繁華街の女
その後、数日が経過するも何も手がかりを掴めずにいた。
後藤の言う通り、友人関係を探ってみたが特におかしいことはなく、2人は仲良く付き合っていたらしい。
「織屋、昼食でも食べに出るか?」
「はい」
詰まる気分を抱えたまま、署を出て食事処を探しに歩く。
「何が食いたい?」
「……」
「おい、どうした」
「あ、すみません。事件のことを考えてて……どうしても何か矛盾があるような」
繁華街へ出ると、昼食を取ろうとしている人々で混雑していた。
賑やかな街並み。だけど、晴れない気持ちが心の中にある。
足並みが重くなる2人。
その時だった。
「あれ、里香のお兄さん?」
擦れ違い様に、OL風の女性に声をかけられた。
その内容に加賀谷は息を飲む。
「っ!」
「やっぱり。里香のお兄さん、ですよね?」
OL風の女性は肩まである髪を小奇麗に整え、端正な顔立ちで首を傾げた。
確信を持った言葉に加賀谷も織屋も足を止める。
「……はい、里香の兄です。あなたは?」
「私、里香の短大の頃の同級生なんですよ」
「先輩、重要参考人として…」
署に連れて行こう、と言おうとする織屋を加賀谷が止めた。
「あっ、自己紹介が遅れました。鏡敦子っていいます」
「鏡さん。今、里香と連絡取れますか?」
「あー、私たち就職してからほとんど連絡取ってないんですよ。あ、でも連絡先だけは交換してあります」
鏡が薄い桃色のハンドバッグから携帯電話を取り出す。
そして、画面を出して加賀谷に里香の番号を見せた。
「これです。卒業の時のものですけど」
「ありがとうございます。一応、メモを取らせてもらっても?」
「いいですけど…お兄さんならいつでも里香と連絡取れるんじゃないですか?」
「その、里香さんは今ちょっと…」
「妹は行方不明になっておりまして」
加賀谷が里香の連絡先を手帳にメモをしながら返事をすると鏡は心底驚いた。
「えっ!私、先月里香から連絡きましたよ」
「っ!?」
「なんて、なんてきたんですか!」
詰め寄る織屋に鏡は引き気味に話し始める。
「え、久しぶりーって。普通の電話です。今仕事の帰りとか…そういう、時間帯は結構遅かったような…」
「鏡さん、すみませんがあなたの連絡先も控えさせて頂いてもよろしいですか?」
「はあ。構いませんけど」
先月といったら、ちょうど里香が失踪した時だ。
鏡の連絡先をメモした後、2人は昼食をそっちのけで署に帰った。
鏡からもらった里香の電話番号に電話をするが、現在使われておりませんというアナウンスが流れるだけだった…―