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4-5 初めての異世界旅行のあと


「そうねぇ、淳一。

 まぁ、行けたと言えば、ちょっとだけ行けたかなぁ。

 三途の川のほとりまで、連れて行ってもらった」と、洋子が答えた。


「へぇ〜、すごいや。

 三途の川って、本当にあるんだ。

 で、どんな川だった」


「まぁね、ちょっと変わった川かな。

見る人によって、違って見えるんですって。

だから、話してもあまり意味ないような気がするのよね」


礼子が、

「まぁ、まぁ、二人とも無事に戻ってこれたし、初めてだから疲れたでしょう。

 洋子ちゃんの夕食も来てるから、もう今日はお終いにして、帰りましょうよ」


浩一郎が、

「そうだな、それがいい。

 礼子、すまないが、もう少しここにいてくれないか」


「もちろん、そのつもりですよ。

 あなた」


「斉藤先生も疲れたでしょう。

 淳一も一緒に三人で夕食でも、何か美味しいものでもどうでしょう」


「いえ、私は…… 」


「斉藤先生、いや、裕子ちゃんも、しばらくは誰かと一緒にいた方がいいと思いますよ。

だから、ね。

 あなた、お願いね」


「美味しいものって、僕は焼肉がいいな」


「淳一は、焼肉が好きだなぁ」


「あのう、私は…… 」


「裕子ちゃん、遠慮なんかいりませんわよ。

 残った仕事のことや、さっきのことは、パァッと忘れて、まずは気分転換に美味しいものをお腹いっぱい食べた方がいいと思いますよ。

 向こうでは、なんにも食べてないんでしょ、だからね。

 あなた、斉藤先生をお願いね」


「さぁ、さぁ、何か美味しいもの、斉藤先生のお好きなものを食べに行きましょう」

 浩一郎は、なかば強引に裕子を連れ出すようにして、淳一と一緒に病室を出ていった。


 裕子は、半ば諦めて浩一郎と出た。

 その時、裕子はまだなんとなく、身体がフワフワ浮いているような気分で、廊下を歩いていることに気付いた。


 洋子が夕食を食べていると、浩一郎達と入れ違いに貴子が病室に入って来た。


 礼子が、

「あっ、貴子ちゃん、たった今、父さん達が出て行ったの。

 会わなかった」


「会ったわよ、美味しいものを裕子さん達と食べるんだってね。

 淳一が言ってたよ。

 私も一緒に行きたかったけど、これを持って来たからね〜。

 私達は、三人でこれを食べましょうよ」

 と、貴子は買い物袋から、美味しそうなメロンを取り出した。


 洋子は、

「メロンなんか、どうしたの」


「そりゃぁ、やっぱり病人にお見舞いって言ったらね、昔っから高級なメロンでしょう。

 それに、こんな時でないと、食べれないしね。

 洋子の為に、奮発したのよ。

 それに、洋子の好きなチョコレートも買ってきたのよ。

 妹思いのいいお姉さんでしょう」


「貴子ちゃん、病人にメロンとチョコレーのお見舞いだなんて、本当は、自分が食べたかっただけでしょう」


「えへっへっへ〜当ったり〜。

 でもね、ここへ来る途中、果物屋さんでとっても美味しそうなメロンが目にとまったのよね。

 まるでメロンが買ってと、私を呼んでいるような気がしたのね。

 これは、本当なのよ。

 だからね、その叫びに誘われて、思わず大枚をはたいいて、カードで買っちゃた。


 オマケにね、チョコレートも、何となく洋子が食べたいだろうなって思って、思わず買っちゃたの。

 ひょっとして、私も、食べたかったのかな? 


 それに、ここに来る途中に父さん達に会った時、その話しをしたら、"それはいい、是非、洋子ちゃんと母さんと三人で食べなさい"って、言われたしね。

 なんか久しぶりに、父さんから誉められちまったよ」


「はい、はい、分かりましたよ。  

 では、一番楽しみにしている貴子ちゃんのために、メロンを切りましょうね」と、礼子がメロンを切る支度を始めた。


 洋子の食事が終わり、礼子が食器ののった病院食のトレーを下げた。


 礼子がメロンを切り分け、三人で、甘い甘いとメロンを食べていると。

 洋子が、

「でも、何だか変ね〜。

 私はそんな病人でもないし、お姉ちゃんが急にメロンやチョコレートを買って来るなんて。

 何か、おかしいよ。

 それに、さっきの父さんも、強引に裕子お姉さんを食事に誘ってたし。

 裕子お姉さんは、まだ今日の仕事が残っているみたいだったしね。


 なぜ、そんなに、私達に、私と裕子お姉さんに、何か早く美味しい物を食べさせたかったのかしら。

 あんなに強引に人を食事に誘うなんて、父さんらしくないし、母さんも、何だか変よ」


「母さんは、父さんが裕子さんを誘うから、何となくそれを薦めただけよ」


「ホントウ、それだけ…… 」


 美味しい、美味しい、甘いとメロンを食べていた貴子が、

「淳一から聞いたんだけど、三途の川のほとりまで連れて行ってもらったんだって」


「えぇ、まぁ」


「向こうで、何か食べた」


「いいえ、何も食べなかったわ」


「どのくらいの時間、あっちへ行っていたの」


 洋子は、暗い中を歩いた時間などを考えながら、

「さぁ、私の感覚では、1〜2時間くらいかしら。

 でも、淳一は5分ぐらいって言ったね」


「そうね〜、今6時過ぎだから、洋子ちゃんの腹時計の時間経過を考えると、今は7時か8時すぎじゃない。

 なら、お腹ペコペコで沢山食べてもいいんじゃない。

 ただ、興奮冷めやらずで、あんまり空腹感を感じてないと思うけどね。

 それに、昔噺なんかでよくあるでしょう。

 どこかの異世界に行って、その世界のものを食べたら、もう戻れないって。

 だから、もうこの人間世界に戻っていることを実感するためにも、早く何か美味しいものでも食べた方がいいんじゃない。


 今、話しながらふと思ったんだけど、こっちの世界に戻って来ても、何かあっちの世界の気分みたいなものを引きずってない」


「それ、どう言うこと」


「う〜ん、よく分かんないけど、

まだ半分、あっちの世界にいるみたいとか。

 気分が少しボーとしてるとか。

 精神状態が少し不安定気味とか。

 あっちでの経験が頭から離れないとか。

 なんかが、ありそうね。

 何か、そう言う点では、今はあまり一人でいない方がいいかもね」


 洋子は、何かジッと考えていた。

 貴子が続けて、

「要するに、今日のことにあまり捕われてはいけない、つまり、今晩異世界のことを思いあぐねては、いけないってことかな。

 だから、父さんはしばらく斉藤先生と一緒にいた方がいいと思って、食事に誘ったんじゃない。

 あまり捕われないようにする為にもね。

 そのためにも、一緒に美味しい食事を摂って、早くこの世界に身も心もも、しっかりと連れ戻す必要があるって思ったんじゃないかしら。

 それに、淳一がいれば、あの世界の話しより、食べ物の話しばかりするでしょうから、その点でもあの世界のことを忘れて、良かったんじゃない。

 疲れている時、美味しいものを、お腹一杯食べたら、あとは何にも考えないで、コテンと寝るだけでしょ。


 つまり、淳一はそのためのダシにされたのね、裕子さんの為の。

 だって、父さんが嫌がる若い女性を二人だけの食事なんか、誘えるわけないでしょう。

 でも、淳一がいれば、三人だから誘い易いしね。


 そして、ここでは私が洋子のためのダシじゃないかしら。

 だから、父さんは丁度いいタイミングを私が整えたから、父さんは私を誉めたように思うわね。

 今となって、父さんが私を誉めた理由がやっと分かったように思うわ。

 洋子は、私達とメロンが必要だったのね。

 身も心も、この世界にシッカリと戻る必要があるんじゃない。


 何たって、二人とも初めてのあの世の異世界体験だからね。

 変に、とらわれてもいけないしね。

 ただ、ちょっと、変わった所、異世界へ行って来ただけなんだからね。

 普通の旅行と同じようにね。

 添乗員付きのね。

 それに、いつも旅行から帰ると疲れてても、何か食べたいことよくあるでしょ。

 今回は、興奮してそれが分からないだけかもね。

 それもあって、父さんは斉藤先生を食事に誘ったんじゃないかしら」


 洋子は、少し気が楽になって、

「そうよね、ちょっと旅行して疲れて、いつものように帰ったらお腹へってるってことね」

と洋子が言うと。


 礼子が、

「母さんは、なんとなく思うだけだけど、洋子も斉藤先生も、まだ、あっちの世界の影響を引きづっているような気がしてた。

 だから、今洋子を一人に出来ないって思ったわ。

 それに、洋子がメロンを食べてて思ったけど、それまで感じていた、フワッとした感じがなくなっていて、いつもの洋子に戻ったような気がするわね。

 それを確認するためにも、母さんがここにいる必要があったのね」


 洋子は、二人の話しを聞きながら、文字通り、メロンをパクついていた。

 洋子は、気が付いたら一人でメロンを半分以上食べていた。


 貴子がそれに気付いて、

「あっ、あたしの分がもうなくなってる」と騒ぎ、三人で残ったメロンを見て、笑ってしまった。


 三人で残りのメロンを食べ終わると、貴子はチョコレートを食べようと提案した。

洋子が同意する間もなく、貴子は開けて自分で食べ出した。

 洋子は、今度は自分の分が無くなると思い、貴子に続いて手を延ばした。

 そんな様子を、ニコニコしながら礼子は見守っていた。


 チョコレートが無くなった頃、洋子は、完全にいつもの食いしん坊の洋子に戻っていた。

それで、もう、大丈夫そうだと安心して、礼子と貴子は病室をあとにした。


 洋子は一人になると、自然に先程の体験が脳裏に浮かんだ。

 でも、考えがまとまらず、自分が疲れていることにやっと気付いた。

 美味しいメロンやチョコレートを食べた満足感と幸福感が、心地よい眠気を誘ったのでもあった。


 その時、洋子は本当の意味でこの世にいることを実感した。

 帰った直後は、まだ、あの世の影を引きずっていたことにも。


 やはり、メロンを食べる必要があったような気がするわ、と。

 たぶん、斉藤先生も同じね、と。

 ウツラウツラとしながらも、感じ入った洋子であった。

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