3-3 腹式呼吸の効果と手当
「篠田さん、夕食ですよ〜」
看護師の山田がトレーにのった夕食を持って入って来た。
洋子は、ジーと山田が夕食のトレーをベッド上のテーブルへ置くのを見ていた。
「夜勤担当の山田と言います。
宜しくお願いします。
夕食は、ここでいいですかね。
お加減はいかがですか」
「はい、そこでいいです。
篠田洋子と申します。
宜しくお願いします。
体調は、お陰様で大丈夫です」
「はい、それは良かったです。
引き継ぎで少し心配してました。
検温と血圧測定をしますので……」
洋子は、渡された体温計を脇にはさみ、血圧測定のため腕をさしだした。
数分後、体温計を渡した時には、血圧測定も終わっていた。
「はい、体温も血圧も問題ないですね。
何か有りましたらか、ご遠慮なくナースコールをお願いしますね」
「はい、分かりました。
ありがとうございます」
「では、宜しくお願いします」
山田看護師は、そう言って四人に軽く頭を下げ、ドアを閉めて出て行った。
しばらく、三人は、洋子の様子を、黙って見つめていた。
洋子は、2、3度、腹式呼吸をして、意を決したようにして震える手で箸を持ち、食べ始めた。
始めは恐る恐るであったが、お腹が空いてるせいかアッという前に半分ほど食べた。
「父さん、食べれる、食べれるわよ。
まだ、恐怖感はあるけど、死ぬことはない、死ぬことはないって、思いながら腹式呼吸したら食べれたわ。
ありがとう、父さんさん。
それに、今の看護師さんの後ろに何も見えなかった。
なぜか分からないけど、良かった。
父さん、ありがとう。
でも、なぜ見えなくなったの。
なぜ、恐怖感が少しあるものの、食べれるようになったの」
「そうか、良かった」
浩一郎は、なんとか摂食障害をまぬがれたかと思いながら、さて、つぎはどうするかと考えあぐねていた。
「あなた、もう夕食の時間ですし、斉藤先生をこれ以上……」
「いえ、いえ、私はかまいませんよ。
妹の洋子ちゃんが心配ですから、食事が終わるまでここに……」
「裕子お姉さん、ありがとう。
もう少し、一緒にいてくださると、本当に助かりますます」
しばらくして、洋子が食べ終わり、礼子がトレーをさげた。
浩一郎が斉藤先生に、
「もう、引き上げましょう」
「はい、洋子さんもお疲れのようですから、私もおいとましましょう。
また、明日の夕方まいりますね」
「裕子先生、ありがとうございました」
「斉藤先生、急なお願いを聞いて下さりありがとうございました」
浩一郎も続けてお礼をいった。
「礼子、
すまないが、もう少し、洋子と一緒にいてくれないか。
私は、斉藤先生を送って来る」
「はい、もう少しいましょう。
斉藤先生、今日は突然のお願いをありがとうございました」
「さぁ、斉藤先生参りましょう」
二人は、一緒に病室を出ていった。
残った二人、礼子と洋子は、しばらくほっとした様子であった。
洋子が沈黙を破って、
「ねぇ〜、
お母さん、父さんって、本当に物理の先生よね。
なのに、なぜあんなこと知ってるの?」
「そうね〜、
父さんは、確かに物理の先生で、専門は素粒子何とか、量子力学何とかが専門の研究者のはずよ。
以前、父さんが言ってたけど、その世界では常識ではあり得ないことが起こってるって言ってたわね〜。
だから、少なくとも父さんは、余り一般常識にはこだわらない、とらわれないみたいね。
それに学生の時、何やら、あやしげな修行みたいなことをしてたみたい。
昔は、ヨーガをしたり、山行をしたりしてたみたいね。
でも、詳しいことは知らないわ。
ただ、色んなことがなぜか分かるみたい。
特に、家族のことはね」
「だから、腹式呼吸をすれば良いって知ってたの」
「あれは、ほんの基礎の基礎みたいよ。
腹式呼吸は、気持ちを落ち着かせるため、
ポイントは、気を丹田に持って行くことみたいね。
気をそらして、変なものから気をそらせるためにそう言ったのではないかしら。
気持ちをしゃんとする、それには丹田に集中するのが、初心者には簡単だからよ。
本当は、もっと違うやり方があるみたいだけど、何にも経験がない人にはムリみたいね。
母さんもそれ以上のことは、知らないわ。
それに、何があっても、見えても気にしないって言うことが、基本中の基本みたいよ。
つまり、とらわれないって言うことね。
まだ、黒いものや背後霊みたいなものはいいけど父さんが言っていたように、神様や仏様が見えたりして、その声を聞いたりしておかしくなる人や自分が神の使いや預言者だと言って、新しく宗教法人をたてる人もいるみたいね」
「なぜ、神様の言葉を伝えてはいないの?」
「たいてい、そんな神様や仏様は偽物だからよ。
本当に本物の神様や仏様は、普通の人の前にはめったに現れないみたいよ。
父さんが言ってたけど、そう言うのを、ほとんど魔界に入り込んだって言うみたい。
本当は色々あるみたいだけど、要は、一種の脳の働きで、ただ単に幻覚や幻聴を聞いただけって思った方がいいって、父さんが前に言ってた。
もちろん、本当に異世界からのメッセージもあるみたいだけどね。
それに、統合失調症になりやすいとも言っていたわよ」
「母さんは、そんなこと、なぜそんなことを知ってるの。
それに、手を当てるだけで、痛みや病気も治せるし。
変だわ」
「それは、以前父さんから聞いたの。
それに、手当てすることは、誰にでも出来ることなの。
昔から、ケガや病気をしたら手当てするって言うでしょ。
それに母さんより、貴子ちゃんの方が上手よ。
治りますようにって、手を当てると、どうも気みたいなものが集まって、自然に誰でも出来るみたいなの。
ただ、上手下手はあるみたいね。
それに、上手になると、そんなこと願わなくても、自然に、その人をイメージするだけで、手がそこに行って、何らかの力が発揮されるみたいね」
「ふぅ〜ん。
でも、なぜ父さんは、斉藤先生を呼んだの?」
「それは、母さんにも分からないわ」
二人は、黙り込んでしまった。
しばらくして、また、
コン、コンと、
また、ドアをノックする音がきこえた。




