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お前たちが苦戦しているダンジョンのボスを育てた俺、なぜか魔王と呼ばれるようになったけど、本物の魔王は別にいるからな?  作者: 桜枕


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第8話 うさぎの戦い方

 放課後。俺は寄り道せずに帰宅して、買い置きしておいたポテチと炭酸飲料を片手に庭へと向かった。


 役目を終えてからも壊さなかった犬小屋をずらすと、その下からは成人男性が一人通れる大きさの穴が出てきた。

 地下へと繋がる穴へ飛び込み、迎えにきたラビットを明かりにして突き進む。


 光が差す向こう側には『始まりのダンジョン』の51階層のリビングが広がっていた。


「いいタイミングだ。そろそろ入ってくるぞ」


 ウェルヴィはリビングの壁一面に貼り付けたモニターの電源を入れた。

 その数、なんと100画面。

 各階層に2台ずつの小型カメラを取り付け、全方向から侵入者を監視できるそうだ。


 カメラとモニターはどこから拝借してきたのやら。

 きっとスパイラビットやシーフラビットと名付けられた下級モンスターが活躍したに違いない。

 それか色欲の女王様が色仕掛けしたのか……。


 俺は持ち込んだポテチをウェルヴィに渡してソファに座った。


「うおぉ! シン、そのまま足を組め。写真を撮ろう」

「はぁ?」


 ウェルヴィは俺が買い与えたスマホを構える。

 言われた通りに足を組むと、「表情も作れ」と興奮ぎみに指示を出してきた。


 長々と撮影会を続けるつもりはない。

 言われた通りにニヒルな笑みを浮かべてやると、うっとりとした表情になって手を頬に添えていた。


「素敵な悪役顔だ。ツーショットも撮っておこう」


 俺の隣に座り、カメラに向かって挑発するような視線を送るウェルヴィ。

 そして、すぐに全モニターにツーショット写真を映しだした。


「やめろ、気持ち悪い。さっさと映像を戻せ。冒険者たちが来るぞ」

「むぅ。じゃあ、私のスマホのロック画面にしよう」


 隣でこそこそしているウェルヴィを無視して、ポテチの袋を開ける。


「さぁ、見せてもらおうか。Aランクパーティー『ガイオアース』の実力とやらを」


 1階層のモニターに映し出されているのは5人の男女だ。

 実にバランスの取れたパーティーで練度も高いとか。さすが年間で数百万を稼ぐチームだ。

 専業で冒険者をやっているだけのことはある。


「誰にも手を出させるな。そのまま6階層までおびき寄せる」


 俺は直接ダンジョンに生息する魔物に指示は出せない。

 全てウェルヴィを経由しなければいけないが、指示系統に問題はなかった。


「B8通路にウォールラビットを配置。後ろから二番目の男が右折したタイミングで壁の位置を変更させろ」

「了解した」


 ウェルヴィの指示通りに動くうさぎたちを眺めながら、炭酸飲料で乾いた喉を潤す。

 ウォールラビットとはその名の通りで一見壁にしか見えないうさぎの魔物だ。


「各個撃破というわけか」

「ジャパニーズホラーは精神的に追い込むのが基本だ。仲間が一人ずつ消えて、いつ敵が襲いかかってくるのか分からない沈黙に耐えられるかな」

「陰湿な男だな」


 モニター上では仲間の一人が消えたことに気づいた大石が冷静に指示を出していた。


「次だ。15階層のF9通路にファンシーラビッドを配置。女が反応を示したら、襲いかかれ」


 薄暗い迷宮に置かれたうさぎのぬいぐるみ。

 誰が見ても罠だ。初心者だとしても近づこうとはしないだろう。


 ヒーラーの女は「気持ち悪いわね」と吐き捨てて、前を行く男たちとの距離を詰めようとした、そのとき――。


 女の絶叫がダンジョン中に響き渡った。


「おい、なんだこれは!?」

「いい音色だろ? ブドウジュースが進んで仕方ない」

「悪趣味な女だな」


 ヒーラーの女がぬいぐるみを模したうさぎに襲われ、負傷している。

 とっさに男たちが攻撃に転じたが、すでにファンシーラビットはその場を離脱して姿は見えない。


「毒は?」

「もちろん、仕込み済みだ」


 ウェルヴィの尻尾が楽しそうに揺れた。


『毒のバッドステータスだ!』

『解毒薬は持って来ただろ。先へ進むぞ』

『何個使っても回復できないんだよ!』


 パーティーは悲惨な有り様だった。

 したり顔のウェルヴィは「血清を打たないとダメだぞ」とにやにやしている。


 血清となると、迷宮省管轄の病院にしかない代物だ。

 時間の経過と共に命の危機が及ぶだろう。

 

 大石たちはやっと33階層まで来たが、モニター越しに見ても明らかに女の様子は普通ではなかった。


 俺はマイクに手を伸ばす。


「甘ちゃんだな」

「俺の目的は人殺しじゃない。こんな危険なダンジョンを人工的に創り出せるのだと宣伝できればいい。人間と魔物が協力すれば、なんだってできると証明するんだ」

「魔物を使えば地球温暖化だって止められるかもしれん。だが、愚かな人間は魔物を使って争いを始めるぞ」

「それでも……」


 俺はマイクを握り締めて、大石たちに語りかけた。


「聞こえるか、冒険者たちよ。その女には血清が必要だ。今すぐ病院に連れて行け」


 薄暗いダンジョンに反響した機械音に驚き、周囲を見渡す大石たち。


『誰だ!? コソコソと隠れていないで出てこい! うさぎの魔物はどこだ!』

「1時間も待ってやったのに最下層までたどり着けない臆病者の前に出るつもりはない。奴に挑む資格もない。さっさと立ち去れ」

『人間!? ここにはうさぎの魔物が新しいボスとしているんじゃないのか……』

『大石さん、もう行きましょう! 熱も出てきたし呼吸もはやいって。田中も消えたし。なぁ、鈴木って、あれ?』

「おや、また一人仲間が消えてしまったようだな。このまま誰にも見つけてもらえずに初心者向けのダンジョンで死を待つか? それとも名誉ある撤退か。選べ、パーティーリーダーさん」


 大石たちは今も動画配信を続けている。

 俺も手元のスマホで見ているが、視聴者数は10万人を突破していた。


〈魔物を操作してる?〉

〈人間がダンジョンのボスを気取り始めたら終わりだろ〉

〈この声の男とうさぎの魔物が一緒にいるの!?〉

〈大石、ヤバくねw〉

〈こいつこそ魔王だろ〉

〈あーあ、さっさと最下層まで行かないから〉

〈この配信つまんね〉


 最初こそ視聴者たちは大石たちの勝利を疑っていなかったが、今では批判的なコメントが目立つ。

 1時間もただ通路を歩くだけの配信を見せられて、よく視聴者が離席しないな、と思っていたところだ。


『……戦線を離脱する』

「英断だ、大石 勝史。きみの有能さは約10万の人間が見届けた。余興はこれでお終いだ。このダンジョンに挑みたければ、いつでもどうぞ。ただし、狩られる覚悟のある奴だけだ」


 俺は最後に大石たちの配信を見ている視聴者にもメッセージを送った。


 これで人間と魔物のコンビがAランクパーティーを退けたという記録を残すことができた。

 少し手荒だが、初めての活動としては上出来だろう。


 ウェルヴィの部下たちがさらった2人の男を通路に運んでいる。


 大石たちは気絶しているパーティーメンバーを叩き起こし、ヒーラーの女を抱きかかえながらダンジョンの出口へと向かって行く。


 モニターに映し出された彼らの後ろ姿を眺めながら、俺は足を組み直して満足げに頷いた。

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