4-4 初めての異世界
亡くなった洋子の祖父の誠治が、
「では、わしのあとから、ついて来るんじゃ」と。
亡くなったはずの誠治は、まるで生きている人のように、普通の人と変わらない様子で、二人の前を歩いていた。
祖父の誠治は、病室のドアを開けて廊下へ出て行ったが、病室に残っていた浩一郎達にはドアが開いたことも、祖父の誠治のあとについて出て行った洋子と裕子にも気付かなかった。
もちろん、誠治の存在にも気付かなかった。
病室に残っていた浩一郎達は、二人が依然とマットの上に横たわったままの姿を、静かに見ていた。
三人は、病院の廊下を歩いて行った。
すぐに、こんなところにこんな廊下は、この病院にはないはずと裕子は気付いた。
また、裕子がそれに気付いてしばらくすると、あたりが暗くなり、自分達三人が暗いトンネルのような中の真っ暗な道を歩いていることに気付いた。
周りは暗いが、なぜか自分達の歩く先に道が見えるのが、裕子には不思議に思った。
洋子は、怖くなり裕子の腕にしがみついて、一緒に誠治のあとを歩いた。
洋子がうしろを振り返ると、今歩いて来た道が暗闇の中に消えていたので、裕子を握る手にもいっそうの力がギュと入った。
いつまで歩くのかと、二人が不安になり始めた頃に、道の先に明かりが見えて来た。
明かりに近づくにつれ、周りの暗さもだんだんと薄くなり、裕子は草原のような匂いがしてくるのが分かった。
三人が暗いトンネルのような道を出ると、そこは広々とした草原で、遠くに色とりどりの花が咲いていた。
また洋子が振り返ると、そこには今まで歩いて来たはずのトンネルがないのが分かった。
「おじいちゃん、ここが、あのう、あの世」と洋子が誠治に尋ねると。
「いいや、ここはまだ、お前達の言うあの世でも、死後の世界でもない。
しかし、異世界には違いなかろうのぅ」
「なら、ここはどこ」
「まぁ、死後の世界へあの世へ行くための一時休憩所みたいな所かのぅ。
あの向こうに花畑が見えるじゃろう。
あの先に、お前達の言う三途の川がある。
その川を渡った先が、お前達の言う本当の死後の世界で、お前達の村も、つまり産まれる前にいた村もある。
その川を渡ったら、普通は引き返すことはできんよ。
しかし、わしがおるから大丈夫じゃて。
さて、あの花畑の方へ行ってみるかの」
誠治は、二人の前をスーと進んでいった。
二人は、足で歩くのではなく、空中を誠治と同じように、空中をスーと進んでいることに気付いた。
裕子は、誠治に
「お爺さま、先程のトンネルのような所は、道を歩いていたように思いますが、ここでは中に浮かんで移動しております。
ここでは、歩かなくて中を飛んで移動出来るのですか」
「そうじゃのう、裕子さんや。
ここでは、歩いての移動も出来るし今のように、中に浮かんで移動も出来る、いや、思うただけで、どこへでも行ける。
そんな所じゃよ」
二人は、それを聴いて驚いて顔を見合わせた。
三人が色とりどりの花が咲いている花畑の端まで来た所に、向こう岸が見えない大きな川があった。
そのまた遥か向こうに高い山々が、うっすら見えるのに、二人は気付いた。
二人は、これが話しに聞く三途の川かと思った。
「おじいちゃん、この川があの三途の川でその向こうが、私達が産まれ変わる前にいた世界なの」
「そうじゃよ。
この川が、よく言う三途の川じゃ。
洋子には、この川がどんな風に見えるかのぅ」
「そりゃ、向こう岸が見えない幅の広い川で、ゆったり水が流れているわ。
裕子お姉さんは」
「私も洋子ちゃんと同じように見えるわ」
「おじいちゃん、それがどうかしたの」
「実はのう、ここは、いや、三途の川もじゃが、人によって見え方や感じ方が違うんじゃよ。
それに、ここに来る方法も何通りもある。
もちろん、川の渡り方もな」
「おじいちゃん、それどう言うこと」
「普通、人が死ぬとここに来るんじゃが……
さっきは、わしに連れられて、病院の病室から歩いて出て、それから暗い道を明かりに向かって、三人で歩いてここまで来たのぅ。
しかし、ここへの来方は、
いきなり中を飛んで、気が付いたらここにいたり、
今回のように誰かと一緒に歩いて来たり、
色々とあるんじゃ。
それに、ここの景色も、
花の咲く草原に見えたり、
砂漠のように見えたり、
これも色々ある。
三途の川も
広い大河に見えたり、
すぐそこに対岸が見える、普通の川のように見えたり、
また、
せせらぎのような、跨いで渡れるような小川に見えたりするとこもある。
その場合、それが三途の川と思えんから、三途の川なんて無かったと感じる人もおる。
要は、
そのまま元の世界に引き返せる所と、
引き返すには産まれる変わるしかない所、
本当のあの世との境はちゃんとあるんじゃ。
ここは、元の人間世界へそのまま引き返せる世界で、
川を渡ったら、
産まれる変わらんと、今までおった人間世界に戻れんと言うことじゃな。
もちろん、渡り方も、
上を飛んで渡ったり、
泳いで渡ったり、
誰かの船にのせてもらったり、
さっき言ったように、単なる小道のような所を知らずに跨いで通り過ぎたり、
と色々ある。
とにかく、人によって、見える世界が違うからのう。
「おじいちゃん、人が死んでまず最初に来るのがここなんでしょ。
なんで、こんな所があるの。
それに、来方も見え方も違うなんて、この世界はいっぱいあるの」
「いや、一つじゃよ。
ただ、人によって見え方や感じ方が違うだけじゃよ。
それはなぁ、人は人間世界で色々なものを見て感じるクセやコダワリを持って、それらを身につけてここに来る。
そのようなクセやコダワリによって、見え方や感じ方が違うんじゃよ。
都会の真ん中で、多くの人々がおるにもかかわらずに、知人も友人も近くにいなければ、それは砂漠に一人いるような孤独を感じるであろうて。
そのような人間がそのままここに来ると、始めは今までおったような変わり映えしない世界が、だんだんと、寂しい所にいるように感じても不思議あるまいてな。
ここはのう、そのような人間世界での表面的なクセやコダワリを出来るだけ自ら悟って、捨て去る所なんじゃ。
それらが、あらかた取れたら自然と向こうの世界へ渡れるんじゃ。
それに、まず、ここでは夜がない。
腹が減ることもない。
移動がある程度、自由に出来る。
病気で死んだ者も、ここではもう治っておる。
ある意味非常に自由な世界じゃて。
それがゆえに、人間世界でついた見栄や世間体なんかのクセやコダワリが少しは落ちて、その人間の本性が段々と現れてくる世界じゃ。
まぁ、人間世界での見栄や世間体なんかの世俗のしがらみなんかをある程度、落とす世界じゃて。
さっきも言うたが、ここにいるうちは、まだ人間世界へ戻ることもたまにある。
しかし、川の向こうに渡ったら、人間世界へ戻るには産まれ変わるしかないがのう。
もっとも、洋子の場合は、ここに来る前に人間の身体に戻ったがのう。
さぁ、今日のところは、そろそろ戻るかのう。
次は、川向こうの、お前達が言う死後の世界、産まれ変わる前の世界へ行ってみょうかの。
さっきのように、二人で準備が出来たら、洋子がわしを呼んでくれるとありがたいのう。
そして、わしから余り離れぬことじゃて。
戻れんことも、あるやもしれんしのう。
良いか、それだけは決して忘れぬようにの」
誠治が言い終わると、ほぼ同時に病室の二人が目を覚ました。
二人がゆっくり起き上がり、互いに顔を見合ってホッとした。
二人があたりを見渡すと、そこは病室で、浩一郎や礼子、淳一が目に入った。
淳一は、二人に
「ねぇ、ねぇ、お姉ちゃん達、うまくあの世に行けたの。
まだ、横になって、5分も経ってないよ。
それに、まるで寝てるみたいだったけど」




