ストーカーとの遭遇
ピンポーン
ガチャ、
失踪した里香をストーカーしていた男の家。
出てきたのは50代ぐらいの女性だった。
「はぁい、どなた?」
「っ…あれ、ここは」
「失礼します。静岡県警の加賀谷と申します」
警察だとわかると、女性はドアを閉めようとする。
織屋は咄嗟にドアの隙間に足を入れた。
「いててっ、違うんです!少しお話を聞きたいだけで!」
「帰って!帰ってちょうだい!私の悟ちゃんに罪を被せた警察!」
後藤悟、里香をストーカーしていた人物と同じ名前だ。
となると、この女性はストーカーの母親だと思われる。
「息子さんの件でお話があります」
「加賀谷さん、淡々と話進めないでくださいよ」
「俺は何もしてないっ!」
すると、部屋の奥から男の声が聞こえた。
「悟ちゃん…」
「俺は、俺は本当に何もしてないんだ…」
「失礼します」
母親が腕から力を抜いた隙に室内に上がり込む。
「何もしてないって、君は加賀谷里香さんを…」
「里香は、あれは」
「お母さん。少し悟さんからお話を聞かせて頂きます。何も致しません」
「………」
「あっ、あんた。見覚えがある!」
「ああ、里香の兄だ」
「ああああぁぁっ!なんであんな魔女を産み出した!」
「落ち着いて、悟ちゃん」
「里香さんがなんで魔女なんだ?」
「これを見てくれっ!」
悟が室内に伏せてあった写真立てをその場にいる全員に見せる。
ホコリは被っているが、そこには笑顔の里香と悟が映っている。
「里香?」
「笑ってる…2人で嬉しそうだ」
「俺と里香は付き合ってたんだ」
「そ、それで別れを切り出されてストーカー行為に?」
「違うっ!そうじゃない、違うんだ…。俺達はお互いのことを好いていた。彼氏が出来たことは周囲も知っていたはずだ。だけど、里香が突拍子もなく別れ話を切り出したんだ」
「だから、それが理由でストーカー行為をしたんだろう?」
「事件を迷宮入りさせたいのならもう離さないぞ。どうせあの魔女が何かやらかしたんだろ」
沈黙が流れる…
そして、悟は語り出した。
「別れ話は突然だった。理由は別に好きな相手が出来たという理由だった。誰だと聞いた、聞いたら納得して離れようと思ったんだ…」
悟がじっと加賀谷を睨む。
「そこで里香の家まで別れ話をしながら、相手が誰なのかを聞くためについていったら、あんたにストーカーと間違われた」
「ん?おかしくないですか?里香さん、あなたのことストーカーだって家の前で揉める前に警察に相談に来てるんですよ」
「え、そんな……そんなわけがない。里香とは上手くいってた。別れ話を出されるまでは普通に恋人同士として楽しんでた。なんだったら俺の友達にも聞いてくれていい。あの日までは何もなかったんだ」
「どういうことだ、続きを話してくれ」
「里香はからかうように言ったんだ。『家までついてきたら教えてあげる』って。そこで里香が門に躓いて転んで声を上げた。だから、俺は助けようとした。そこであんただよ。兄のあんたが出てきた」
「なんだって」
「念の為、当時のあなたのお友達の連絡先を教えてください」
「あ……はい」
―…
数時間後、
後藤悟の当時の友人に裏取りをすると、全員が口を揃えて何も問題のないカップルだったと言った。
「…この事件、わからなくなってきました。上手くいっていたなら、どうして里香さんはストーカー相談に?」
「俺が家の前で間違えていたのとは別に、それは確かにおかしいな」
「まるで、これからあなたをストーカーにしますよっていうような…」
「里香はそんな妹じゃない!」
「っす、すみません…」
「手がかり、何か手がかりが欲しい…!」