3-4 子が親を選ぶ
「はい、どうぞ」
洋子の声を合図に、室内を伺うようにそっとドアが開き、長女の貴子が入ってきた。
「洋子ちゃん、体調はどう」
貴子は、洋子を通して遠くを見るような感じで聞いた。
「うん、だいぶいいわ。
ねぇ、ねぇ、貴子姉さんは、よく父さんと話してるでしょう。
死後の世界とか、輪廻転生とか、子供が親を選んで生まれてくるとか、父さんと話したことある」
「あぁ〜、その話ね。
洋子ちゃんは、まだ聞いたことなかったのね」
「えぇ、今日初めて聞いたわ。
貴子姉さんは、知ってるのね。
死後の世界とか、親を選んで生まれるとか。
姉さんは信じれる」
「う〜ん、信じるって言う意味よるけど、
それを信じた方が、結果的に生きやすいかな」
「えっ、それどう言う意味なの?」
「そんなの、簡単よ。
例えば、なぜ洋子ちゃんは、今この時代の日本に生まれてきたの。
なぜ、父さん母さんの子で、私の妹なの。
説明出来る」
「そんなのただの偶然よ。
それとも、神様のなせる技かしら」
「偶然と言い出したら、全て偶然になるね。
となると、突き詰めていくと、今この宇宙の世界がすべて偶然でできたの。
すべて偶然と言うことは、そこに原因も結果もない。
つまり、この世のことは、何もなくてすべて突然決まると言うことになるね。
しかし、現実には、少なくとも、物の世界の存在やその動きには、原因と結果がある。
もっとも、この世はパラレルワールドの一つとか、無から宇宙のようなものが無数に生まれ、今の世界は、光速度やプランクなんとかが今の値だから存在するとか、父さんは言ってたわ。
そこには、偶然と言うより、無数の発生の結果の必然みたいなものとも言っていたわ。
それに、神様がそうしたって言うのなら、一神教の神様は、その宇宙創設から今まで随分忙しいのね。
多神教ならそうでもないけど。全ての偶然を神様が決めるって、ある意味主人と召使の関係みたいね。
それにこちらが、神様にお願いして、時々願いがかなうのは、人間の主人がなかなか言うことをきかない召使いが、神様みたい。
神様はたまに私達の召使いになるの。
そんなの、やっぱり可笑しいわよ。
そんなことより、父さんの言う死後の世界や輪廻転生を実際にあると考えた方が、ほとんどのことが自然に説明できるしね。
それに昔から現在でもその存在を体験する話はあるしね。
ただ、父さんはこうも言ってたわ。
それらの世界の証明は、現在では現代科学に適さない。
と言うのは、今の科学は、客観性と再現性を求めるから、と。
それに、現在の技術では、それらを神の存在を測定することなんか出来ない。
出来ないから、ないとは限らない、けどね。
物理の世界では、その時は出来なくとも、時代を経て出来るようになったことは、たくさんあるって。
例えば、光の速度は昔から無限って言れていたけど、時が経って測れるようになった。
こんな例は、いくらでもあるみたいね。
だから、今証明できないからないとは言えない、って。
しいて言うなら、今は、それを証明する技術や手法を持ってないだけだって」
「姉さん、すごーい」
「ただの、父さんの受け売りよ。
それに話したのだいぶ前だから、間違えてるかもしれないしね」
「なんとなく。
うん〜面倒臭いから、分かったことにするわ。
とにかく、死後の世界と輪廻転生は、あるのね。
でも、子供は親を選んで生まれるって、どう言うこと」
「それはね、姉さんもよく分からないけど。
死後の世界とこの世は、どっちが暮らしやすいと思う?。
たぶん、あの世では病気は無さそうだし、もう死んでるから死の不安や恐怖もないよね。
まだ、他にもこんなの沢山あると思うけど、どっちにしても、あまり苦労のないあの世から、苦労ばかりするこの世に来るんだから、それ相応の理由かあるはずよ。
だから、その理由をなんとかするためには、それをなんとかしやすい、時代や場所、親を選ぶのは自然じゃないかしら。
だから、父さんは子供が親を選んで生まれるって、言ってるのよ。
だから、その理由が、いわゆる宿命って言うものに近いのかな」
「ふ〜ん、よく分からないけど、姉さんがすごいってのは、良くわかるわ」
「私じゃないわ。
すごいのは、父さんよ」
「なんとなく、分かったような気がする。
なら、私もこうして父さんや母さん、それに貴子姉さんのいる家庭を選んで生まれきたって言うのね」
「たぶん、そうよ。
いや絶対そうよ。
私は、父さんと母さんを選んで良かったと思ってるよ」
「なぜ、そう思うの。
貴子姉さんが、生まれてきた理由にあっているの。
なら、私は、どうなの。
今までは、特に何の苦労もなく、貴子姉さんや母さんと楽しく暮らしきた。
でも、今回こんなことになった。
それに、前のことを覚えてないせいか、なぜ飛び降りたかもよく分からない」
「そうね、まず私のことだけど、なんとなく理由は分かる気がするわ。
それに、洋子は今からその理由が分かってくるような気がする」
「私の理由って何かしら」
「飛び降りたあと何が起こった。
特に新しく変わったことなかった」
「それはもう、奇跡的にカスリキズ程度だったことと、
死んでるみたいな私を見下ろしていたこと。
あっ、そうだ。
父さんが、カウンセラーの斉藤裕子って人を呼んでくれたこと。
そう言えば、斉藤先生ってなぜか、とても懐かしくて、やっとかな、久しぶりかな、なんか昔からのお姉さんに会ったような気がしたわ。
斉藤先生も私と同じように懐かしく思っていたみたい」
「斉藤裕子先生、カウンセラーの斉藤先生ね」
「お姉さんは、知ってるの」
「いえ、知らないわ。
ただ、う〜ん。
そう〜かぁ、やっぱりね」
「何を知ってるの」
「以前、父さんはこんな不思議なこと言ってた。
洋子には、もうひとりの姉がいるみたいなことをね。
たぶんその人ね。
私は長女で、次女が洋子なのに、その時は変なこと言うなって思った。
そっかぁ、あれは本当のことで、そのお姉さんが斉藤先生なんだ。
たぶん、その人が一つの理由みたいね。
洋子は、その人に会わなければならなかったのよ。
たぶんね」
「なぜ、斉藤先生と会わなけれならなかったの。
それが、私の生まれてきた理由と、どう関係があるの」
「それは、私にはまだよく分からないわ。
それは、洋子が探すことなの。
いや、気がつくことかな」
「どうやったら、分かるの、気がつくの」
「私も、父さんに同じようなこと聞いたわ。
なら、父さんはこんな話をしてくれたわ」
「どんな話」
「それは、思いもよらない話だったわ」
貴子は、どう話そうかと目を閉じて考えているようであった。




