違和感と事件発生
第五話です!
それでは、本編をどうぞ!
「それじゃあ博士、行ってきます!」
検証の後、時間も遅いから泊まっていけという博士の厚意に甘えさせてもらい、研究所で一泊させてもらった。
幸い、制服も研究所に持っていってもらってたから、登校するのに支障はなかったし。
「行ってらっしゃい!研究所の出口は君の玄関の扉と繋いでいるし、家から出るのと大差ないから安心して」
「ありがとうございます。それじゃあ放課後、また来ますね」
「あぁ、待ってるよ!」
そんな風に博士に見送られながら、俺は研究所から出た。
「あ、おはよう!怜斗!」
「リン!珍しいな…お前が迎えに来るなんて」
博士の研究所から出た俺の前に現れたのは幼馴染のリンだった。
普段は一緒に帰るしかしないのに、珍しいこともあるものだ。
「ちょうどインターホンを押すところだったの。それじゃあ一緒に行こっか!」
「だな…さっさと行こう」
そう言って俺が歩きだすと、リンが腕に抱きついてきた。
「リン、どうしたんだ?いつもは抱きついたりしてこないだろ…」
「怜斗と、離れたくないだけだよ?」
「抱きつかれると歩きにくいんだけど…」
「怜斗は私に抱きつかれるの嫌?」
「嫌ってわけじゃないけどさ…正直、動きづらいから離れてほしい」
「むぅ〜…嫌!絶対離れないからね!」
そう言いながら、リンは抱きしめる力を強めてくる。
同時にリンの胸の柔らかな感触をさらに感じた。
本来なら嬉しいはずなんだけど、今は少し怖い。
(リンって、こんなに積極的?な奴だったっけ?少なくともここまでベタベタしてくる奴ではなかったはず…どうしたんだろう?)
そんな風に考えてみるが答えは出ず、俺はリンを引き離すのを諦めて登校することにした。
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「はぁ…なんかすっごい疲れた…何で登校するだけでこんなに疲れるんだ…」
自分の席に着いた俺は溜め息をつきながらそう口にする。
登校中、周りから嫉妬や羨望、それとは毛色の違う微笑ましいものを見る視線といった様々な視線を向けられて、精神的に疲れてしまった。
「なんだってんだ…それにしても、リンは一体どうしたんだ?」
どうにも、今日のリンは距離が近すぎる。
確かに、前から距離が近い方ではあったが、ここまでではなかったはずだ。
それに今日のリンからは、なんとなく恐ろしさを感じてしまう。
何故かはわからないが、今日のリンはどこかおかしい気がしてならない。
「…俺の勘違いだと良いんだけど」
そんなことをしていると、担任の先生が入ってくる。
そうして、担任の先生から3人の生徒達が病気で欠席したと伝えられた。
驚くことに、欠席した生徒達は俺のことを馬鹿にしていた生徒達だった。
こんな偶然があるだろうか?1人ならともかく3人共、しかも3人共病気で欠席だ。とても偶然とは思えなかった。
「まさか…ね」
そう言いながら、チラリとリンに視線を移す。
「ふふっ…」
視線の先には、ニヤリと笑みを浮かべたリンの姿があった。
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「怜斗、一緒に帰ろう!」
「あ、あぁ…」
リンに声を掛けられ、俺は帰りの準備を進める。
今日1日、いくつもの疑問が頭に浮かび続け、いまいち授業に集中できなかった。
リンはそんな俺の心情も知らず、昼休みにも一緒にお弁当を食べようと言ってきただけでなく、何事もなかったかのように今こうして一緒に帰ろうと言ってきた。
別にリンの行動自体はおかしいことじゃない。なんなら、男が憧れるシチュエーションとも言えるだろう。
だが、欠席した生徒達のことや朝に見たリンのあの笑みのことを思うと、どうにも違和感を覚えてしまう。
もしかして、リンが何かしたのではないか?そんな考えが過る。
いや、さすがにリンもそこまではしないはず…いくらあの生徒達に怒っていたとしてもだ。
俺は半ば自分に言い聞かせるように、そう結論づけた。
「怜斗?どうかした?」
「いや、何でもない…ただ、いつも俺に色々と言うやつがいないから、ちょっと変な感じでな…まぁ、ごちゃごちゃ言うやつがいないのはありがたいけど」
「だよね!あいつら、いつも怜斗を馬鹿にしてたもん。きっと罰が当たったんだよ!」
ざまぁ見ろと言わんばかりにリンはそう口にする。
罰が当たったか…本当にそれだけなら良いんだけど…いっそ、もう少し踏み込んでみるか?
「そうかもしれないな…にしても、嬉しそうだな、リン。まるで自分がしてやったみたいに言ってるし…まさか、やばい呪いとかやったわけじゃないよな?」
「そんなことするわけないじゃない!すこーし、お話はしたけどね!」
「お話か…確かにお話しただけでそんな変わるわけもないか…マジで天罰かもな」
「うん、きっと天罰だよ。あいつらは自分のやったことの報いを受けたんだし」
そう呟くリンの顔は明るかった。
だが、俺にはその明るさが恐ろしかった。
例えるなら、そう…暗い道を照らす光が着いたり消えたりする壊れかけの街灯のようだ。
いつ消えるかもわからない光、消えた瞬間に一瞬で闇に引きずり込まれるような恐ろしさが今のリンにはあった。
(これ以上踏み込むのはやめておくか…)
俺はそんな風に思いながらリンと一緒に下校するのだった。
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「それじゃあまた明日!あ、明日も迎えに行くから!」
「はいはい、了解」
「うん!また明日!」
笑顔で手を振りながら、リンは家に帰っていった。
それを見送った後、俺も家へと帰る。
博士のところに行くついでに、リンのことを相談してみるか。
「お帰り!怜斗君!」
「博士!?えっ、今日の入口はここではなかったはずでは?」
玄関の扉から家に入ると、そこには何故か博士の研究所が広がっていた。
「いやね、君が来るのを待っていようかとも思ったんだけど、待ちきれなくてね!」
「そうだったんですね…まぁ、でも良かった。ちょうど博士に相談に乗ってもらいたかったんです」
「相談?」
首を傾げながらそう尋ねる博士に、俺は今日のリンの様子や休んだ生徒達について話した。
「なるほど…君をいつも馬鹿にしていた生徒達が全員、病欠したと…確かに引っ掛かるな」
「博士もそう思いますか?」
「あぁ。君の幼馴染がやったというのもあり得る話だ…彼女はそんな無茶が出来るだけの魔力量も有しているようだし」
「やっぱり、リンがやったんですかね…」
「うーん、まだ断言は出来ないな…情報が少なすぎる」
「ですね…一旦情報を集めるか?でもどうやって…」
リンに直接聞くというのは流石に不味そうだ…かといって、休んだ生徒達に聞きに行くのも難しいだろう。
そもそも家を知らないし、先生に聞くのも不審に思われそうだ…というか、そもそもそういう個人情報は話しちゃダメだろう。
仮に会えたとしても、まともに話ができる状態とも限らない。
「…こうなったら、やっぱり直接聞くしかないか?やばそうだけど…」
「正直、あまりオススメはできないかな…多分、君の幼馴染は領域を使っていると思う…」
「領域ですか?確か、魔力量がすごく多い人ができるやつですよね…自分と自分の仲間にバフを掛けて、逆に相手にはデバフを掛ける特殊な空間に引きずり込むっていう」
「そうだよ…彼女の魔力量ならそれぐらいは出来ると思う…君が彼女に情報を聞き出そうとした瞬間に、領域に引きずり込まれるなんてこともあり得る」
「なるほど…しょうがない、しばらくは様子を見ることにします。もしかしたら、本当にたまたま3人が同時に休んだだけかもしれませんし」
「それが良いだろうね。さて!そろそろ始めようか!」
「了解です!今日は破魔弾を発射する道具を作るんですか?」
「あぁ、それもある。後は――――――」
博士がそう口にすると同時に、研究所にアラートが鳴り響く。
「なにかあったんですか?」
「このアラートは近くで大きな魔力犯罪が起きた時に鳴るもので、滅多に鳴ることはないんだが…ともかく調べてみよう」
そう言いながら、博士は白衣のポケットから携帯端末を取り出した。
「これは…!どうなってるの!?」
「見せてください」
博士の様子からただならぬ事態であると察し、携帯端末を覗き込む。
そこには、黒いコートのような服を纏った人物達が、争いあっている姿が映っていた。
その人達には見覚えがあった。
「これって、対魔部隊の人達ですよね!?何で、身内で争ってるんですか?」
「わからない…だが、危険な状態なのは間違いない」
「…俺、ちょっと行ってきます!」
「待って!行っちゃだめよ!危険すぎる」
「そうですけど…知ってしまった以上、このまま放置ってわけには…」
「そうだとしても、怜斗君が無理をする必要はない…私は怜斗君がいなくなるのは嫌だ!」
「美希さん…わかった、無理はしない。だけど、流石に何もわからないのは怖いから、チラッと様子を見るぐらいは許してくれません?状況を確認したらすぐに博士の研究所に戻るから」
「た、確かに何もわからないのは怖いけど…でも!」
「俺は魔力が見えますし、チラッと見るだけでも、対魔部隊の人達の様子がわかると思いますよ」
「そ、それは確かにそうだけど…」
俺の言葉に美希さんはとても悩んでいる。
「い、1分だけなら良いよ…」
「さすがにそれは短すぎません!?せめて、10分ぐらいないと、美希さんの能力で現場近くに入口を用意してもらっても、間に合いませんよ!」
「うぅ…!わかった!10分だけ!10分だけね!それを過ぎたらすぐに戻ってきて!オッケー?」
「わかりました!10分経ったら、戻ります!」
「一応、念には念を入れて、いくつか破魔弾を持って行って!まだ発射するやつはないけど、持って行っても損はないから」
「ありがとうございます!」
美希さんにお礼を言いつつ、破魔弾を5個ほど準備をする。
そのまま持って行くと、ふとした拍子に破魔弾が勝手に砕ける可能性があるため、美希さんが用意してくれた特殊なケースに詰めていく。
そして、それをベルトに装着して、準備を整えた。
「よし、それじゃあ行きますか!」
「本当に10分だけだからね!」
「わかってますって!それじゃあ行ってきます!」
「怜斗君、気をつけてね」
美希さんの不安そうな表情を見ながら、俺は現場に向かうのだった。
といった感じの第五話でした!
次回は怜斗の活躍が見られます!多分、おそらく、きっと…
それでは、今回はここまで!ここまでの拝読ありがとうございます!