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お前たちが苦戦しているダンジョンのボスを育てた俺、なぜか魔王と呼ばれるようになったけど、本物の魔王は別にいるからな?  作者: 桜枕


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第11話 ダンジョン・スタンピード

 約束の日曜日。

 東京の渋谷は大勢の人で賑わっていた。


 私服姿の男女と同じくらい、武装している男女が目立つ。

 彼らは『赤翼のダンジョン』に向かうのだろう。


 俺は凪姉なぎねぇとの待ち合わせ場所であるファッションビルの前に向かい、スマホをいじっていた。


「待たせたか?」

「いや、俺も今きたところだよ」

「今日の目的は期間限定のパフェだ」


 凪姉は甘いものに目がない。

 大学生の凪姉は月に一度、息抜きに甘味巡りをする。

 俺がお供するようになったのは中学に上がった頃だったはずだ。


 女性物の服や雑貨を扱うビルの中にある店で、窓際の席へ案内された俺たちは凪姉が食べたがっているパフェを2つ注文して到着を待った。


 ビルの6階から見下ろすと、渋谷の町のど真ん中に現れたダンジョンの入り口もよく見えた。


「あぁ、ダンジョンか」

「凪姉は魔物についてどう思う?」

「どう、と言われてもな。私は冒険者になるつもりはないし、今後も関わることはないと思う。強いて言えば、幼い頃にシンが『魔物がポテチ食べた』と言っていたのが印象に残っているな」

「えぇ!?」


 自分が思うよりも大声を出してしまい、店内にいる女性客たちの視線が集まる。

 周囲に頭を下げ、凪姉へと視線を戻した俺は思い切って聞いてみることにした。


「俺がそう言ったの?」

「そうだ。覚えていないのか? あっ。すまない、私のミスだ。この話はやめよう」


 凪姉はすぐに目を伏せた。

 俺はもう気にしていないが、凪姉はこの話題を嫌う。


 俺がダンジョン・スタンピードに巻き込まれてから2週間もの間、目を覚さなかったことを今でも気にしている。


 あの日、俺は母さんに連れられて、凪姉と彼女の父親と出掛ける予定だった。

 待ち合わせ場所に到着してすぐにダンジョン・スタンピードが起こった。


 その名の通り、ダンジョンに生息する魔物が突然同じ方向へ走り出す現象だ。

 原因不明かつ予測困難。一度出てきてしまったなら魔物の興奮が収まるまで待つか、全滅させるしかない。


 Aランクの冒険者が大勢いればなんとかなるらしいが、これまでにダンジョン・スタンピードによって日本を含む世界各地の都市が破壊された。

 その事実は教科書にも載るほど有名かつ悲惨な災害とされている。


 人間が魔物を憎む理由のほとんどがこれだ。


「もう気にしなくていいのに」

「あれは悲惨な事故だった。シンが無事で良かった」


 凪姉は今にも泣き出しそうな顔で俺の手を握った。


「そんな顔するなよ。……ん?」

「どうした?」


 パフェの到着が遅いことが気になったわけではない。

 胸の奥で、もやもやしたものがうごめき始めたのだ。これが何の知らせなのか分からない。

 ただ、ここに居続けてはダメだ、と直感した。


「凪姉、走れ」

「パフェがまだ」


 凪姉が二の足を踏んだそのとき、外で小規模な爆発が起きて、衝撃波がガラスを揺らした。

 とっさに凪姉に覆い被さるように押し倒し、床に伏せる。

 背後ではガラスの砕け散る音が聞こえた。


「ダンジョン・スタンピードだ。逃げるぞ!」


 起き上がり、凪姉の手を取って走り出す。

 店内から出ると、パニックを起こした買い物客たちがエスカレーターや階段に押し寄せていた。


「どうする、考えろ」

「シン、こっちだ!」


 ダンジョン・スタンピードなら収まるまで安全な場所に身を隠すしかない。

 問題はどこが安全か、ということだ。


「シン!」


 足を止めた俺の手を引っ張る凪姉は震えていた。

 あんな事故を身近で経験したんだ。トラウマになっていても不思議ではない。

 俺がしっかりしないと。


「ウェルヴィ……?」


 俺のスマホを震わせたのはウェルヴィからの着信だった。


「この忙しい時になんだ」

「脱出ルートを送った。暴れている鳥型の魔物は新宿方面には行かないから、そっち側へ逃げろ」

「なぜ、そんなことが分かる!?」

「無事に帰ってきたら教えてやる。必ず帰ってこい」


 通話はそこで切られた。

 涙目の凪姉を引っ張り、人の流れに抗って進む。

 途中、逃げ惑う人たちに声をかけて一人でも多くの人と一緒に新宿方面を目指した。


「佐藤さん!?」

「シンくん……!?」


 友人と買い物中だったのか、途中で遭遇した佐藤さんも一緒になって逃げた。


「本当にこっちでいいのか?」

「あぁ! このまま線路沿いを歩く」


 ビルの連絡通路から見た上空では鳥型の魔物が旋回していた。

 地上では冒険者たちが避難誘導や魔物との戦闘を始めていた。至る所で火の手が上がり、救急車や消防車のサイレンが聞こえる。


 ウェルヴィの言った通り、魔物が俺たちを襲うことはなく、中心街の方へ向かって行くばかりだ。

 半信半疑だった女性客たちは佐藤さんや凪姉の言葉に耳を傾け、やっと俺を信じてくれた。


「電車も止まっているみたいだ。時間はかかるけど歩こう」


 史上最悪の災害から逃げられただけでも幸運だ。

 日曜日の渋谷でダンジョン・スタンピードなんて、甚大な被害が出たことは間違いないだろう。


 途中で佐藤さんと別れた俺は無言で凪姉の手を引き、一人暮らしをしているマンションまで送り届けた。

 時刻はすでに夕方。時間的にも気分的も、これから別の店で夕食を食べる気にはなれず、そのまま別れた。


 せっかくのお出かけが台無しだ。

 お出かけ云々よりも凪姉を危険に晒した魔物たちに腹が立つ。


 なんでよりにもよって今日なんだ。

 俺が巻き込まれたダンジョン・スタンピードから今日まで一度もなかったのに。


 俺は幼少期にウェルヴィと出会っているからか、それとも覚えていないからか、あんな事故に巻き込まれてもそこまで魔物を嫌っているわけではない。

 しかし、今回の一件で人間が魔物を嫌悪し、憎悪を抱く理由が分かった気がした。

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