2-1 入院初日の異常
第二章 異常現象の出現と対処
2-1 入院初日の異常
朝の柔らかな日差しで、洋子は病院のベットで目が覚めた。
洋子は、枕元にあった母礼子のメモをボーっと見ながら、ベットの上で座っている。
6時過ぎとなり、看護師の山下が朝の検温や血圧測定にやってきた。
「おはようございます、篠田さん。
今日の担当看護師の山下です。
宜しくお願いします」
山下が頭を下げながら挨拶をし、体温計を渡そうとすると、洋子はその手を払い退けて、目を大きく見開き座ったまま後ずさりをした。
驚いた山下は、
「どうしたんですか。
朝の体温測定ですよ」
洋子は手を胸にして、子供みたいに首を振ってイヤイヤをした。
「なら、血圧は」
これも手を胸に抱え込んで、首を振った。
何も喋らずに怖がっているような洋子を見て、山下は諦めて、
「では、また、あとで、来ますね」
と声をかけて出て行った。
その足で山下は看護師長のところへ行って、その状況を説明し、どうすればいいか尋ねた。
師長は、
「変ねぇー。
昨夜はご家族と話をされていて、喋れないはずもないんだけど。
それに、そんなに興奮するとは聞いてないのにねー。
私が行っても同じかしら」
「何となく、同じと思いますよー」
「困ったわねー、うーん。
ちょっと、待っててね」
師長は、主治医にその状況を連絡した。
その時、家族にもその旨連絡するように主治医から指示を受けた。
家族に連絡するなんて、おかしいと思いながらも、篠田の自宅電話番号を調べて、電話をした。
「はい、もしもし」
礼子の声が響いた。
「もしもし、こちらY病院救急病棟の看護師長の吉田ですが、篠田洋子さんのお宅でしょうか」
礼子は、会話をスピーカーにして、皆んなに聞こえるようにした。
「はい、洋子は私の娘ですが、何かありましたでしょうか」
「それが、先程、看護師が朝の検温等に行ったところ、体温計を手で払い退けて、子供みたいにその手を胸にやって、イヤイヤと首を振ってしまう状況なんです。
それにまったく喋らないんです。
それで、主治医からの指示でご家族にも連絡しました」
「そうですか、それはそれは、ご迷惑をお掛けしております。
すぐにそちらに参ります。
多分、昨日の今日でまだ落ち着いてないんでしょう」
二人は、もうすぐ主治医の佐藤が来る頃なので、それからのことにした。
主治医の佐藤が来て、看護師長の吉田と担当看護師の山下の三人で、洋子の病室にゆっくり入って行った。
洋子はすごく怖いものを見るように目を見開いて、口をパクパクさせながら、ベットの上で三人から離れるように逃げて行った。
三人は、これ以上近づいては危ないと思い、諦めて部屋から出て行った。
山下が、
「篠田さん、何か私達を見て、すごく怖がっているように感じましたが…。
どうなんでしょう」
吉田も
「何か私もそう思いますねー」
佐藤が
「そうだね、何が見えるのか分からんが、これじゃぁ、最悪、拘束して精神科かなぁー。
でも、そんなことにはならないよ。
たぶん、ご家族が来れば大丈夫だと思うよ。
あの若さで昨日入院しての今朝だから、せん妄ではないと思うしね。
たぶん、昨日のショックが残っていて興奮が覚めてないんだろうね。
ご家族には連絡をした? 」
「はい、すぐに来られるそうです」
「そうか、ありがとう。
もう少し様子を見よう。
ご家族が来られたら教えて下さい。
二人共、ご苦労さん」
と、佐藤はそう言って離れて行った。
佐藤は、昨日の処置室の出来事を思い出しながら、なんとなく、これから先のことが楽しみになってきた。
なんと言っても、あの子はかなりの確率で、昨日、一度死んでしまったはずだからだ。
あの臨死体験者の反応に興味を持ち、これからの先行きを見守ることにした。