3-12 難しいが、確実な方法
「もう一つの方法は、それはある意味簡単だ。
死んであの世に行けば、必然的に分かる」
洋子が、呆れた様に言い返した。
「そんなの意味ないよ、死んだら宿題が出来ないじゃない」
と洋子が叫んだ。
礼子も貴子も、裕子も静かにしていたが、心の内は同じであった。
浩一郎は、それを受けて、
「そうだな。
ならば、生きてて死んだ状態になればよい。
つまり、幽体離脱したらあの世に行って、帰って来れる。
あの世に行って、なぜ自分が産まれ変わったかを調べることが出来る。
らなば、この世での宿題の内容が分かる。
今、うちの家族では、洋子と淳一が幽体離脱の経験をしている。
二人の幽体離脱の状況は異なり、まさか、洋子がまた飛び降りるわけにはいかんから、淳一の方法でやってみる価値はある」
洋子が、興味を引かれ聞いた。
「淳一は、どうやって幽体離脱したの? 」
浩一郎が、淳一からの話しを思い出しながら答えた。
「たまたま、自律訓練法をしていて、偶然にできたらしい」
偶然では、意味がないと続けて洋子がさらに聞いた。
「父さん、他には方法がないの」
洋子の真剣さは、さらに浩一郎への質問として表れた。
「基本的には、広い意味での瞑想だ。
やり方は、各種瞑想、ヨーガ、自律訓練法やマインドフルネス、座禅、仏教の密教の護摩行、神道の祝詞、キリスト教の祈りなどなど沢山ある。
しかし、宗教系は、行ってもすぐに教えてくれない。
他の方法は、一応素人でもマネは出来るが、よい指導者がいないと難しい。
どちらも、それが危険であることと、体得しながら教える口伝があるからだ」
「なら、その指導者はどこにいるの。
それに、危険を回避するにはどうするの」
「おそらく、それが出来る指導者は、いても日本には数人もいれば多い方だろう。
それに、そう言う人は表に現れないから、父さんも知らない」
「なら、ダメじゃない」
「でもない、父さんは指導者にはなれないが、その手伝いぐらいなら出来る」
「えぇ、父さん。
父さんで大丈夫なの」
「少なくとも、可愛い娘が危険な目に合わないようには、何とか出来ると思う」
「思う、思うだけ、頼りないなぁ〜」
「洋子が一人で行くのは、適当でない。
出来たら、洋子と淳一、あるいは、洋子と斉藤先生のペアの方ががいい」
「淳一とかぁ、淳一は頼りないからなぁ〜」と言いながら、洋子は斉藤先生の方を見る。
それを見て、浩一郎は裕子に、
「斉藤先生は、どう思われますか」
その時礼子が、強く首を振りながら、自分の意見を叫んだ。
「私は、斉藤先生と一緒と言うのは反対です。
もし、よそ様の娘さんに何かあったら、どうするのです。
取返しがつかないことになったら、どうしょうもありません」
貴子が、
「私とは、ダメなのですか」
「ダメではないが、たぶん洋子と斉藤先生のペアがこの中では一番いいだろうな」
洋子が、素直に疑問を口にする、
「なぜ、斉藤先生が一番いいの。
理由は? 」
「おそらく、二人で行けば、そのわけも分かるだろう。
斉藤先生のご意見は。
もちろん、断ってくれても、まったくもって問題ないよ、気にしなくてもいいよ」
斉藤先生つまり裕子は、今までの経緯を振り帰りながら、覚悟を決めて宣言する。
「私は、洋子ちゃんと行ってもいい、いや、一緒に行きたいと思います。
だって、洋子ちゃんは何だか他人とは思えないし……
それに、篠田先生にとって、可愛い娘さんつまり洋子さんには危険がないように出来るのでしょう。
なら、一緒にいる私だって危険がないはずでしょう。
もしかして、篠田先生は最初からそのつもりで、私を呼んだのではないでしょうか」
「いやいや、まぁ、そこまでは、考えていなかったよ。
ただ、洋子の心の鎮めて、カウンセリングをして立ち直るフォローをお願いしたいと思っていたよ」
もう一度、裕子は確認するように、念をおす。
「篠田先生は、娘さんの洋子ちゃんに危害が及ばないようにするんでしょう。
なら、一緒に行く私も安全ですよね」
「そうだね、少なくとも洋子と同じぐらいに安全に戻って来れるはずだ」
「私、洋子ちゃんと一緒に行きます。
それに、一緒に行けば、なぜ二人が互いに懐かしいかも分かるんでしょう」
「うむ、それは分かる」
礼子と貴子は、沈黙でもってそれに同意するしかなかった。
「なら、まず幽体離脱の仕方とあの世つまり異世界への行き方を教えよう」
礼子が、一人冷静に注意する。
「あなた、もう、遅いですから、明日か別の日にどうですか」
「おぉ、そうだそうだ、もうこんな時刻だ」
「斉藤先生、ご自宅までお送りしましょう」
「あっ、はい、ありがとうございます。
洋子ちゃん、カウンセリングは明日の午後3時に時間をとってますから、その頃ここに来ます。
ここで、カウンセリングをしましょう」
「はい、ありがとうございます。
斉藤先生、宜しくお願いします」
「さぁ、斉藤先生、帰りましょう」
浩一郎は、裕子を連れて、病室から出ていった。
貴子が、
「ねぇ、ねぇ、母さん。
父さんは、本当に大丈夫なの」
「母さんは、父さんを信頼してます。
それに、あんな時の父さんはまず自信がある時の言い方ね」
「はぁ〜、母さんったら。
でも、今一番の問題は、洋子がまた突然飛び降りるようなことを避けるためでしょう。
それが、なぜ、あの世、異世界に行くことになったのよ。
普通のカウンセリングでも充分じゃない」
「医師や心理士のカウンセリング期間や治療中に、患者が自死することはよくあることよ。
洋子が、別にそうするとは思えないけどね。
父さんは、洋子が飛び降りて偶然が重なった意味を考えて、自分が異世界旅行を手配する危険性と洋子が自死する可能性を天秤にかけ、父さんは異世界旅行の方が可能性が低い安全と考えたのではないかって、母さんは思うのよね」
「あんな、何だか頼りない言い方でぇ〜」
「忘れたの、父さんは物理学者よ。
決して100%の自信があるような言い方はしないわ」
「物理学者ねぇ〜、物理学者があの世つまり異世界へのツアーコンダクターをするのねぇ〜。
変な物理学者」
「だいたい、物理学者って変人なのよ。
私達みたいな、普通の人とは違うわ。
それに、父さんはツアーコンダクターをしないはずよ。
いや、それは出来ないはず。
父さんがするのは、旅行の手配をするだけのはずよ。
たぶん、あの言い方なら現地で異世界での添乗員を用意するんじゃないかな」
礼子の話しを聞いていた貴子と洋子は、共に、母さんだって、普通の人じゃないと思いながら、黙っていた。




