竜と姫が、月を仰ぎ見る。その14
「あなたは、何者ですか?」
テーブルを囲んでいる女――リーンは、俺にそう尋ねた。
正直、ぞっとする。
その声音にはあまりに温度がないからだ。
これに比べたらパチ屋の交換所のババアでさえもっと愛想があるし、ゆっくり霊夢の方が感情を知っているまである。
「……俺の名は、レイヴンだ。
なあ、なんだかわかんないけどさ、俺マジで殺しとかやってな――」
「あなたは、何者ですか?」
俺の言葉を遮って、リーンはもう一度そう尋ねた。
異世界転生にあるまじき緊張感が漂い始め、ストレスに敏感な胃が収縮を始めかける。
「……なあ、マジでなんなんだよこれ。
もしかして、あれか?
あんたがラヴたちを使って、俺をここに呼び出したのか?」
「…………」
「……分かったよ、まずは答えろってことだろ。
俺の本名は石田カイト」
言うべきかどうか迷った末に、
「信じられないかもしれないが……こことは違う世界から来たんだ」
「知っています。あなたは異世界からやってきた存在……」
初めてリーンが、若干肯定的な反応を見せた。
……しかし、いやにあっさり受け入れたな。
すでに異世界召喚的な技術がある世界観……ってことか?
俺がこうして妙な尋問を受けているのも、殺人事件の容疑者は建前で、異世界人だから、か……?
いや分からん……!
あーやだやだ。
こういう「なんの目的があったのかは後で明かされる」系のやつ、マジでダルくて嫌いだ。
話として読んでてもやだし体験しても嫌。
「……頼むから、順を追って話してくれないか?
っていうか、普通に説明を頼みたいんだが」
だが、リーンはそれを切って捨てた。
「あなたにできることは、質問に答えることです」
……じゃないとイベントは進まないってか。
いいだろう。
「分かった。答えるよ」
「あなたの目的は?」
「え……」
「あなたの目的は?」
「――――――…………」
「……はい?」
「…………当面は、俺ツエー展開で気持ちよくなりたい、です……」
改めて口に出すとめちゃくちゃ恥ずかしかった。
リーンの氷点下近かった目線の温度が絶対零度くらいになっちゃった。
「…………あなたの目的は?」
「いや、あの……。
マジで、さっき言ったやつです……」
「…………まあ、あなたの思考を辿れば分かることです」
…………。
まさかとは思うが、心を読めるとか言うんじゃないだろうな。
どうにもそんな口ぶりだが?
だとしたらめちゃくちゃ怖いが?
うあああああああああああああああああ
ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
うひおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
うおおおおおおちん○ま○○セッ○○ちん○ま○○セッ○○ちん○ま○○セッ○○!!
へへっ……。
無料じゃ読ませねえよ……。
俺ァ、女の読心者が出てきたらこうしてやろうと常々思ってたのよ……。
「あなたが“魔女”から連想するものを全て挙げなさい。
私が“止め”と言うまで」
リーンの顔色にまったく変化はない。
まああまり期待していなかったが……。
って、また訳の分からない要求をされたな。
まあひとまず従っておくしかないか。
「えーと……。
魔法、女、ローブ、変な帽子、とがった靴、美少女、無口系ロリ、神秘的、薬、蛙……黒、杖、魔女狩り、中世――」
とりあえず思いつく限り話してみる。
……挙げれども挙げれども、なかなかオッケーが出ない。
一体なにが不満なんだよ。
たぶん、軽く十分くらい挙げさせられたと思う。
「えー……あー……。
ドレミ……セーラー……は、違くて……。
ん~~~……。
プリキュア、ウマ娘……まどマギ……あたしニシンのパイって嫌いなのよね……。
あとは………………ららマジ……?」
「そこまで」
はあはあはあ。
ようやく解放された。
後半、ほぼ一〇〇パーセント伝わってないのばっかだったけど大丈夫か?
いやまあ別にダメでもいいわけだが……。
「……いい加減ネタばらししてくれ。
これ、なんなんだ?
意味深な雰囲気出されても、なんのことだかさっぱり分からん。
お前の目的はなんだ? はっきり言え」
「あなたの想像通りです」
ほーん。
そう返すことで、核心的な部分を想像させようとしてるわけだ。
賢い手っすねェ~~~~。
俺が「核心的なこと」を何も知らないという点を除けばよォ~~~~!