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お前たちが苦戦しているダンジョンのボスを育てた俺、なぜか魔王と呼ばれるようになったけど、本物の魔王は別にいるからな?  作者: 桜枕


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第6話 うさぎの王と共存戦略

 玄関の扉を閉めようとする俺に抵抗して、ヒールを割り込ませた綺麗な女性。

 俺よりも頭一つ分くらい背の高い彼女は人差し指の長い爪を突き立てて、家の中に侵入してきた。


「な、なんだよ。警察を呼ぶぞ!」

「悲しいな、シン。わたしだ」

「だから誰なんだよ! お前みたいな背の高い女の知り合いはいない」


 泣き真似をしながら、背後で鍵をかけた女性がヒールを脱ぐ。

 後ずさる俺を追い詰めるようにリビングへ入り、我が物顔でソファに腰掛けた。


「人間のメスの臭いがするな。わたしに隠れて浮気か?」

「浮気も何も、お前が何者か説明しろ」

「いいだろう」


 彼女が立ち上がると艶のある黒髪の頭頂部からは2本のうさぎの耳と山羊やぎの角が、尻からはさそりの尻尾が生えた。

 首にはマフラー代わりに生きたうさぎが巻きついている。


「お前、あのうさぎか!?」

「そうだ。シンがわたしを置き去りにしてから、魔物を食い漁り、人間共を蹴散らしてレベルを上げた」


 たった1日だぞ!?

 それに、なんで人型で言語を話してるんだよ。


「心配するな。シンの言いつけ通り、殺してはいない」


 震える手でテレビを点ける。

 夜のニュースでも『始まりのダンジョン』から搬送された冒険者たちの報道で持ちきりだった。


「これの犯人が、お前?」

「お前、お前とうるさいな。名前を呼べ」


 俺は震えの止まらない手で持ったスマホ越しに彼女を見る。


***


name:【色欲の魔兎まと

type:魔王種

Level:100


***


 ふんぞり返っている、限りなく人間に近い姿の魔物を見上げる。


「色欲の魔兎? スティンガーラビットだろ?」

「どちらも違うな。それは人間共がつけた名前だ。我が名はウェルヴェリアス。色欲を司るうさぎの王である。優しく大切に呼べよ」

「う、うぇるべ……呼びにくい! ウェルヴィでいいだろ」

「おぉ! 気に入ったぞ、最高だ。シンに名を呼ばれる日をどんなに夢見たことか。発情してしまいそうだ」


 ただでさえ胸元の大きく開いたドレスからこぼれ落ちそうな豊満な胸を更に強調させる、うさぎの魔物ことウェルヴィ。


「見てもよいのだぞ。この体は全てシンのものだ。何度も発情を訴えていたのに、ちっとも相手にしてくれなかったではないか。意地悪してくれるな」

「……あぁ。あの猫みたいな姿勢は発情のポーズだったのか」

「猫だと? あんな、脳みそが入っているのかも分からない気分屋と同じにするな」


 うさぎの脳みそも大概だぞ。というツッコミはさておき、俺は向かい合ったソファに全体重を預けた。

 今日は疲れた。さっさと風呂に入って寝てしまいたい気分だ。


「ポテトチップスをもらうぞ」

「なにっ!? うさぎにジャガイモはダメだ!」

「よく調べたな。えらいえらい」


 ウェルヴィは俺の方を見向きもせずにキッチンを目指す。


「心配は無用だ。シンとポテトチップスを食べるためにこの体を得たのだ。ほら見ろ」


 キッチンの戸棚から拝借したポテチの袋を鷲掴みにしながら、右手の親指と人差し指を見せつけてくる。

 その2本の指の爪はとてつもなく長かった。


「ポテトチップスを取りやすくするために伸ばしたのだ」

「はぁ!? ってか、なんでお前がそんなものを知っているんだ……?」

「覚えていないのか? お前が初めてわたしに与えた食事がこれだ」


 何を言っているんだ。

 俺はうさぎにニンジンしか食べさせていない。

 体によくないとネットに書かれていたから、イモ類だけは食べさせないように気をつけていた。スナック菓子なんて論外だ。


「ずっと感じていた違和感はそれか。いいか、シン。わたしたちはずっと前に出逢っている」

「へ?」


 ウェルヴィは豪快に袋を破り、長い爪で器用にポテチを摘んで口に運ぶ。

 まるで高級菓子でも味わうように時間をかけて食べ終えたウェルヴィは美人が台無しになるくらい破顔した。


「シンがまだ幼い頃の話だ。うさぎの姿でダンジョンを抜け出し、人間界を彷徨って空腹だったわたしにポテトチップスをくれたのだ」


 そう言われてもピンとこない。

 確かに俺が生まれる前からダンジョンはあるけど、魔物が町をうろつくなんて聞いたことがない。


「それから数日後にあの事故が起こった」

「事故? ダンジョン・スタンピードか?」

「そんな名前だったか。シンが巻き込まれたものだ」

「なんでお前がそんなことを知ってる!?」


 真面目な話をしているくせにウェルヴィは袋に突っ込む爪を止めようとはしない。


「恩着せがましいのは嫌いだが、あの日、シンを助けたのはわたしだ」

「なんだと!?」

「でなければお前は死んでいたのだぞ。わたしがダンジョンからあふれ出た魔物を蹴散らして、母親の元に帰したのだ」


 そんなことを言われてもウェルヴィに関する記憶はなかった。


「あの時の反動でわたしは力の大半を失った。おかげであのザマだ。ムシケラに蹴鞠けまりにされるなど屈辱の極みだったぞ」

「それは、俺のせいなのか。……すまなかった」

「謝る必要はない。あのムシケラのおかげでこうしてまたシンに出会えたのだからな。感謝の気持ちを込めて二度と起き上がれない身体にしてやったわ」


 どうして美女が笑うとこんなにも薄気味悪いのだろう。

 細めた目で舌なめずりされると背筋が凍るようだった。


「シン。なぜ人間は魔物を殺す?」

「それは……」

「数日間だけだが、わたしはお前と過ごして楽しかったぞ。お前はどうだった?」

「俺も、悪くはなかった」

「わたしはお前の味方だ。お前もわたしの味方でいてくれないか?」


 ずるい奴。

 だが、俺の決意を固めるためにはちょうど良い存在になるだろう。


「俺と共存しろ。人間と魔物が手を組めば、なんだってできることを証明したい」

「実に嬉しいお誘いだ。お前の頭脳とわたしの力があれば、なんだってできる」


 俺は差し出されたウェルヴィの手を握る前に彼女の真っ赤な瞳を見つめ返した。


「ここに戻った理由を話せ。お前の目的はなんだ?」

「話が早くて助かるよ。わたしの願いを一つだけ叶えて欲しい。たとえ世界を敵に回しても、わたしだけはシンの味方だ」


 母さんから反逆行為だと言われたばかりなのは承知だ。

 とんでもなく危険なことを始めようとしていることも理解している。

 

 だけど、俺は幼少期にウェルヴィを救って、ウェルヴィに救われた。

 高校生になってダンジョン外でまた救って、ダンジョン内でまた救われた。


「……次は俺が救う番か。いいだろう」


 俺は頷き、ウェルヴィのしなやかな手を握った。

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