1-1 落ちた洋子
この物語は、人の生死をテーマにした一種のミステリー小説です。
人は、
なぜ、産まれてきたのか?
なぜ、幸福な人生を送れる人と、そうでない人がいるのか?
幸福とは何か?
死んだら、どうなるのか?
もし、あの世があるとすれば、それはどんな世界か?
なぜ、死を恐れ不安がるのか?
などのテーマに、特に会話形式で私の考えを表現しています。
これら一つづつは、重いテーマですが、それぞれが繋がり連動しておりますので、あえて一つの物語にしました。
また、この物語は友達の実話と私の想像を、考えを織り交ぜています。
ですから、皆さんはこの部分は、実話でこの部分は想像と、クイズのように楽しんで頂けたら幸いです。
(また、簡単な口伝のようなことが、数カ所あり、これらは省略しております。)
そして、本当の正しい解答は、皆さんが亡くなった時に知ることになります。
その意味では、これも一種のミステリー小説と言えると考えております。
また、現在は、忙しい人々が多いご時世です。
それで、携帯さえあれば、いつでも何処でも、ちょっとした隙間時間があれば読めるようにしてます。
各エピソードを節単位に簡潔に出来るだけ短くまとめました。
その為、情景や心理描写を出来るだけ省略し、ミステリーの重要な部分を残しています。
この物語をキッカケに、ご自分の生きる意義等を振り返り、より幸せな生活が送られることを願ってやみません。
この物語を楽しんで頂けたら、幸いです。
ありがとう、ございました。
読帰田共立
第一章 洋子のめざめ
1-1 落ちた洋子
ドスン、バリバリ、グシャ、ドスッ。
何か黒い大きなものが、聡子の目の前の歩道に置いてある段ボールの真上に突然落ちてきた。
花屋の女主人中村聡子は、上から落ちてきて段ボールを押しつぶしたものが、すぐに人と分かって、
「うわ〜!」と、
叫び声をあげて後ろに尻もちをついた。
外からの大きな音と妻の叫び声を聞いた花屋の主人中村辰雄が、あわてて店内から飛び出してきた。
辰雄が尻もちをついている妻聡子に
「どうした!大丈夫か! 」と声をかけ、助け起こそうとした。
聡子は、ふるえる手で段ボールを指さしながら、
「人! 人! 落ちてきた! 」と。
辰雄が押しつぶれた段ボールの底を見てみると、そこには若い女性が横たわっていた。
その数分前のことである。
濃紺のパンツスタイルのスーツを着た篠田洋子は、ショルダーバックを肩にかけて、初夏の日差しを浴びて、道幅の広い歩道を自分の足下の影を見ながらトボトボと歩いていた。
洋子のポニーテールにされた長い髪は、日の光か、汗のためか、少し光るツヤが揺らいでいる。
洋子の歩いている歩道は、右側に低いビルが立ち並び、一階にテナントが入った通りであった。
ちょうど今、テナントの文房具屋、本屋、洋服屋、花屋などは開店の準備をしている。
また車道の所々に、そのテナントに荷物を下ろしている車が止まっている。
「これはいいね、シャントした綺麗な花だね。早くバケツに水を入れて持って来ておくれ。」
テナントの花屋の女主人のさわやかなその声に誘われて、洋子は顔を上げて、自分の影から花屋の女主人の方に目を向けた。
それは、花屋の女主人が車から降ろした段ボール箱から花を取り出して、水を入れたバケツに花を入れているところだった。
篠田洋子は暑さのためかボーッとしながら、店先に並べられた花を綺麗だと思いながらも、また自分の影に目を落としてトボトボと歩いて行った。
その時、洋子は頭にいや体に、何か透明なゼリーのようなポヨンとした膜のような壁を感じ、少し跳ね返され、ちょっとあとずさったが、別に気にせずにそのままそれを突き破って中に入って行った。
そう、その時洋子は、何かの内側に入ったと感じながらも、気のせいと思い、それが今までとは違う初めての世界とは思いもよらなかった。
膜の内側に入って行った洋子は、ボーっとしながらも、冷静に考えた。
"今の膜みたいのは何?
それに、なんだかここは静か。
車の通る音や、すぐ後ろにいるはずの花屋さんの声が、フィルターを通したように遠くから聞こえる。
急に耳が詰まったのかな。
それに少し薄く紫色がかって、周りが見える。
目もおかしいのかな。
なぜだろう。
何が起こっているのだろう" と。
洋子は、その状況を不思議に思いながらもトボトボと歩き続けた。
不審に首を傾けながらも歩いていた洋子の足は、なぜか本人の意志に反して、横のビルの階段に向かって行き、その階段を登っているのに洋子は気付いた。
"なぜ、私は階段を上がっているの? "
洋子は我ながら不思議に思いつつも、階段を上って行った。
そのうちに、一番上の階段の踊り場まで来てしまった。
"あっ、踊場だわ、扉がある。
あれ、開くわ! "
洋子は、鍵のかかってない扉を開けて屋上へ出て行った。
そこは、洋子にとって静かで薄紫色に広がる気持ちいい世界でもあった。
"うわー、薄紫色の世界に気持ちいい風。
あの向こう方は、どうなっているのかしら"
洋子は、肩からバックを下ろして、とうとう屋上の危険防止用のフェンスを乗り越えてしまった。
そして、屋上の端に立って、周りや下を見下ろしている。
その時には、もう洋子は、自分の状況を客観的に認識出来ないでいた。
自分が何をしているか、何をしょうとしているかも。
"静かねー。
それに、爽やかに気持ちいい!
あっ、正面のビルの屋上の男の人が、驚いた顔をしてこっちを見て固まっているわ。
なんだか、時間が止まっているみたいね。
あれ、下まですぐそこで、思ったより高くないんだ。"
その時、フワッとした心地よい風が、洋子の背中をなぜた。
それにつられて、洋子は倒れ込むように両手を水平に上げ、前に倒れた。
その瞬間、
"フカフカの厚い布団に倒れ込むように気持いいな。
あっ、向こうのビルの男の人はまだ固まっている。
時間が止まってるみたいだ"
と、思いつつ、
コマ送りの視界のあいまに、洋子は暗闇の中の遠くで、
ドンスン、バリバリッ、グシャっという音が聞こえ、その後サイレンが聞こえるような気がした。
佳子はそのまま、音もしない暗闇の静寂の世界に沈み込んでいき、気を失ってしまった。