4-7 三途の川の向こう岸
前の日と同じようにして、二人は幽体離脱し、自分達の身体を見下ろしながら、祖父誠治が現れるのを待った。
するとすぐに、二人の前に誠治が現れた。
洋子が今日の予定を誠治に、
「おじいちゃん、今日は三途の川の向こうに連れて行ってくれるんだよね」
誠治が同意して、
「そうじゃ」
洋子の心配を誠治に尋ねて、
「昨日、三途の川の向こうに行ったら、今の私達の世界に戻れないって、言ってたけど、私達は、本当に大丈夫なの」
誠治が、洋子の心配ごとに、
「大丈夫じゃ、ワシがついておるからのう、心配無用じゃよ」
洋子が安心して、
「なら、大船に乗ったつもりでいていいのね」
誠治が二人に、
「そうじゃ。
では参ろうかのう。
今日は昨日と違って、飛んで行くことにしょうかのう」
洋子が安心して、
「もう、あんなに歩かなくて、いいのね」
誠治が、二人に安心するように、
「そうじゃ、じゃないと二人とも疲れるからのう」
洋子が疑問を感じて、誠治に、
「おじいちゃんは、歩いても疲れないの」
誠治が答えた、
「わしか、わしは歩いているように見えても、実は歩いてはおらのんじゃよ」
洋子が驚いて、誠治に、
「ほんとう、歩いてるように見えたよ」
誠治が種明かしをした、
「実際にそう見えても、もうわしには肉体がないので、肉体が感じるような、身体の疲れはないんじゃよ」
洋子が、おかしな思いを口ずさみ、
「肉体の身体がない、それで、疲れないって。
でも、私達も、幽体離脱してたから肉体の体はなかったはずだけど…… 」
誠治が、洋子の思いに答えて、
「それはな、まだ体のあるクセが残っておるからじゃよ。
昨日、三途の川のほとりまで、三人で中に浮いて移動した感覚を覚えておるか」
洋子が、裕子に確認するように、
「よく覚えてないよ、裕子お姉さんは」
裕子の感覚は、
「私も何か自然に、気付いたら浮いて動いていたので、意識して出来るかどうか分からないわ」
誠治が、二人の不安に、
「まぁ、二人とも、分からなくてもよい。
ただ、わしについて行こうと思うだけで、十分じゃ。
そう思うだけで、自然に中に浮いて行ける。
分かったかな。
よいか、参るぞ。
さぁ、ついて参れ」
誠治を先頭に三人は、中に浮いて上へ上へと登っていった。
洋子と裕子も、浩一郎と礼子を見下ろしながら、上昇していった。
そして、病院も上から見下ろし、町の全体も見下ろしながら、グングン上昇していった。
誠治の登っていく先に、ひときわ明るく光る所があり、洋子と裕子はそれに向かって上昇していることに気付いた。
洋子と裕子が、ひときわ明るい所を過ぎたと思っかたら、三人はすでに、草原や花畑を過ぎ、三途の川のほとりに立っていた。
洋子が、誠治に不満を口に出した、
「おじいちゃん、アッと言う間にここまで来たんだね。
昨日も同じようにしてくれれば、あんなに疲れなかったのに」
と洋子は少しムクレた。
裕子はムクレはしなかったものの、気持ちは洋子と同じであった。
ただ、なぜワザワザ昨日は歩いたのかと、疑問にも思った。
誠治は、裕子の心で感じた疑問に答えるように、
「死んでおるならば、自然に今のように出来るんじゃが、なんせ、お前たちはまだ立派に生きておるからのう。
いきなり中に浮いて、高く上るのはどうかと思うて、昨日はここで練習がてらにちょっとやってみたんじゃ」
洋子が、ありがた迷惑そうに、誠治に、
「練習ね〜、それはそれは、ありがとうね、おじいちゃん。」
誠治が、三途の川の渡り方を二人に話した、
「昨日も言ったように、この三途の川の渡り方も、
上を飛んで渡ったり、
泳いで渡ったり、
船にのせてもらったり、
知らずに跨いで通り過ぎたりと
色々あるんじゃが。
はて、さてどうするかのう。
普通は、上を飛んで行くことが多いから、三人でさっきのように川の上を飛んで行くかのう。
それで、よいかのう」
洋子と裕子は、
「泳いで渡るなんかまっぴらよ、ねえ、裕子お姉さん」
「そうよね〜、泳ぎきる自信もないわ。
やっぱり、さっきみたいに、飛んで行きたいですね」
二人の渡り方の要望を誠治に、
「おじいちゃん、二人でついて行くから、飛んで行こうよ」
誠治が、二人の要望を聞いて、
「よし、ではそれで、まいろう」
三人は連れ立って、ゆったり流れる広い川幅の上へ飛びたった。
「うわ〜、上流も下流も見渡す限り広い川が続いてるね、裕子お姉さん」
「そうね、それに、さっきまでいた川岸の草原や花畑が、グングン離れて行っる」
洋子が、
「ねえ、ねえ、正面を見て、高い山々が山脈みたい」
裕子も行く先の景色を見て、
「本当ね、それに対岸がダンダンと近づいてくるからもう少しね」
三人は、三途の川を飛びきった。
洋子が見える風景を裕子にきいた。
「ここも、さっきいた川向こうと同じように、草原や色とりどりの花の咲いているね。
裕子お姉さんも、同じように見える」
誠治は、二人へ
「二人とも、ここは同じように見えるかのう」
裕子が二人を代表して答えた。
「はい、おじいさま、私も、洋子ちゃんと同じように、ここも先ほどいた所と同じように見えます。
ただ、違うのは、向こうの山の方に森のようなものがあり、木々のしげる山々が見えます。
そして、その向こうに高い山々が、そびえ立っているように見えます」
洋子も続いて、
「私も、裕子お姉さんと同じように、向こうに林か森があって、そのまた向こうに高い山々がそびえて見えるよ。
おいじいちゃん、ひょっとして、ここも人によって見え方が違うの」
誠治が答えた。
「いや、ここから先はだいたい皆、同じように見える。
そこが、三途の川の向こう側とこちら側の違うところじゃて。
こっちの世界が、よく言う本当の あの世 つまり、死後の世界じゃて」
洋子が確認するように、
「なら、ここが、私達の産まれ変わる前の世界がここなのね」
誠治は、答えた。
「そうじゃ、ここじゃ」
今度は、裕子が、
「それなら、おじいさま、ここに私達の本当の村、故郷のようなものがあるのですね」
誠治は、
「そうじゃ。
しかし、その村へ行く前に、二人とも予備知識として、ちょっと二人の今までの様子を見ておいた方がよいじゃろうのう」
洋子は何のことか、分からなくて、
「今までの様子って、何」
誠治は、それに答えて、
「まぁ、見ておれ。
まずは、洋子から見てみるとするかのう」
誠治がそう言うと、三人の前に大きなスクリーンのようなものが現れた。
それは、小さな映画館のスクリーンのようでもあった。




