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竜と姫が、月を仰ぎ見る。その1

***




「ここは……一体どこなんだ……?」


 見渡す限りの木々の中で、俺は呆然と呟いた。


 一瞬の出来事であった。

 不登校で引きこもりの俺は、不登校で引きこもりのくせに健康を維持しようと散歩に出かけた。

 世界的にも類を見ない、健康的な不登校の引きこもりになりたかったんだ……。


 家の玄関を開けたところまでは覚えている。

 そして気がつくと森にいた。


「草」


 口頭で草を生やしたが実のところ真顔だった。


 唐突すぎてついていけない。

 なんか見たことのない形をした植物が生えているところを見ると、どうにも単純に森に転送されたわけでもなさそうだ。


「つまり異世界か……」


 俺はIQが2000000ある史上初の生物なので超高速で理解できてしまう。

 うーん、これは異世界転生!

 スマホもポケットに入ってるし間違いない。これでなんやかんや無双しろという思惑が透けて見える。

 

 いや今さら現代知識で無双系かよ、トレンド追えてなさ過ぎだろ、十年くらい実刑喰らってた?

 と思わなくもないが、そういうのは嫌いじゃない。全然嫌いじゃない。むしろ任せてくれよなって感じだ。


 おまえら、俺とスマホで気持ちよくなれ……。俺も気持ちよくなるからよ……。




***




 圏外だったのでスマホは捨てた。充電も切れたし。


 今は普通に森林徘徊中。わかりやすく言えば遭難中。

 特段の力を得ている感覚もないので、スマホを失った今の俺は、はっきり言って魔物の餌以外の何者でもない。


「普通に怖ぇ……!」


 森林は不気味に薄暗く、まだ日があるのかどうかすら判然としない。

 今のところ、危険な動物の気配はないが……慎重に歩みを進めたいところだ。


 つってまあどうせ魔物来たらワンパンで勝つのだろうけどな。


 異世界転生で溢れかえり、零れだした俺TUEEEEE要素が追放と悪役令嬢と婚約破棄をばっこばっこと生み出すこの業界、チュートリアルの派手さと簡潔さで読者を掴んでいきたいところだ。


「――くっ……狼藉者!」


 あっ、そっちのパターン(貴族や姫様をカッコよく救い出したり、痴漢から旧家のお嬢様を救い出すパターンのこと)なんだ……。


 べつにいいけど、ベタすぎじゃない……?

 いいけど……嫌いじゃないから……。

 

 ともあれ突然、ヒロインっぽい声が聞こえたので俺は足音を消して近づいていく。


 わかりやすい構図だった。

 馬車はわかりやすいくらい高級感があって、少女はわかりやすいくらいなんかどっかの高貴な身分っぽくて、そんなん囲んでる男たちは今から俺にやられるモブに違いないのだ。

 というわけで、


「おい、贄ども!!!」


 俺はそう叫んで茂みから飛び出した。

 叫んでから思ったんだが、「おいにえども」って口にすると伝わらない危険性があるな。アニメ化したときとか大丈夫だろうか。声優の技量に期待したい。


「おい……」

「てめえは…………」


 数人が俺を見て、ひそひそと言葉を交わしている。


 場の空気が張り詰めていくが、緊張感はまったくない。

 ただ、これから始まる戦闘にわくわくしている。

 これだけ聞くと戦闘狂のルフィだと思われる可能性があるので一応説明すると、まだ見ぬチートスキルに胸を躍らせているのである。

 おい、おまえらもしてるか? いやまあ、これからの展開はあらすじとかタイトルとかに書いてあるからしてないだろうけど、俺はしてるぞ!


 なんだろうなあ、俺のスキル!

 こんなことなら、あれやっとけば良かった。「ステータス、オープン!」ってやつ。

 いやまあこの世界でできるかは知らんけど――――。

 

「うあっ……!」


 身体の内側から、どん、と音がした。


 車に轢かれたのと同じくらいの衝撃に突如襲われて、肺腑の空気が全て口から漏れた。

 なにが起きた?


「……?」


 ……?

 

 ………………?

 

 ……だけでは状況を理解できないと思うので描写したいのだが、

 

 ちょっとまってほしい、俺も、

 

 なんだこれ、分かんねえ、

 

 血が出てて、

 

 苦し、息が

 

 ああ、ここから逆転するとかそういう、

 

 気持ちわるい、目の前が暗くて、

 

 なんかのチート能力、

 

 すごい力に目覚めるとか、

 

 

 苦しい、苦し――――――。



長編になる予定です。

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