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2-8 背後の黒い影と白い影


 病室からのかん高い笑い声に、首をかしげながら、浩一郎はドアをノックし入って行った。

 笑い声が一瞬止まり、三人がいっせいに浩一郎の方を、また笑いながら見ていた。


「心配して来てみれば、皆んな笑って……

 あぁ斉藤先生、お忙しいところありがとうございます。

 どうやら、自己紹介は終わったみたいですね」


「はい、篠田教授、それは終わりました」


 洋子が、クスクスと笑いだした、

「洋子、何が可笑しんだい」


「だって、私達、母さんも私も裕子先生て言ってるのよ」


「はい、私は、洋子ちゃん、礼子さんって呼んでますの」


「それが、突然、斉藤先生に篠田教授ですから、急に固っ苦しくなったのが何となく可笑しくて」


「何だぁ、洋子は箸が転げても可笑しくなったのかぁ。

 まぁ、いいや、それなら私は互いにさん付けて行こうか、斉藤さん」


「はい、篠田さん了解しました」


「それで、三人が仲良くなったのは分かったけど、話はどこまで進んだんのかな」


「それがあなた、それぞれ自己紹介して、洋子ちゃんと裕子さんが何だか懐かしいってところまでで、まだ何も」


「う〜ん、そうか。

 ところで、洋子は昨日こと覚えてるか」


 その時、裕子はベットの洋子の隣りに座り、手を握って洋子を見つめた。

 洋子も裕子を見て、浩一郎の方を見ながら、


「覚えてるとも、覚えてないとも言えるかな。

 でも、裕子さんなら分かってくれそうだから、話せるわ。

 実は、布団の中でズーッと思い出そうとしてたの。

 昨日から見たことを。

 何を見たか、笑わないでね。

 ウソじゃ、ないんだから」


「あぁ〜、大丈夫だよ。

 話してごらん」


「職場を出て、花屋さんのところを歩いていた時、

何だか急に頭にもやがかかったみたいになって、

気が付いたらビルの屋上の端にいたの。

 それで、なんか変な感じでここから飛んだら気持ちがいいかなって、思ったの。

 それで手を広げて、ポンっと前へ飛んだの」


「怖くなかったの」と、裕子。


「そうね、何だか夢の中みたいな感じで、フワフワして不思議な感じだった。

 怖いと言うより、飛んだらどんな感じなんだろう、とか、

飛んだら気持ちよさそって、感じで、

ちっとも、怖いって言い感じはなかったわ。

 飛んだ時、正面のビルの屋上に淳一みたいな若い男の人がいて、ビルの中も沢山の人が働いていたわ。

 飛んでる時は、その二つのシーンしか覚えてないわ。


 それと、バリバリ、グシャって言う音、それからサイレンみたいな音かな」


「それから」


「それから、笑わないでないね。

 気が付いたら、機械がいっぱい並んでる病室みたいなところにいたの。

 そして、笑わないでね。

自分は空中に浮いてて、下に横たわってる私を自分を見てるの」


 洋子は、裕子がぎゅっと手を握ったのに、力付けられて続けた。

「空中に浮いている自分の身体も見えるし、

ベットに横たわっているもうひとりの自分も見えた。

 周りを見下ろしていたら、急に、看護師さんが騒ぎだして、男の先生が一生懸命にベットの私の胸を押さえだしたの。

 私は、ここにいてなんともないのに、なんだか可笑しかったわ。

 その内に看護師さんがAEDを持って来て、電気ショックでベットの私は胸が浮いたけど、上から見ていた私はなんともなかったわね。

 それから、外に出たくなって外に出てみたの。

 外は、少し薄い紫色のサングラスをかけて見えるような感じだった。

すごく静かだったけど、気持ちよくて、怖くなかった。

 身体がフワフワして、気が付いたらこの病院の上から見下ろしていたの。

 病院の看板も見えたから、自分がどこにいたか分かったわ。

 すると、誰かが私の名前を何度も呼んでるのに気が付いた。

 それは、父さんの声だった。

 そして、父さんが戻ってこいって叫んだ時、急に身体のあちこちが痛くなった。

 その痛みで目を開けたら、父さんが目の前にいてビックリしたわ」


「父さん、何度も、まだ早い戻って来いって、処置室で叫んでいたものねぇ〜。

それが、良かったのかしら」


「目が覚めた時、自分がどこにいるか、一瞬分からなかった。

だって、病院を上から眺めていたんですものね。

そして、自分がベットの上にいるのが分かって、あれは夢だったのかなって思ったの。

ただ、身体はあちこち痛かったけど、何だかすごく眠くなって、また、眠ってしまった。

なかなか、リアルな夢だったよ」


「大変な夢を経験をしたのね、洋子ちゃんは」と、裕子。


「いや、それは立派な冒険だよ」と、

浩一郎。


裕子が洋子の肩に手を回して、しっかり抱きしめて、

「まぁ、篠田さんたら、洋子ちゃんが大変なことになっていたのに、冒険だなんて」


 裕子の肩から回された手で勇気をもらった洋子は、

「次に、この病室で目が覚めたら父さんがいて…」


 そこで、洋子は目を閉じて裕子にしがみついて黙り込んでしまった。

「洋子ちゃん、どうしたの」

裕子が心配そうに洋子を覗き込んで聞いた。


「私の目が覚めた時、

父さんがいて、

父さんの後ろの方に、

黒いモヤと

小さな三角帽子みたいなをかぶった子供みたいな黒い影が見えたんだよね。

 そして、それも居なくなって、また眠ってしまったんだ」


 洋子は、こくりとうなずきながら、語った。


「今朝は、どうだった」と、浩一郎。


「あなた、何も一度に何もかも話さなくても。

洋子はまだ疲れていて、ショックから充分に立ち直ってないんだし」


「洋子、どうする。

 またにするか」


「いえ、父さん続けるわ。

 裕子お姉さんがいるから大丈夫よ」


「ムリしなくていいわよ」と、優しく裕子。


「何だか、

裕子お姉さんと一緒だと、

何でも出来そうな気がするから、

今話すわ。

 それに、話すと気持ちが楽になるみたいだから」


 裕子は肩に回した手を洋子の頭に回し、自分の頭を洋子の肩に当てた。

 洋子は、裕子の優しさを胸に感じ、力づけられて続けることができた。

「朝、看護師の山下さんが入って来た時、

彼女の後ろから白っぽい人影も一緒に入って来た。

 ビックリして怖かった。

 今まで、あんなもの見たことなかったから。

 そのあと先生達が入って来た時も、

同じようなものが一緒に沢山入ってきて、すごく怖かった。

 その後、

父さんも入って来たけど父さんにも同じようなものが付いてた。

 でもなんだか怖くなかった。

母さんにも。

だけど母さんに付いてきたものは、すごく優しく癒されるような気がしたの。

 でも、食事が摂れないの。

 食べれないの。

 なぜか分からないけど、怖いの」


 洋子は、その時の恐怖感を思い出し、裕子のももに顔を付けて、泣き出した。

 裕子は、洋子の頭に手を添え、背中を優しくなでるほかなかった。

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