まぁ、わしじゃがの」
裕子は、それを聞いて、
「はぁ〜」と目を見開いて、運命の巡り合わせに驚き、なぜそうしたかをツクヅク知りたくなった。
裕子は、自分の振り返った過去に、呆然としていた。




