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竜と姫が、月を仰ぎ見る。その2


 ――――――。


 目が覚めた。

 こういうときは「目が覚めた?」とか言って顔をのぞき込んでくる美少女の魔法使いとかがいても良さそうなものだけど、ないってマジ?


良さそうなものだけどっていうか、なきゃだめだろうがよ。

 

 木々の間から空が見えた。

 水に浮かぶ発光体のような月が、冷たい表情で俺を見下ろしている。

 

「っ……てて……」


 起き上がろうとして、腹部の違和感に襲われる。

 ……! そうだ、俺……。

 俺、たしか刺されて……。


「あれ?」


 服をめくってみるが、傷はどこにもない。

 吹き出す鮮血を見た気もするが、その痕跡もない。


 …………ああ、なるほどね!

 そっちのパターン(死ぬとその前の時点までタイムリープする系のやつ)ね!

 

 ええ……やだなあ……。


 たしかに諦めずにタイムリープしまくるのってかっけえけど。

 あれって基本的に精神耐久値とか根性値が高くないと活かせない能力なんだよな……。

 

 もっとわかりやすい能力が良かった。

 普通に魔力値が異常に高いとか、デメリットに見えるけど使い方によっては有用なスキルとか。


「で、今はいつだ……?」


 “いつだ?”っていうのは、あとどれくらいでさっきの男たちと王族貴族風の女の子が来るのかって意味である。

 たぶんタイムリープだろうからもうそれ前提で話を進めるぞ。

 さっきの「事件発生」が昼で、いまが夜……。

 ということは、ハッピーエンドを迎えるために必要な仕込みの時間が結構あるってことだ。

 

 …………うーん、ダルい!

 

 タイムリープものって、この「解決に必要な情報収集&準備期間」がいっちゃんダルいんだよな。

 リゼロとかでも結構読み飛ばすもん、俺。

 いやまあ、絶望的な状況をひとつずつひっくり返すのはおもろいんだけど。

 それ、こんな序盤でやられてもダルくないか?

 

 もっとさくっとさっきの子救って、その子に拾われて世話係に任命されたりして異世界料理を振る舞い農地改革を行い税収効率を上げて馬鈴薯馬鈴薯馬鈴薯……ってかんじで良いじゃんね。


 で、ときどき死に戻りで事件解決。そして上がっていくヒロインズの好感度!


 これがしてえよ俺は……。王道すぎっちゃ過ぎだけどさ……。

 

「はあ……動くか……痛ってて……」


 重すぎる腰となんかジクジクする腹を抱えながら、立ち上がる。

 あのときは確か、男が二人で、剣を装備しているのが一人以上。

 まあ難しいこと考えずに奇襲でも良さそうなモンだけど。


「言うほどいけるか? 奇襲……」


 微妙だな……。

 特に加護みたいなのがある感じもないし、筋力にバフが掛かってないとすれば、俺は並の青年よりは普通に弱いのである。

 まずは武器の調達か――――。


「?」


 ぼーっと考えながら歩いていた俺のつま先が、なにかを蹴った。

 枝でも石でもない、変な感触。


 それは、なにか動物の死骸のような感触だった。


 足元を見る。

 

 白いドレスは赤と混じり、土に汚されていた。

 長い金髪が横顔を隠し、半分開いた唇が覗いている。

 それがなんなのか気がつくのに、体感でかなりの時間を要した。

 

 俺は、叫んだ気がする。

 逃げ出したい気持ちと怖いって気持ちと驚愕が混じり合って、結果的になんか垂直に跳んだ気がする。

 

 気がつけば、尻餅をついてじりじりと後退していた。


「……っんでだよぉ!」


 口の中がいろんな味がする。

 土とか、血とか、胃液とか、鼻水とか。

 そのいろんな味のする唾液を飛ばして、俺は叫んでいた。


「……なんでだよ……」


 こんなはずじゃないだろ……?

 だって俺、死に戻りしてるわけだから……。

 これは最初の事件なわけだから、サクッと解決して終わりのチュートリアルじゃんよ……。

 

 おいおいおいおい、なんでだよ、なにが悪かった?

 いや、なにが悪いっていうか。

 タイムリープじゃ、ないのか?


 ない、よな。そうだよな。分かった、いま分かった。

 だってここに死体があるってことは、時間戻ってねえし。

 じゃあなんだ?

 俺にこの子を救う方法はないのか?


 だったらなんで俺の目の前で死んだんだよ!?

 ってか、だったらあんなヒロインっぽいキャラデザすんなよ! クッソ可愛かったんだぞ!


「落ち着け、落ち着け、落ち着け……」


 ……確かなのは、刺されたけど生きてるってことだ。

 おいまさか、ただ「致命傷喰らっても踏ん張る能力」とか言わないよな?

 だとしたらショボすぎる……ざけんなよ……。


 とにかく……。


 これ以上、ここにいても仕方がない……。

 というか、いたくない……。


 俺は木の幹に手をついて、ようやくの思いで立ち上がった。

 行くあてはないけど、ひとまず馬車の通った跡がついた道を進んでみる。

 たぶん、街があるはずだ。


 それからは……それからは……。


 まあ、なんとかなるだろ。

 辛い展開のあとは気持ちいい展開って決まってるわけだし。


 ……だよな?

 そうなんだよな?

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