3-9 続く幸運
洋子と礼子が病室に着いて、お茶を飲んで一休みしているところに、カウンセラーの斉藤裕子が私服でやって来た。
「あっ、裕子お姉さん」
「こんにちは、洋子ちゃん。
調子はどう」
「調子いいですよ」
「でも、カルテを見たんだけど、フラフラするんだって」
「そ、そうなんですよ、
下を見て、立つとふらつくんですよ。
何でなんですかねぇ〜」
「そうねぇ〜、色々考えられるけど…。
困ったわねぇ〜。
でも、調子いいって忘れるぐらいだから、大したことないかな。
まぁ、その内治るかもね。
それより、洋子ちゃんのお父さん、篠田教授ってすごいわよねぇ〜。
ビックリしちゃった」
「何でですか」
「洋子ちゃんの主治医の佐藤先生に、色々便宜をはらってもらっても、担当日以外の友田教授をアサインするなんて、普通は出来ないよ。
おそらく、篠田教授の配慮があったみたいね」
「そうなんですか」
「そうよ、だから検査も午前中で終わるし、午後イチに耳鼻科も入れ込むなんて、佐藤先生もよほど洋子ちゃんが心配なのね」
「そうなんですか」
「そりゃ、そうよ。
検査関係は、前日から予約できるからまだしも、午後急に耳鼻科なんて、普通そんなことありえないわ。
午後も予約が入っているはずだしね。
普通の感覚なら、3日はかかってもおかしくないスケジュールだわ」
「でも、他の予約の人を押し退けて、強引に割り込んだような感じはしなかったですよ」
「そこが、また不思議なのよ。
それぞれの検査にしても、耳鼻科や友田教授にしても、予約の患者さんが遅れたり、たまたま、手が空いてみてもらったりね。
洋子ちゃんの幸運まだ続いてるみたいね」
「なら、裕子お姉さんは」
「私は、特別よ。
だって、以前、篠田先生には大変お世話になったからね。
ここで、少しでもカリを返さなくっちゃねって思ったのよ。
だから、カリを少しでも返せるチャンス到来って思った。
そう思って来てみたら、洋子ちゃんが懐かしくて懐かしくて、そんなこととは別に、この妹みたいな子をなんとかしなくっちゃって、自然に思ったわ」
「父さんにどんなカリがあるんですか。
あの父さんが、若いお姉さんに何か、ちょっと想像つかないなぁ〜」
「まぁ、それは秘密ね」
「何か意味深ですね〜。
それよりさっき、私のカルテ見たって言ったでしょう。
私、検査結果や耳鼻科と精神科の診察結果、何も聞いてないんですよ。
良かったら、教えてもらえませんか」
「う〜ん、私から正式には言えないけど、本人の希望だからね〜。
あとで、佐藤先生が話すと思うけど…。
ザックリ言って、精神科以外は問題なしよ。
その精神科に関しては、私がフォローしてカウンセリングすることになってる」
「精神科での問題があるってことですか」
「だって、下を向いて立ったらふらつき、前を向いて立ったらどうもないんでしょ。
それに、耳鼻科の問題でもないなら、残るのは精神科しかないのよね。
ただショックによる一過性の可能性もあるから、佐藤先生はもうしばらく様子をみるんじゃないかなぁ〜。
これは、私の想像ね」
「ふう〜ん、そうなんだ」
「第一、今の調子で、はい退院ねって言われても、日常生活に支障があるでしょ」
「そうですね、いちいち下見て前見たらフラフラするって、もし、こけたらって思うと何にも出来ませんしね。
それに、車の運転で、スピードメーター見て顔を上げたらふらつくなんてことになったら、運転も出来ないしね」
「それだけじゃないわ、洋子ちゃん階段の登り降りもあやしいよ」
そんな話をしているところに、貴子がノックして入って来た。
「あっ、貴子姉さん、
こちら、私のカウンセリングをして頂くことになってる斉藤裕子先生です。
こちらが、私の実の姉です」
「篠田貴子と申します。
この度は色々とご厄介をおかけしますが、妹を宜しくお願いします」
「いえいえ、そんなことありませんよ。
私は、ここの精神科でカウンセリングを担当している斉藤裕子と申します。
こちらこそ、宜しくお願い致します」
「ふ〜ん、父さんの言った通りだわ」
「なに、なに、なんなの」
「あなた方二人は、ある意味とても良く似ている。
いわゆる、同じ匂いがするってことかな。
もし、父さんの言うように、あの世や前世みたいなもんがあれば、あなた方は、姉妹か、さしずめ親子だったとしても納得できるわね」
「えっ、裕子お姉さんと姉妹か、親子、それも悪くないわねぇ〜」
洋子は、何か思い付いたように、
「そうそう、昨日、裕子お姉さんと父さんが帰ったあと、貴子お姉さんが来て、父さんの話の補足みたいな話、註釈みたいな話をしてくれたよね。
子供は親を選んで産まれてくる話や、あの井戸の話、カードゲームの話。
もう一回してくれないかなぁ〜。
私、よく理解してないせいか、自分ではうまく話せそうにないの」
「しょうがないなぁ〜。
では、可愛い洋子ちゃんのためか、ならもう一回話すね」
貴子は、もう一度、昨日話した内容を二人に話し出した。
そんな様子を礼子は、ニコニコとして見ていた。




