表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/76

2-4 洋子の恐怖


 洋子は母礼子から、しばらく優しく背中を撫でられて、泣き止み、母親の愛情や優しさにただよいながら落ち着いた。


 礼子は再度、聞いた。

「洋子ちゃん、洋子ちゃん、どうしたの。

 洋子ちゃん、何があったの」


 洋子は、父浩一郎からおそわったように、2〜3回ゆっくりと息を肩で吸ったり吐いたりを繰り返して、顔をかかえたまま、

「食べようとしたら、手が止まって動かないの、右手も、左手も。

 そして身体も固まって、動かない。

 何とか手を動かそうとしたら、

怖いの、なぜか。

 自分の中の何かの意志が、

食べるのを邪魔してる。

 無理矢理動かそうとしたら、

なぜか、どこからともなく、

恐怖感が湧き上がってきて。

 なぜか食べたら、

自分の中の何かが壊れてしまいそうで。

 本当は食べなくっちゃならないのに。


 食べたくないの。

 いや、食べれない。

 もし、食べたら吐かないとって。


 だから、食べちゃダメだって。


 甘えてるみたいに感じるけど、

やっぱりダメなの。


 なぜか分からないけど。


 始めは、そんなことを思いながら、

食事とにらめっこしてた。

 そして、何も考えられなくてボーっとして、時間だけが過ぎていったの。


 気が付いたら、辺りが真っ暗になっていて、

私とお昼がのったトレーが、

ボンヤリ明るくなっていて。


暗い中、一人で、


母さん、怖い。


 なぜなの、

何が私に起こってるの。


 お昼が、

私に何か言ってるみたいで、

怖い、

食べれない。


 母さん、

私どうしたらいいの」


 それは、礼子のブラウスを涙で濡らしながらの、

洋子の支離滅裂な助けを求める心を絞った声であった。


 礼子の右手は洋子の手をしっかりと握りしめ、

左手は優しく洋子の背中を上下していた。


「洋子ちゃん、洋子ちゃん、

今朝のこと、覚えてる。


 色々あったけど、朝ご飯を食べたよね。


 ひょっとして、まだ、お腹減ってない」


「そう、朝ご飯は、何ともなく食べれた。


なんで。


なんで、急に」


「たぶん、今度は食べれると思うよ。


 ほんの少し、

ちょっとでもいいじゃない。


 後で、

吐いてもいいって思って食べてみたら。


 吐いたら、母さんが掃除してあげるから、

心配しないで。


 自分の中の何かが壊れたっていいじゃない。


 母さんと父さんが、なんとかするよ。


 信じて。


 今は、母さんが横についてる、

壊れたって、なんとかなるよ。


 もし、毒が入ってそうで怖いなら、

母さんが、まずちょっとづつ食べて、

毒味をしょうか?」


 洋子は押し付けていた顔を少しずらし、泣き腫らして真っ赤になった心配そうな目を浮かべ、顔を礼子に向けただけだった。


 礼子が箸を取りあげた時、

洋子の手がそこに重ねられ、

ゆっくりと箸が、

洋子の手の中へと移って行った。


 洋子は、母から離れてお昼のトレーに向き合った。


 箸を持ち、

じっと、お昼を見つめている。

目を見開いてじっとみつめている。


 洋子は、ボーっとしながら、

何も考えられなかった。


 ちょっと震えながら、味噌汁に両手をやって、ゆっくりと口へ運んで、やっと一口ゴクンと。


 今度は、

手が止まらずに、飲めた。


 それが呼び水となり、同じようにして、ご飯やオカズをひとふたくち、口へ運べた。

 2、3回噛んだだけで、ノドへ流し込んだ。


 全部同じ様な味で、

何を食べているか、

感じる余裕もなかった。


 ほんの少しづつ口へ運び終わったあと、箸を置いたら、ぐったりした洋子は布団をかぶって、丸くなって動かなくなってしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ