竜と姫が、月を仰ぎ見る。その18
ま、まずい……!
こいつが倒れたら上下水道ライフラインが絶たれ、世にも苦しい死に方をするしかなくなる!
「ど、どうしたんだ。具合悪いのか」
「…………」
眉根を寄せ、こくこくと頷いている。
マジで苦しそうじゃん……。
よく見れば顔面は蒼白、額には病的な汗が浮かび、手はぶるぶると震えている。
やっぱ水を出したりする魔法的なアレには代償があるってことなのか。
MP切れ的な。
水のないところでこれだけの……的な。
気づけなかった……というか、たぶん隠していたんだろうけど。
まああからさまにアピールされても俺にできることはないわけだが……。
「どうしよ、どうしよ」
慌てすぎて可愛くないちいかわみたいになっちゃった。でかきも。
せめて背中を撫でてやりたいが、掌が剥き身なのでオロオロに終始することになった。
なんて使えないんだ……俺みたいな人間が社会に出て苦労するんだ……。
「がんばれ! 負けるな!」
精神支援しかできることがない。
頑張るぞ!
「明けない夜はない! 苦しさの先に山頂は見える! 夢はきっと叶う!」
「それ……ウザい……」
「…………すみません」
普通に怒られた。そりゃそうだわね。
「で、マジでどうしたんだ」
「……………………てる」
「え? なに……?」
限界が近いのか、歯の間から絞り出すような声でよく聞き取れなかった。
耳をそばだてる。
「……いま、酒が切れたことによる禁断症状と闘ってる……!」
「…………ああ!?」
想像以上にしょうもない戦いをしていた。
アル中じゃねえか!
いやアルコール中毒は歴とした病気だけどよ。
今そんな闘病すんなよ!
「水は……いつか酒に変わるのか……」
ツラの良い女が儚く囁くから美しい今際の際の言葉に聞こえなくもないが、本質は安酒の瓶底を舐めるおっさんのそれだった。
が、それがなおのこと彼女の苦しみ度数を示しているようにも思える。
……敵視されているとはいえ、いちおう世話にはなっているので、普通に可哀想になってきたな。
手の甲で背中をさすっておく。
拒絶されるかと思ったけどそんなことはなかった。
ちょっとしたデレ部分。
「くそ……不便な身体……」
「ってことは、それ、リーンの本当の身体じゃないのか」
「…………」
そんな露骨に「しまった」みたいな顔しなくても。
こちとら未だに何が起きてるのか分かんないんだから。
何のヒントにもなってねえよ。
「……なあ、いい加減説明してくれよ。
いろいろとさ」
「……それはできない。
あなたは、敵だから」
「敵ねえ……」
と言われてもマジでこっち側にその感覚がないんだよなあ。
俺にとっては「謎に敵視してくる謎の美少女と閉じ込められた」って状況なわけ。
正直ちょっと美味しい展開ですらある。
まあ、このままだと二人とも地獄のような苦しみの中で死ぬことになるから困るけども……。
「……もういい。収まってきたから」
「そうか」
強がりかどうかはともかく、顔色はだいぶマシになったようだ。
俺はおとなしく彼女から離れることにした。