2-9 洋子の不安と怒り
しばらくして洋子が泣き止み、ゆっくりと起き上がった。
裕子は、そんな洋子をしっかりと横で抱き締めている。
「洋子、今、怖いもの、あるいは困っているものは」と、浩一郎。
「あなた、そんなこと、まだ早過ぎますよ」
「そうだよな。
なら、今晩寝れそうか」
「何だか、寝れそうにないわ。
あれは、本当に夢だったのかしら。
もし、またあんな夢を見たら、
それからどうなるのかって。
夢じゃないなら、
死んでしまって、
もう戻って来れないのではって。
そんなこと思ったら、
寝れないわ」
しばらく、病室が静寂に包まれた。
「洋子は、死ぬのが怖い、不安なんだね」と、浩一郎が静寂を破って責めるように聞いた。
「ええ、もちろん怖いわ。
だって死んだことなんて、ないんですもの。
死んだらどうなるか、不安だわ。
誰だって、そうでしょ」
「そうだよね、誰だってね、
洋子だって死んだことないんだから、
とっても不安だよね」
「そうよ、そんなこと当たり前じゃない」
「もちろん、そうだよね。
洋子は、死後の世界、つまりあの世のこと考えたことある」と、浩一郎は問い詰めるように言う。
「ないわ、でも、ファンタジー小説なら読んだことあるけど」
「そうか。
今、洋子は生きている。
つまり、意識があるよね。
もし、死んであの世、死後の世界がなかったら……
今の意識がなくなって、何にも感じなくなって、いわゆる無になるよね。
しかし、
もし、死後の世界があるなら、
今の意識が続いて、色々またその世界で生活みたいなのがあるかもしれないよ。
それに、もう死んでる、おじいちゃんやおばあちゃんに会えるかもしれないよ。
これは、一種の旅行みたいなものかな。
ただし、一方通行で行ったら帰って来れないけどね」
「だって、今生きている人にはもう会えないのよ。
まだ、色々とやりたいこともあるし、
謝りたい人もいる。
なら、そんなことは、どうしたらいいの」
「それは、あの世に行ってしばらく待っていれば、その人が死んで、また会えるんじゃない。
それに、あの世でやり残したことができるかもしれないよ」
「なら、死後の世界があるって、どうやって確認、証明するの?
本当にあるの?
そんなこと、証明なんか、出来ないじゃない。
だから、余計に不安なのよ。
死んだらどうなるか、なんて、
誰にも分からないじゃない。
父さんは、物理学者でしょ。
それなら、あることを証明してみせてよ。
それができたら、少しは不安もなくなるかも。
それに、なぜ私は飛び降りたの?
なぜ、ケガらしいケガもしてないの?
なぜ、こんな目に合わないといけないの?
私が、寝ている私を見下ろしてたのはなぜ?
あれがドッペルゲンガーなの?
なら、もうすぐ死ぬの?
あの黒い影や黒い子供みたいのは何?
皆んなの後ろにいるのは誰、何?
私は、どうかなっちゃったの?
幻覚が見えてるの?
なぜ、食べるのが怖いの?
なぜ、私は今ここにいるの?
なぜ、私は生まれてきたの?
それも、父さんと母さんの子供として。
なぜ、裕子お姉さんが、ここにいるの?
なぜ、裕子お姉さんを見て、助かった、懐かしいって思ったの?
私は、なんのために生きてるの?
昨日、今朝と色々考えたわ。
今は、全てが怖い。
ただ、裕子お姉さんが横にいるから、平静が保ててるだけよ。
なんだか、すごく安心感があるから。
父さんがそんなこと言うから、よけいに不安で怖くなったじゃない。
いったい、どうしてくれるのよ」
洋子は、今の気持ちを一気にまくし立て、裕子に抱き付きまた泣き出した。
礼子は、キツイ眼差しで浩一郎を刺した。
裕子も洋子につられ、涙でホホを濡らしている。




