2-5 不安な礼子
礼子は、洋子の食べ終わった昼食のトレーをさげた。
戻ってきても、まだ丸く山になった布団を見ながら、
はて、どうしたものかと思いながら、
自分のサンドイッチの昼食を摂った。
礼子は、考えた。
"普通だったら、この状況をまず看護師の山下さんを通して、主治医の佐藤ドクターに相談するべきだろう。
しかし、佐藤ドクターはまだ若い。
恐らく臨死体験をし、その後異常行動をとる洋子のような患者は初めてのケースだろう。
やはり、とりあえず、主人に早く相談するしかないか。
講義中でなければよいが"
と、思いながら。
携帯で、浩一郎に、
"洋子のことで、早めに連絡を下さい"
と、ショートメールを送った。
折返しの電話は、すぐにはかかってこなかった。
礼子は、
携帯を握って、
ベッド脇に座り、
丸まった洋子の布団の山を、
じっーと見ていた。
そう、じっと見て、
連絡を待っていた。
規則正しく上下している布団の山を、ボッーと見ているしか出来なかった。
暫くしてはっと我に帰った礼子は、
息子の淳一の携帯に、
"母さんは、洋子ちゃんにもう少し付いていたいの。
だから、夕食は何か冷蔵庫にある物を適当に食べててね。
こちらのことは、心配しなくていいからね。
何か困ったことでもあったら、連絡をね"
と、メールを入れた。
そして、礼子は、今この状況で自分が出来ることは何か、しなければならないことは何かを考えることにした。
礼子が昨日からの洋子の状況を思い出して、今何が起こっているかを考えていると、手に持っている携帯が振動を始めた。
見ると夫の浩一郎からだった。
「もしもし、礼子か、遅くなって悪かった。
それで、洋子がどうしたんだい」
「あっ、あなた、良かった。
やっと来た」
「だいぶ待たせたね、お疲れさん。
それで洋子がどうかしたのかな?」
「それが、洋子、怖がって一人では食事が摂れないみたいなの」
「ええっ、食事が取れないって、どういうこと。
今朝はあんなに美味しそうに食べてたじゃない」
「それが、私がお昼を買いに売店に行って戻った時、テーブルの上にお昼ご飯が用意されていて、洋子はそれをヒザをかかえてじっと見ているの。
そう、お昼ご飯を前にヒザをかかえて、目を大きく見開いて、じっと。
まるで、お昼ご飯とズーッとにらめっこしてるみたいに。
そして、私がノックして病室に入っても気づいてないみいで、ジーッとお昼ご飯を見ていた。
私、なんだか、大変なことが起こっているような気がして、怖いわ」
「そうかぁ〜。
それで、洋子は結局お昼を食べたのか」
「えぇ、何とか。
私が、安心するように抱きしめて、背中をさすっていたら、何とか一口づつ食べたわ」
「そうかぁ〜。
それは、大変だったし、怖かったね。
それで、今、洋子はどうしてる」
「えぇ、それが、猫みたいに丸くなって、頭から布団をかぶって寝てるわ」
「そっかぁ、分かった!
ちょっと用事を片付けて、そこに行くよ。
たぶん洋子の夕食までには行けると思う」
「私は、どうしたらいいの」
「特に、家や礼子自身に用がなかったら、そのまま洋子のそばにいてもらえるかな。
ベッドのそばに座っているだけでいいよ。
洋子が目を覚ました時、礼子がいたら、それだけで洋子は安心すると思うからね。
どう、なんとかなりそう」
「えぇ、そのぐらいだったら……
淳一には、適当に冷蔵庫の物を食べるように言ったから、大丈夫よ。
それより、
出来るだけ早く、
お願いね」
「あぁ、分かってるよ、
出来るだけ早く行くよ。
心配することないよ、大丈夫だよ。
じゃ、またあとで。
何かあったら、すぐに電話して」
「はい、
待ってるわ」