竜と姫が、月を仰ぎ見る。その4
目が覚めると、裸だった。
理由が訊きたいか?
この宿のセキュリティが低いせいだよ……。
おい!
いくらなんでも俺をいじめすぎだろ!
文字通り血と汗の結晶である服を、ろくに袖も通してないうちに盗まれるとか、それだけで鬱を発症するレベルだぞ!
……とはいえ、この状況でも俺は冷静だった。
なぜかと言えば、詰みすぎているからである。
裸で一文無しじゃ話が進まなさすぎる。
さすがにこれなんかしらのイベントが起きるだろ。
「やられたなあ、あんた」
ほらな。
誰だか知らんが、ひげ面のおっさんがドアの隙間から顔を覗かせている。
哀れんでいるようでいて、その実顔は笑っていた。
なるほどね。飄々としていて酒好きで、ついでに終盤で敵サイドだったことが明かされるタイプね。
……いやまあ、なにが敵なのかはまだわからないけど。
「おいおい。鍵、かけなかったのか?」
「この部屋、鍵なんかないだろ」
「そりゃそうだろ。だから、自前で南京錠をかけるんだろうが」
南京錠!
いまこいつ南京錠って言ったぞ!
いいねえ!
この調子だと「伊達じゃない」とか「仏の顔も三度まで」とか「呉越同舟」とか普通に現地人が使ってきそうだねえ!
俺ぁこういう細かいところ全然気にしてないファンタジーが好きなんだよ……。
「……あんた、随分旅慣れしてないな? というより、ボンボンの息子……って感じがするな。
どうだ? 当たってるか?」
まあたしかに油断しまくってたけど、それを認めるとカモだと思われそうなので適当に答えておく。
「寝落ちしただけだ。血、抜きすぎてさ」
「血? ああ……なんだ、金ねえのか」
ま、まずい! おっさんの興味がだだ下がるのを感じる!
「だ、だけど、俺には力はある! ここで助けておいて損はないが?」
「なんでちょっと上からなんだ……。だがまあ、今日は人手が欲しかったところだ」
よし!
なんかイベントが発生したぞ!
おおかた、このおっさんは冒険者で、厄介なクエストを抱えてるってトコだろうな。
そして俺が超絶チート技能を発揮するって寸法よ……。
親の展開より見た展開。もうすでにちょっと気持ちいい。
「仕方ねえな、服は俺のを貸してやる。ちょっと待ってろ」
「下着は新品で頼む。できればトランクスな。あ、それから飯もついでに」
「ついでに、じゃねえよ。
おまえ、めちゃくちゃ図々しいな……」