3-5 井戸の話
「洋子、洋子は井戸の話、深い深い井戸の話を知ってる」
「何それ、深い井戸が今関係あるの」
「そっか、やっぱり知らないかぁ。
今洋子は、深い深い井戸の底、とても出れない井戸の底にいるとしたら、どうする」
「ふ〜ん、大きな声を出して助けを呼ぶかな」
「何度叫んでも、誰も助けに来ない。
なら、ならどうする。
誰もその声には、気付かない、深い井戸よ。
それに、井戸の壁は湿って、気付かないけど水かさがちょっとつづ上がってる。
今はまだ、靴の下あたりだけど、井戸の壁をつたった水がほんの少しづつね。
そんな、深い井戸よ、洋子はどうする」
「そうねぇ〜、ひとりでは出れなくて、助けを呼んでも来ないなら、泣き叫んぶかな。
それでも、ダメなら泣き疲れて、しゃがんで泣いてると思う」
「いつまで、そうやって、泣いているの。
誰も助けに来ないわよ。
どうする」
洋子が、しばらく悩んでると、礼子が、
「貴子ちゃん、そんなに洋子ちゃんをいじめないで、そろそろ答えを話したら」
「母さんは分かるの、どうしたらいいか。
それに、井戸の意味も」
「なんとなくね、井戸の意味は分かるわよ。
それに、どうしたらいいかもね。
いや、どうするか、かな」
「すごいね、父さんから聞いたの」
「いいえ、聞いてないわよ。
初めて聞く話しよ。
でも、母さんは、父さんと長年一緒にいるのよ。
そのぐらい、なんとなく分かるわよ」
「ふ〜ん、そうなんだ。
自分が父さんから聞いた時、今の洋子のようにまったく分からなかったわ。
さすが、母さんね。
洋子ちゃん、じゃ答え、えぇ、一つの答えを教えるよ。
それは、今、その時出来ることを
出来たら、
最善、
いや、
最適と思うことをすることよ。
出来たら、
一生懸命かな、
いや、
自分なりかな。
つまり、自分なりに最適と思うことをすることよ」
「なん〜だ、そんなことか。
そんなの当たり前じゃない」
「でも、答えられなかったじゃない。
それに、当たり前って言うけど、
これが、結構難しいことなのよ」
「なんで」
「井戸の意味分かる。
井戸とは。
今いるこの世界、つまりこの世のことよ。
今、この世からは、どうしても抜け出せない、出れない。
深い井戸の底いることと、今この世にいることは、同じこと。
抜け出せないもんね。
死ぬ以外にね。
つまり、井戸の底で泣き叫んだり、絶望したりすることと、今生きてることは同じことよ。
井戸の底で出来ないことが、今生きてるこの現実の中で出来るの。
井戸の底から水が上がってくるって、言ったよね。
気が付いたら、水が首下まで来てるかもしれない。
そんな井戸の底でも、当たり前って言える。
それは、この世のことで言い換えると、病気か事故で、あなたの命はあと半年って、医者から宣告されたことと同じことよ。
そんな状況でも、出来ることは沢山ある。
その中から、最善なこと、より適切なことを選べる。
確かに、出来ることは目先のことかもしれない、でも、ささいなことでも、のちのち、やっておいた方がいいことって沢山ある。
つまりね、深い井戸の底でどうするかって言うことは、
今をどう生きるかってことよ。
それが分からないと、
答えたことにならないわ。
つまり、
深い井戸の底でどうするかってことは、
洋子は今を今後をどう生きるの。
いや、生きたいの。
どうしたいのって、聞いたことと同じことね。
そして、現実問題として、
何をするかと言う大問題があるわ。
生まれて来た理由いいかえれば、目的よ。
何をすれば、その目的を達するかだわ」
「そんなこと、私には出来そうにないわ。
もし、目的を達成しなかったら、どうなるの」
「そんなの簡単よ。
死んであの世からまたこの世に生まれかわる時、たぶん同じような目的をもって、生まれかわるだけだと思うわ」
「なぜ、そう思うの」
「だってそうでしょ。
楽な生活の出来るあの世から、何かをしたいと決めて、わざわざ苦労の多いこの世にくるのよ。
その何かをしたいってことが、出来なかったら。普通は再チャレンジするわね」
「ふ〜ん、そうなんだ。
目的を達しなかったら、
ひょっとして、
いつまでも、
あの世とこの世を行ったり来たりするんだぁ〜」
「そうね、たぶんね。
あの世も含めて、
どう生きるかが、本当に生きるってことみたいね。
それが、父さんの言う、
あの世との輪廻転生ってことだと、
私は思うのよ」
「なら、私の目的は、何。
どうしたらわかるの。
何のために、生まれてきたの」
「私も、洋子と同じようなことを、父さんに聞いたわ。
父さんは、こんな話しをしてくれたわ」




